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聖なる乙女と運命の人  作者: 雨月 雪花
第四章 名もなき小さな村と、一つの決意
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15

 



 結局、宴は夜更けまで続き、外で眠ってしまった人もちらほらと見える。

 あの後、レイクが戻って来てくれたおかげで女性の輪から解放されてからすぐにアルは力の回復をするために誰よりも先に眠りにつくことにしたのだ。

 そして起きたのは仲間達の誰よりも早く起きたために、うーん、と軽く背伸びをする。

 仲間達はヒナタの家に言って眠ったから風邪は引いてはいないと思うが、外で眠ってしまった人達は大丈夫だろうか、と思う。


 ――それだけ嬉しかったということなのだから、仕方ないと言えば仕方ないのかも知れない。


 さすがに注意する気は起きなかったために、村全体を見渡すと数人の村人たちが宴の片付けをしているのが見えた。どうせ、やることもないし、皆が起きてくるまではまだ時間がある。


「手伝うよ」

「え? あ、ありがとうございます。でも、お客様にそんなこと……」

「いいんだよ、やる事もないし、ね?」


 近くに居た女性に声を掛けると、ほんの僅かに頬を赤らめながら礼を述べたものの、ふと思い出したように慌てて言う。

 気にしないで、と言わんばかりに首を横に振るとしゃがみ込んで料理に使われた皿を手に取りながら、少しだけ考えた。

 魔導を使った方が早く片付くのではないのだろうか。

 とは言ってもさすがに魔導を使う程のことのようには思えないし、驚かせるだけな気がしたので大人しく手作業で片付けることを決める。

 皿を重ねながらも隣で後片付けを続けている女性を見て、疑問に思っていたことを問い掛ける。


「ねぇ、一つだけ質問、いい?」

「あ、は、はい! 私で答えられることなら……」

「『タナトス』に襲われた時の状況って……詳しく覚えてる?」

「……いえ、それが……眠っていたのか……覚えて、なくて」

「眠っていた?」

「はい……眠っていたかどうかも分からないんですが、記憶が曖昧で」


 村長から簡単にだけ話を聞いてはいたものの、詳しい話を聞いてみたいと思っていたから問い掛ける。

 女性は少々戸惑いながらも素直に答えれば、アルは気になったようにその単語を聞き返せば、言い辛そうにしながらぽつりぽつりと答えてくれた。


 ――意味が分からない、というのが最初に思ったことだ。


 別に『タナトス』がまるで誰かに操られているように動いているというのは別段驚くことでもない。

 女性に対して礼を述べてから、後片付けをする手を動かしながらも、うーん、と首を傾げる。

 相手のやりたい事が見えて来ない。一体何をして、どんな結果を導き出したかったのかがさっぱり分からない。

 眠っていた、というのも引っ掛かりはするが頭の片隅に置いておけば大丈夫だろう。結局はこの村をどうしたかったのだろうと思いながら、ふと何かに気付く。


(……まさか……?)


 一つの可能性。あり得ないと一蹴出来そうなぐらいの可能性ではあるが、決してゼロとは言えない可能性。

 だけど、そうする理由が分からない。そうして何の意味があるのかがさっぱりと分からない。

 分からないことばかりに、はぁ、と溜息を吐きながらも何枚か重ねた皿を持ち上げて洗い物をしているという場所へと向かう。


(昔からだけど、俺には向いてないよ……本当に)


 こういう考え事をするのは専ら別の人に任せていた昔の自分を呪いたくなりながらも、もう一度溜息をついた。

 こればかりは仕方がない。得手不得手というのが存在するし、自分よりも得意とする人が居たのも確かなのだから。


『そうねー、本当に苦手よね、アルって』

『難しく考えるタイプじゃないものね』

『それが良い所なんじゃないか? 好感が持てて』

『……うん、確かに。アルの良い所』

『思い立ったら即行動、みたいな? 今は良いけど、これから先止めてくれる人が居てくれればいいけどね』

『わたしが居るから大丈夫!』


 アルは持ってきた皿を洗っている人達に渡してから、まだまだ残っている皿を取りに行こうとした時にふと聞こえてきたのは、懐かしい声。

 泣きそうになるぐらい愛しくて、でも二度と聞けないからこそ苦しくて辛くて。

 手を伸ばしても届かない場所に行ってしまったずっと昔の友人達。愛する人。


『いつまでも、ずっと。こんな風に皆でいれたら幸せよね?』


 ――ああ、本当に。


 いつまでもずっと、永遠に、と。そう願えたらどれほど良かっただろう。

 日常を守れるだけの力を身に付けたつもりでも、所詮は″つもり″でしかなかった。

 一度思い出しまうとどんどんと思い出される記憶を振り払うように頭を振り振りながら、ぎゅっと手を握り締めた。


 


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