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聖なる乙女と運命の人  作者: 雨月 雪花
第四章 名もなき小さな村と、一つの決意
68/103

13

 



 リーナが一大決意をした夜は過ぎて行き、次の日。

 軽く朝食を済ませた一行は、アルの言葉により丁度村の中央部分に当たる場所まで来ていた。

 そこは大分開けた場所でアルは確認するように辺りを見回してから、大丈夫そうだと判断して、うん、と頷く。

 その後に改めて仲間達へと視線を向けるのだが、表情が硬い人達が居たために苦笑を浮かべた。


「緊張しなくても平気だよ?」

「何が始まるか知らされてもいないのに、緊張しない方がおかしいだろ」

「え? あー……うん、簡単に言えば毒を取り除くっていう感じかな」

「……毒?」

「そう、『タナトス』の毒」


 一応はそう声を掛けたものの、すぐに返って来たヒナタの言葉には納得せざるを得なかったのか説明するように口を開く。

 その一つの単語が気になったライアンは思わず聞き返せば、アルはと言えばあっさりと返答する。


「と言っても厳密には毒みたいなものって感じなんだけど……浴びさせられただけならまだ何とかな……何?」

「……いや、知らないことばかりだな、と思ってな」

「そうだね……つまりは、死に至る原因もその『毒』にあるんでしょう?」

「まぁ、そういうことになるかな? って言っても『タナトス』に直接襲われたらその『毒』を取り除くことなんて出来ないけどね」

「『聖なる乙女』の力でも、ですか?」

「試したことはあるけど無理だったよ。その辺りはまだまだ解明されてないから、俺でも知らない」


 説明を続けながらも視線が自分に向いていることに気付けば、アルは聞き返すとエメリヤがぽつりと思ったことを呟く。それに同意しながらレイクは考えるように、至った答えを出すと肯定する。

 今現在の状況での『毒』であれば取り除けるのに、直接襲われると取り除けないのはおかしい。

 そう考えたサーシャは何気なくそう問い掛けると、アルは難しい表情になりながらも自分が知っている範囲のことを話す。


 ――つまりは、そこまで万能という訳ではないのだ。『聖なる乙女』の力というのは。


 『タナトス』について解明されていないことは多々あるのは確かだが、それに対抗出来得る力を持つ『聖なる乙女』の力に関しても解明出来ていないことばかりだ。

 力の扱い方を知るだけで、本来の意味合いで知っているのは、もうこの世に存在ただ一人だけなのだろう。

 そこまで考えるとアルはそっと寂しげに目を伏せた時に、ひょこっと横から顔を覗きこまれたために驚いたように目を瞬かせる。


「え……ど、どうかしたの?」

「……ううん、何でもない! とりあえず、やろ? 今すぐにでも出来るんでしょ?」

「あ、ああ、そうだね。……じゃあ、皆は少し離れてて?」


 リーナが顔を覗き込んできたために不思議そうに聞くと、リーナはじーっとアルの顔を見ながらもふるふると首を横に振れば、顔を離して軽く背伸びをしながら促す。

 その様子を見ていたアルは不思議そうなままであったが、こくりと頷いて同意すると仲間達にそう声を掛ける。

 声を掛けられた仲間達は言われた通りに離れ過ぎない程度に距離を取る。それを確認してからアルはリーナへと視線を向けた。


「リーナ、やり方は覚えてるね?」

「もちろん!」


 ″結界″を張る要領ならば問題なく出来る。アルから一応は、とばかりに聞かれたことには自信満々に返事をした。

 返事をした後に集中するようにゆっくりと目を閉じると気持ちを落ち着かせるように一度深呼吸をする。

 ――昨日の夜、決意したことに必要なのは間違いなく『聖なる乙女』としての力。この力がどうして自分が使えるのかは分からない。

 そう言えば聞くのを忘れていたな、と思いながらもぐっと力強く手を握り締める。

 難しいことは考えない。この力があるおかげで、今ヒナタの村を助けることが出来る。そしてこの力があるおかげで、もしかしたら全てを終わらせることが出来るかも知れない。

 今はそのことに感謝をしながらもゆっくりと心の中で呟く。


(……闇を取り除く、浄化の光を……!)


 呟いた瞬間であったろうか、強い白い光がリーナの身体を包み込んだのが分かる。

 それが徐々に大きく広がり始めていることが分かるとアルは満足そうに頷きながらも、少しだけ悲しそうに微笑みを浮かべた。

 でもそれは一瞬のことでゆっくりとアルがリーナに手を翳すと、小さな声で何かを唱える。そうすると白い光が四方へと散っていくのが見える。

 白い光が向かうその先は、周りにある家の中。家の中に白い光が落ちていくと、その家は淡い光で包まれるがその光はすぐに消えていく。


「……光の洪水、ですね……」

「ああ……とても眩くて、それでいてどこか暖かい……」


 神々しささえも感じられるその光景をじっと見ていたサーシャが思わずぽつりと零すと、レイクが同意するように呟く。

 この光が世界を覆おうとする闇を唯一切り裂く光。

 納得せざるを得ない光景にただ、眩しそうに見ていることしか出来ない。


「……」

「エメリヤ、さん?」

「……可能性を感じた、か」

「え?」

「アルが、そう言っていたんだ。……リーナに可能性を感じた、と」

「可能性……」


 その光景を見ている表情があまりにも複雑そうだったのを見て取れたライアンは、エメリヤの名前を不思議そうに呼ぶ。

 ライアンの声に答えることはなく、ぽつりと小さな声で呟く。聞き取れたものの意味が分からなかったために首を傾げると、エメリヤがゆっくりと繰り返すようにもう一度言った。

 エメリヤの言葉を繰り返すように言うと、もう一度リーナへと視線を向けた。

 ――光に包まれる彼女は、今何を考えているのだろうか。多分、暖かな感情なんだろうな、と思う。

 自分には分からない。アルがどういう可能性を感じたかなど、分からない。けど、彼女は確かに″希望″なのだろうと今改めて思った。世界を救うことの出来るたった一つの″希望の光″。そんな彼女に何をしてあげられるのだろうか、ライアンはぼんやりとそんな事を考えた。

 そういう会話がなされているとふっと白い光が消えたのが分かり、アルに支えられるようにしてリーナは立つ。


「……成功、なのか?」

「ああ、してるよ」


 ヒナタが全てが終わったのだろうということを確認するように聞くと、アルは微笑みながら頷いた。

 だけれど変わった様子はどこにもなくて、不安に思ったのも束の間。ふと近くの家の扉が開いたことに気付きそちらへと視線を向ける。


「……ヒナタ、くん?」

「……っ」


 それはもう動くことすら叶わなかった村人の姿で。ヒナタは目を見開かせて、息を飲み込む。

 彼女を筆頭とするように続々と村人たちが家から出て来るのが分かると、ようやく村が救われたのだと実感するとヒナタは、ただ嬉しそうに、どこか泣きそうに微笑みを浮かべたのだった。


 


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