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聖なる乙女と運命の人  作者: 雨月 雪花
第四章 名もなき小さな村と、一つの決意
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11

 



 そこに居た二人の男女の姿を見た時、ライアンとサーシャはふと誰かに重なったことに気付く。

 だがそれはあまりにも曖昧で確信できるほどではなかったことを互いに視線を合わせて確認しながらも、ゆっくりと近付いて行く。

 もう声が聞こえる程に近くなった、という所でようやく彼らは気付いたのか驚いたように二人を見る。


「……え、っと……」

「こんにちは。……この村に御用ですか?」


 気付かれると何か言うべきだと思ってライアンは何か言おうとするが、結局何を言えばいいか分からずに口籠ってしまい。そんな様子を見たサーシャは苦笑を浮かべてから、警戒心を緩めずに微笑みながら問い掛ける。

 まず、この場所から村を見ているということ自体が不自然だ。

 それを追求するべきだとは分かっていても、下手に刺激をして戦闘行為になった場合。不利になる可能性も十分あり得る。

 安全性が確認出来るまでは警戒心を緩めるつもりがなかったサーシャであったが、彼らは予想に反して互いに顔を合わせていた。

 何かを仕掛けて来るような相談をしているというよりは、何と説明すべきか困っているようにさえ見える。


「……あの?」

「……」


 訝しげに感じたサーシャはもう一度声を掛けると、男性の方が困ったような笑みを浮かべた。

 この笑みで誤魔化される訳ではないが、ふと僅かにだけ警戒心が緩んでしまう。――やはり、覚えがある雰囲気だ。

 女性の方がゆっくりと口を開こうとしたその瞬間だったろうか、急に二人が何かを感じ取ったように驚いた表情を浮かべる。


「……? ……誰かが、近付いて、くる?」

「……すみません」

「え……あっ、ちょ……!」


 驚いた表情を見てライアンが不思議そうな表情を浮かべたのも束の間、ふと振り返って首を傾げる。

 サーシャもそれに釣られるように後ろを振り返った瞬間、小さなか細い声が謝罪を口にしたために視線を戻すとそこには姿が消えかかっている二人の姿が見えた。

 慌てて呼びとめようとしたサーシャの声を振り切るように、ふわり、とその場から姿を消してしまう。


「…………」

「魔導、でしょうか? そっち方面は詳しくありませんからねぇ……」

「……何でも出来るんだな」

「みたいですね。まぁ、アルかレイクに聞いてみれば何らかの情報が得られるという可能性も捨てられませんが」


 人の姿が消える瞬間を目の当たりにしたライアンは呆然としたように目を瞬かせることしか出来なかった。

 サーシャは考える仕草をしながらも、ふむ、と思い浮かんだことを口にするのだが全く分からないことであるので困ったように溜息を吐く。

 呆然としたまま呟いたライアンが呟いた言葉に、それには同意せざるを得ないと言った感じに何度も頷きながらも、うーん、と首を傾げる。

 これならば最初から魔導師の二人のどちらかを連れて来るべきだったかも知れない。とは言ってももう終わったことであるのだから後悔しても遅いのだが。

 とりあえずは、戻った後に話を聞いてみよう、と決めながらもふと草を掻き分ける音が聞こえてそちらへ視線を向ける。ふと警戒心を強めたのだが、すぐに見えた姿にほっと安堵の表情を浮かべる。


「レイク」

「ライアンはともかく、サーシャの姿が見えないから探しに来たんだよ。二人が一緒に居てくれて良かった」

「あ、ああ……すみません。そう言えば俺は何も言ってませんでしたね」

「いいよ、多分ライアンに付き添ったんだろう、とは思ったから。……それよりも、誰か居なかった? 微かに魔力を感じたけど」

「感じられるんでしたね……ええ、ちょっと。怪しい二人組が居たのですが……、やはり魔導なのですか?」

「実際に見てないから何とも言えないけど、魔力の流れを感じ取れたから。何らかの魔導を使ったのは確かだと思うよ」

「……となると、かなり強力な魔導師、ということでしょうか……」


 名前を呼ばれたレイクは、そこにサーシャの姿もあったことにほっと安堵の表情を浮かべる。

 そこで言われてようやく気付いたように少々罰が悪そうに謝罪をすれば、気にしなくて良い、とばかりに緩く首を振ってから辺りを見回しながら気になったことを問い掛ける。

 少々驚いたように目を瞬かせたサーシャであったが、聞いた話を思い出せば素直に答えながらも確認をする。

 聞かれたことに対して悩んだ様子を見せたレイクであったものの、うん、と頷いて肯定をするとサーシャは難しい顔をしながらぽつりと零す。

 予想でしかないが多分、彼らのどちらか、また両方はそれなりに強い魔導師なのだろう。つまりはレイクの魔力に気付いたから、逃げたとも考えられる。そういう魔導があるかどうか問い掛けようとサーシャが口を開こうとしたのだが、ふとライアンの様子が気になってそちらに視線を向けてみるとじっとレイクを見ているのが分かる。


「……な、何? ライアン。僕に何か、ついてる?」

「そうか、分かった」

「え、何が?」

「サーシャ、レイクに似てると思わないか? 雰囲気とか、色々」

「……? ……ああ、そう言えば」


 さすがにじっと見続けられると居心地が悪いのかレイクが苦笑交じりに聞けば、ライアンが合点が言ったと言わんばかりに頷く。

 言っている意味が全く分からなかったレイクは不思議そうに首を傾げているのを見ながら、ライアンはサーシャに視線を向けて同意を求めるように聞く。

 最初こそ何の事を言っているか分からなかったサーシャであったものの、すぐに誰の事を言っているのか分かったのか納得したように頷いた。


 ――そうか、確かに言われてみれば似ているかも知れない。


 重なってしまうのも無理はない、と思った後にふと疑問に思う。ならば何故、彼はレイクに似ていたのだろう、と。


「何の話?」

「怪しい二人組の一人……その男の方が、レイクと似ていたな、と」

「……え? 僕、に?」

「雰囲気というか……そうですね、色々似てたように思いますよ。もしかしたら、貴方の探しているというお兄さんだったのか…………レイク?」

「……。兄さんだったのなら、僕の魔力に気付いたはず」


 二人の話している内容が分からなかったレイクが問い掛ければ、ライアンが説明するように言えば思い出すようにしながら、うん、と頷いて答える。

 あまりにも予想外の話に思わず聞き返せばサーシャも思い返すようにしながら、同じように頷いて言いながらも聞いた話を思い出して可能性の一つとして挙げた時だったろうか、若干顔色が悪くなっているレイクに気付いて少し焦ったように名前を呼ぶ。

 しばらく無言で居たレイクであったものの、ぽつりと言葉を漏らすと最初こそその意味が分からなかったライアンとサーシャであったが、あ、と気付く。

 レイクの兄だったというのであれば、何故彼の魔力に気付いて姿を消したというのか。そして行方不明であるはずの兄が、こんな場所で、村を一望出来る場所に居るのか。

 それが気付いたからこそ、何と声を掛ければいいか分からなかったために結局はそれ以上はほとんど何も会話もなく、皆が待っているヒナタの家へと向かうのだった。


 


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