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聖なる乙女と運命の人  作者: 雨月 雪花
第四章 名もなき小さな村と、一つの決意
63/103

08

 



 二手に分かれて村を見て回ったのだが、そこまで大きな村ではなかったために一時間程度で全て見て回ることが出来て村長の家の前で合流を果たす。

 合流した後は軽く報告をし合う程度なのだが、言えるのであれば、村人の様子は全員同じだったということぐらいか。

 予想は出来ていたのだろう、話を聞いて頷いているアルへとリーナは視線を向ける。その視線を感じたアルは、不思議そうに首を傾げる。


「……? どうかしたの? リーナ」

「えっ……あ、ううん、何でもない!」

「……そう? それよりも他に変わった様子とかはなかった?」

「別段気に掛かったことは無かった気がするが」

「まぁ、村を出た時と変わらない様子に見えたけど」


 不思議そうな表情で問い掛けられれば、リーナははっとしたように慌ててふるふると首を横に振る。

 その様子を見てまだ気に掛かる様子ではあったが、とりあえずは、と言わんばかりに仲間達に対して確認を取るように聞く。

 少しだけ考える仕草を見せてまず答えたのはエメリヤで、それには同意するように頷いている様子が見て取れた。ヒナタも全体を思い返しながらも、溜息交じりに呟く。


 ――変わらない様子でいてくれたのが唯一の幸いと言うべきか。


 もしも、症状が悪化していたら最悪の場合は死に至っていたかも知れないし、もしかしたらどうにもならない状態になっていたかも知れない。

 喜んでいいべきことなのか分からなかったためにヒナタはもう一度溜息をついたのを見ながら、うん、とアルは頷く。


「『タナトス』に襲われてこの程度で済んだのは良かったと思うよ。大抵は手遅れの場合だからね」

「……やっぱり、そうなの? 見ただけで分かるもの?」

「分からない場合もあるよ。知性がある『タナトス』ほど隠れるのが上手かったりするからね」

「知性……。知性があるのは弱い『タナトス』だと言っていた気がするが……」

「うん、そう。一般的にはそう伝えられてる、だから分かり難いっていうのはあるかも知れないね」

「……一般的じゃない『タナトス』も居るということですか?」

「……」


 次々と質問されることに対して、アルは簡単に分かり易く答えていく。

 彼らが疑問に思うことはもっともであるだろうし、これからも遭遇する機会が多いことを踏まえれば知っておくことは決して損になることはない。

 だが最後にされたサーシャの質問にだけは、アルは曖昧な微笑みだけを返す。

 それは肯定と取っていいものかどうかが分からなかったために、じっと見つめるものの、答えが返って来ることはなく小さく息を吐く。


「まぁ……、ちょっとリーナには覚えて貰わなきゃいけないことがあるから別行動を取るけど」

「えっ……ま、また何か覚えるの? 難しい?」

「今回は簡単。力さえ発動してくれれば、後は俺が補助するだけだから」

「それなら良かった……」

「別行動を取るのは構わないが……、あまり遠くには行かないようにな?」

「分かってるよ。エメリヤは心配性だなぁ……それじゃ、行こうか? リーナ」

「あ、う、うんっ! 皆は自由に過ごしててね!」


 アルから紡がれた言葉に対して、リーナは僅かに焦った様子で問い掛ければくすくすと小さく笑みを零しながらあっさりと答える。

 簡単だということを聞いてほっと安堵の息を漏らしたリーナを見てエメリヤは苦笑を浮かべてから、注意するように告げる。

 もちろん、というように頷きながらアルはリーナに対して声を掛ければ、慌てて返事をしてからリーナは順々に見ながらそう声を掛けると二人は歩き出す。





 リーナとアルの姿が見えなくなった所で、残った面々は顔を見合わせる。


「とりあえず……、どうしようか? 僕達はすることがある訳じゃないし」

「そうですねぇ……歩きづめだった事ですし、ゆっくりと休みたい所ですね」

「……サーシャは疲れているように見えないが?」

「それはそれ、ですよ。歩き慣れていないレイクは疲れているでしょう?」


 まずは最初に口を開いたのはレイクだった。確かにやる事もなかったために、うーん、と首を傾げて考え始めたのを見ながらサーシャは提案するように言う。

 その言葉を聞いたエメリヤはと言えば、思わずサーシャへと視線を向けてから思ったことを素直に告げれば、彼は否定することなく微笑みながら考えていたことを告げると名前が出たレイクは思わず頷く。

 山歩きというよりは、舗装があまりされていない道を歩くのは確かにいつも以上に体力を消費したような気がする。

 とは言っても疲れているには疲れているが、彼らよりは体力は削られている、という感じでさほど差はないように感じる。


「……なら、オレの家にでも来るか? 埃っぽい可能性があるけど」

「ああ、そうか、ヒナタの家があるならそれは助かる……ん? 村長と一緒に住んでいる訳ではないのか」

「住んではいないよ。世話にはなってるけど、別々に暮らしてる」

「へぇ……」

「……まぁ、ヒナタの家に早く行きたいという気持ちはありますが。それよりも気になることがあるのですが」


 三人の会話を聞いていたヒナタは、少しだけ考えてから出た一つの提案に対してエメリヤは有難いと言わんばかりに言葉を紡ぐ。

 だがその途中で気付いたように思わず疑問を口にすれば、ヒナタはあっさりとした答えを返し、感心したようにレイクは頷く。

 同じように感心したように頷いていたサーシャであったものの、どうしても気になるのかそう声を掛けるとそのまま、視線をある方向へと向ける。

 彼らも同じようにその視線を辿るように見れば、そこにはリーナ達が行った方向とはまるで逆方向を見つめているライアンの姿だ。ここまで一度も口を開いていないのがどうしても気になるらしい。

 大抵、こういう態度を取る時にはライアンが嫌な事を感じ取った――というよりは聞き取った時が多いのだが、今回ばかりはそうでないことを祈るように声を掛ける。


「ライアン? どうかしましたか?」

「……音が」

「え?」

「何かが、森の中を掻き分けるように進んでくる音が聞こえる」

「……!」


 サーシャが意を決して問い掛けると、問われたライアンは視線を逸らすことなく、じっと見たままぽつりと言葉を漏らす。

 その言葉を聞き取ったまではいいが、意味までは掴めなかったために思わずきょとんとした表情になった仲間達に気付くことはなく、言葉を続けるとその言葉の意味が掴めたように驚きで目を見開くと焦ったように、ライアンが見ている方向へと視線を向ける。


「ヒナタ。……ここに人が来ることはあるか?」

「あるけど、滅多にない。……それに、大勢で来ることなんてまず、あり得ない」

「ということは……まさか?」

「……ライアンが居てくれて助かったというべきか、その才能に驚くべきかは分からないが。皆、注意しろ」


 エメリヤがその可能性であって欲しいと願いを込めて聞いたことに対して、ヒナタはキッパリと否定するように言い切る。

 答えを聞いたレイクはもう苦笑を浮かべることしか出来なかったのだが、皆が気付き始めていることを口にするとまず最初に反応を返したのはエメリヤだった。

 頷きながらもライアンへと視線を向けて、最早称賛するほかにないのだろうか、と思いながらも今はそんな事を考えている場合でもないのが分かるからこそ、全員に対して注意を促す。

 じっとある一点を見つめていると、がさがさと誰もの耳に届くぐらい草を掻き分ける音が聞こえてくる。そして戦闘態勢を整えようとしたその時、最初に見えたのは黒の塊。


「……っ!」

「これはまた、大群、ですね。……或いは、セントラルを襲ってきた量を超える可能性もありませんか?」

「いや、そこまでは多くないとは思うが……さすがに私達だけでは対処しきれないぞ」

「リーナ達を呼びに行く?」

「その時間すら与えてくれなさそうだけど? あっちは」


 黒の塊だったものは、すぐに『タナトス』だと分かれば最初に一歩後ろに下がってしまったのはライアンだった。

 その後に苦笑を浮かべながらサーシャは溜息しか出ないのか、溜息交じりに愚痴を零せばエメリヤはそれを否定しながらも、それでも目の前に居る『タナトス』達の量を見て思わずぽつりと零す。

 下手をすれば村全体を巻き込みかねないために、唯一この状況を打破してくれるだろう彼女達の名前を出したのはレイクであったが、ヒナタは既に銃を手に持ちながら言えばその言葉通りに、まるで意思疎通をしているかのように。或いは、何かに動かされているかのように素早い動きで彼ら五人を『タナトス』達は一気に囲む。

 背中合わせで立つことになった彼らは、追い込まれたことを理解しながらもとりあえずは、現状で出来る範囲のことをやるしかない、と覚悟を決めるのだった。


 


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