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聖なる乙女と運命の人  作者: 雨月 雪花
第四章 名もなき小さな村と、一つの決意
62/103

07

 



 村長との対面を終えたために、一旦家を出る。アルが言うには「何とか出来る」状況らしいが、どうすればいいのかは全く分からない。

 外を出てからずっと考える仕草をしているアルに視線を向けると、ようやく気付いたのか僅かに苦笑を浮かべる。


「とりあえず、状況確認がしたいから……二手に分かれて村を見て回らない? 大きい村ではないし、二手に分かれればすぐに見て回れると思うけど」

「……別にいいけど。どんな風に分かれる訳?」

「俺とリーナは別々。後は……うーん、お好きに……?」


 苦笑を浮かべながら今後のことを提案するように言えば、特に反対意見はないらしく頷き合うもののヒナタがそう口にする。

 そこまでは考えて居なかったアルは最初に決まっていることを言った後に、他の事を思い浮かばなかったために思わず首を傾げてしまう。

 そんな様子に苦笑を浮かべながら残りの面々は顔を見合わせる。


「特に危険はないとは思うが……、万が一のことも考えるか?」

「何も起こらないとは思いますけどねぇ……。エメリヤが言うように万が一のことを考えるなら、そこそこ連係が取れた方がいいのでは?」

「……連係」

「じゃあ、あの時と同じように分かれてみる? セントラルで戦った時と同じように。それだとサーシャがどっちに入れば良いか分からなくなるけど」

「どっちでも良くないか? それこそ。サーシャなら一人で行動した方がやりやすそうに見えるし」

「否定はしませんけどね」


 仲間達の話を聞きながら、既に決まってしまっているリーナは暇そうにその会話を聞いていたのだがふと思ったようにアルへと近寄る。

 近くに来たことに気付いたアルは、どうしたの?と言わんばかりに首を傾げる。


「どうして、あたしとアルが別々なの?」

「ん? ああ……、リーナなら分かると思って」

「何を?」

「『タナトス』に襲われているか、どうかを」

「えー……分かんないよ。さっきだって良く分からなかったのに」

「そう? 今のリーナなら多分分かると思うよ」


 いつもであれば一緒に行動するのが当たり前。そう思っていたために最初に思い浮かんだ疑問がそれだった。

 聞かれたことに対して思わずきょとんとした表情を浮かべたアルであったものの、すぐに納得したようにあっさりとした返答を返す。

 だが一体何のことを言っているか分からなかったために思わず聞き返せば、少しだけ寂しそうに笑いながらアルが答えてくれる。答えを聞いた瞬間に無理だと言わんばかりにふるふると首を横に振るリーナを見て、どこか確信を持っているかのように言い切ってしまう。


 ――どうしてそう思うんだろう。


 『タナトス』に襲われた人を見たのはこれが初めてだ。以前、確か『タナトス』に身体を乗っ取られた人を見たことはあるが厳密には襲われた訳ではない。

 でも確かに、先程村長を見た時、『タナトス』を感じる時の嫌なあの黒い気配を感じなかったような気がする。否、ほんの僅かになら感じた気がしないでもないが、本当に気を付けていなければ気付けないぐらいの弱い感じ。

 もしかしたらそれのことを言っているのだろうか。リーナはアルへと視線を向けて問い掛けようとした時に、後ろから声が掛かる。


「決まったぞ」

「意外と早かったね? もうちょっと揉めるかと思ったけど」

「揉めるような内容ではないだろう」


 エメリヤにそう声を掛けられるとアルはくすくすと小さく笑みを零しながら、僅かにからかいの色を含ませながら言えば思わずエメリヤは苦笑を浮かべてしまう。

 結局聞くタイミングを逃してしまったリーナは、確証が持てないまま別行動を取ることになったのだった。





 アルと行動することになったのは、ライアンとヒナタの二人だ。音に敏感なライアンが居るなら、という理由でサーシャはもう一組の方に行っている。

 村に詳しいヒナタが居てくれるというのは助かる部分があるのか、案内して貰う形でリーナ達とは反対の方向へと歩き出しながら見て回ることにする。

 その間もアルはと言えば、少々難しい顔で何かを考えている様子だった。

 ――自分の予想通りであれば、話に聞いていた時よりは簡単に解決する形であったのは純粋に喜ぶべきことだろう。問題は、この状況を作り上げた存在だ。

 何の目的があって、こんなことをしたのか。村長が言っていた「人影」とは一体誰のことなのか。


(……あれ? 人影……?)


 ここでふと何かに気付く。この村の道中でも、同じように「人影」を見掛けたことを。

 レイクが近しい人の類似した魔力に気付いたという話も。そこまで考えてから、その考えを消すようにふるふると首を横に振る。

 あり得ない訳ではないが、その可能性を考えるのはあまりにもレイクにとっては辛いことになるだろうから。今はその可能性については考えないでおくことにしておきながらも、視線が自分に向いていることに気付いて僅かに首を傾げる。


「……え? 何? 凝視されるようなこと、俺してた?」

「そういう訳じゃないけど。……さっきから何考えてんの?」

「現実には起こって欲しくないようなこと」

「……?」

「ああ、ごめん。でも、気にしないで? 考えるのは一旦止めることにするから」


 ライアンとヒナタの視線がじっと向いていることに気付いたために、アルは思わず苦笑を浮かべる。

 その言葉はふるふると首を横に振って否定するものの、ヒナタはどうしても気になるのか問い掛けると詳しく話す訳にもいかなかったアルは抽象的に告げる。

 全く意味が伝わらなかったためにライアンが不思議そうに首を傾げるので、さすがに悪いことをしたと思ったのか申し訳なさそうに謝りながらも言葉を続けた。

 考えても答えが出ないのであれば、余計なことを考えて、これ以上心配ごとを増やす必要はない。

 今はヒナタの村をどうにかすることだけを考えるべきだと判断しながらも、思い出したようにヒナタへと視線を向ける。


「そう言えば……、今はもう、村長さんしか話せる人はいないんだっけ?」

「……ああ、まぁ、そうだけど。オレが村を出る時にはもう数人ぐらいしか話せなかったし」

「なるほどね」

「『タナトス』には、まだ知られていないことが沢山あるんだな」

「そうだね……、『タナトス』を研究対象に出来るはずもないし。歴史書も詳しく語ることはない。いつまで経っても謎のままだよ、『タナトス』も『闇の支配者』も」

「なら、何で詳しく語ろうとしないんだよ? 実際、経験してるんだろ?」

「……確かに。アルなら分かることも多いんじゃないのか?」


 確認するような問い掛けには、ヒナタはあっさりとした答えを返し。特にその辺りは予想通りだと言わんばかりにアルは頷く。

 その話を聞きながらライアンがぽつりと呟きを漏らすとそれを聞き取ったアルは、肯定するように頷きながらも当たり前のことのように話す。

 歴史書が語るのは、本当に簡単なことだけ。繰り返される歴史を、短く纏めたものばかり。

 戦いを経験したものでさえも歴史を深く語ることはしない。ヒナタとライアンは疑問に思ったことをアルにぶつけるものの、それに対しては苦笑だけで返してそれ以上は何か言うことはしなかった。

 結局は問い詰めようとしても答えが返って来ることはなく、何も知ることは出来ずに村の現状を見て回ることになったのだった。





 先に行動を開始したアル達を見送ってから残りの面々、リーナ、エメリヤ、レイク、サーシャは彼らとは反対方向へと行きながら見て回ることにする。

 とは言っても村に詳しい人が居る訳ではないのであまり遠くまで行くと、戻って来れない可能性がある。

 ――そう思っているのはリーナだけらしく、他の人達は特に迷う可能性を全く考えてはおらず、軽い雑談をしている。


「サーシャは、他の街などにも行ったことがあるんだろう? 『タナトス』の被害については聞いたことはないのか?」

「そうですねぇ……、あまり気にした事もなかったので。覚えている事はほとんどないですね」

「被害に遭ったりはしなかったの? 最近は動きが活発みたいだけど……」

「幸いにもそういう機会はなかったですね。セントラルが初めてですよ、『タナトス』を見たのは」


 他愛のない雑談をしている仲間達の会話を耳に入れながら、リーナは辺りをざっと見回す。

 家の中に入ったりして様子を見た方がいいのだろうか、と思いながらも無断で入るのは憚れる。どうするべきだろう、と考えながらもリーナは何気なく見えた家へと視線を向けると、ほんの僅かに嫌な気配を感じる。

 極々僅かな、微かな気配。それは村長にも感じた気配よりも弱々しいものに感じられたが、同じものだと思って間違いはないだろう。

 そこまで感じ取ってからリーナは、分かることに対して思わず驚きの表情を浮かべてしまい、雑談をしていた彼らも気付いたのか不思議そうな表情をする。


「……? 何をそんなに驚いている、リーナ。特に驚くような話はしていないだろう?」

「何かあった?」

「え? あ、ううん。あたしって本当に『聖なる乙女』なんだなぁって思って」

「……。自覚は無いものですか? 幼き頃からずっと言われて来ているのでしょう?」

「うーん……、確かに聖剣はあったし、アルも居てくれたけど。実際に力を使うようになったのはつい最近の話だから。『聖なる乙女』って言われても実感は湧かないよ」


 エメリヤやレイクから不思議そうに問われれば、リーナは慌てたようにふるふると首を横に振りながらも思ったことをぽつりと零した。

 『タナトス』の気配や、『タナトス』を消し去ることの出来る力。自分にはそれが宿っているのだと言われても、いまいち分からなかった。

 自分の中にある力を自覚するのが難しいというのも分かるが、どうしても疑問に思ったのかサーシャが聞くと素直に答えを返す。

 そもそも、『聖なる乙女』はどのようにして選ばれるのだろうか。聞いた話ではアルが選ぶという話も聞いたことがあるが、アルがどういう基準で選ぶかまでは聞いたことはない。

 特に気にもしていなかったことだが、今更ながらに考える。考えても答えが出るはずがないのだが、アルは質問をしたら答えを返してくれるだろうか。

 うーん、と首を傾げたリーナを見た三人は思わず顔を見合わせる。何を考えているのかが分からないために苦笑を浮かべた。


「考え事をするのは悪いとは言わないけど……足は止めないようにね、リーナ?」

「合流するのが遅くなれば、アル達を心配させてしまいそうですし」

「……そうだな。どちらにしろ、君は余計なことを考えては抱え込むからな。……あまり考え過ぎるな」

「……うん」


 レイクやサーシャの言葉を聞いて同意するように頷きながら、エメリヤは苦笑を浮かべながらも手を伸ばして軽く頭を撫でてやる。

 そんなことない、と反論しようとしたのだがエメリヤの表情があまりにも寂しげだったことに気付いたために反論の言葉を飲み込んでしまったのだ。

 ――どちらにしろ、抱いてしまった疑問の答えを持つのはアルだけだ。聞けそうな時に聞いてみよう、と心に決めながら村を見て回ることにしたのだった。


 


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