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聖なる乙女と運命の人  作者: 雨月 雪花
第三章 銃を使う少年とアサシンと、街の危機
54/103

16

 



「……そっか。……良かった、誰も傷付くことがなくて」


 二日間眠り続けていたリーナはゆっくりと身体を起こしてから、意識を失った後の話を簡単にだけ聞くとほっと安堵の表情を浮かべた。

 街全体を、という訳にはいかなかったがある程度聞き回った結果。人への被害は全くなく、建物の被害もなかったということで心配していたことは何も起こらなかったということだ。

 倒れた自分のことを最初に気にするべきだろうに、何よりもそれを気にした点に対しては、もう苦笑を浮かべることしか出来なかった。

 その後にようやく軽く身体を動かしながら何にも問題がないことを確認すると、ふと思い出したように少しだけ躊躇いがちにサーシャに視線を向ける。見られたことにすぐに気付いたサーシャは僅かに首を傾げた。


「サーシャって……吟遊詩人、だよね?」

「え? ……ああ、表向きは確かに吟遊詩人ですよ」

「表向き?」

「ええ、表向きです」


 おずおずと話を切りだしたリーナの言葉に、視線を向けられた理由が分かったのかすぐに頷いて肯定をする。

 だがサーシャの言葉に引っ掛かりを覚えたライアンが思わず聞き返せば、それを否定することはなく小さく頷いた。そんなサーシャに対して、やっぱり、という視線を向けたのは最初から疑っていたヒナタで。

 視線の意味に気付けば困ったような笑みを浮かべながらも、隠すことが出来ない状態であるのでゆっくりと口を開く。


「ここには仕事に来てました」

「表向きの仕事……じゃなさそうだな」

「はい。……吟遊詩人は俺の裏の仕事――アサシンの顔を隠すためにやっていることですから」

「アサシンって……、暗殺者? どこかに属していたり?」

「いえ、俺はフリーですよ。正確には属していましたが、抜けたというのが事実ですが」


 エメリヤやアルから聞かれたことに関してはあっさりとした答えを返していきながら、サーシャは僅かに視線を下に落とす。

 アサシンというのは組織で動く人達と、自分のように単体で動く人達に分かれる。とは言っても単体のアサシンにはそれほど大きな仕事が舞い込むこともなく、逆に仕事が入ればいいな、ぐらいの考えだ。

 基本的には単体のアサシンというのは自己流、つまりは訓練されているアサシンには届かないほどの差がある。

 それ故に仕事が入らないのが普通である。もっともそれに当てはまらないのが自分ではあるが、普通アサシンと聞けば怖がるのが普通だ。

 それが当然だと受け入れているサーシャはどんな反応をされるのかと思って視線を上に向ければ、最初に見えたのはどこか納得したように頷いている、ヒナタの姿だ。


「それぐらいなら納得出来る。……胡散臭いからな、アンタ」

「……」

「だからいきなり現れたり、姿消したりできたんだ。なるほどねー」

「……」


 ヒナタの言葉には否定出来ない部分があり、思わず言葉を飲み込むがその後に続いたリーナの言葉には純粋に驚いたように目を見開く。


「怖く、ないんですか? ……簡単に人を殺せるような、男ですよ?」

「……怖いって……何で? サーシャはサーシャだよ。そうでしょ?」

「ああ、驚きはしたが別に怖くはない」

「逆に納得出来る部分があるのも確かだしな」

「まぁ、さすがにサーシャのことを少しも知らなかったら怖がりもしたかも知れないけど」


 驚いたまま、思わず問い掛けるように聞いたサーシャの言葉に対してリーナはきょとんと不思議そうな表情を浮かべたまま、当然のことのように言い切りながら仲間達へと同意を求めた。

 最初に同意をしたのはライアンで、エメリヤ、アルもその後に続く。

 予想外の反応にどう返したらいいか分からなかったサーシャはただ、目を瞬かせることしか出来なかったがすぐに呆れたように、でもどこか嬉しそうに表情を崩した。


 ――どうしてこんなにも、お人好しなんだろう。


 でも、そのお人好しに救われることもあるのか、とそう思ったサーシャは小さな声で「ありがとうございます」とお礼を言ったのだった。

 不思議に思っていたサーシャの正体を知ることが出来て、ほっと一息ついた時だったろうか。ヒナタがどこか覚悟を決めたような表情になり、リーナへと視線を向ける。


「……リーナ」

「え? あ、何? どしたの?」

「前に言われた時には信じなかったが……今はアンタが『聖なる乙女』だって信じる。それを踏まえて一つ、頼みごとがある」

「そう言えば、あたし……というか『聖なる乙女』に逢いたいって言ってたね。頼みごとって?」

「オレの村に、来て欲しいんだ」

「ヒナタの、村?」


 少しだけ硬い声で呼ばれたリーナは少々驚いたように、慌ててヒナタへと顔を向ければ首を傾げた。

 他の面々からも視線を向けられていることに気付きながらも、まずは、と前置きをしてから真っ直ぐに見ながらそう告げると、思い出したように頷くと続きを促す。

 続きを促されたヒナタは一瞬言うことを躊躇ったがすぐに頭を下げながら、頼むように告げるとその意味が分からずに思わず聞き返す。


「……オレの村は、『タナトス』に襲われた」

「……!」

「唯一、逃げ延びることが出来たオレは、あの状態を打開出来るかも知れない力を持つ『聖なる乙女』に逢うためにここまで来たんだ。……だから……」

「いいよ、行こう」

「え……」

「あたしに出来ることがあるなら、行くよ。わざわざ、逢いに来てくれたんだもんね」


 ヒナタが最初に零した一言には誰もが驚きの表情を浮かべ、その表情を見ながら言葉を続けたヒナタは苦しそうな表情になりながらぎゅっと手を握り締めて声を震わせる。


 ――だから、の後の言葉を紡ぐことは出来なかった。


 色々な想いが混ざり合って、何を言うべきかも分からなくなっていたヒナタの耳に届いたのはリーナの、了承の声。

 思わず顔を上げたヒナタの視界に入ったのは、柔らかな笑顔を浮かべているリーナで。その笑顔が、大丈夫、と告げているようでヒナタは不意に泣きそうになると慌てたように頷く。

 ヒナタの様子を不思議そうに見ていたリーナであったが、ふと勝手に行き先を決めたことに今更ながらに気付くとそろっと仲間達へと視線を向ければアルとエメリヤは呆れた表情で溜息を吐いて、ライアンだけは表情を僅かに緩ませながら頷いている。


「……う……ごめん、なさい」

「はぁ……、いいよ、もう。リーナらしいと言えばらしいし……このまま、放っておくのもどうかと思うし、ね?」

「ああ。呆れているのは事実だけどな」

「リーナがそう決めたなら、俺はその手伝いをするから」

「ありがとう、皆!」


 申し訳なさそうな表情を浮かべて謝るリーナの姿を見ると、深々と溜息を吐きだしつつアルはもう諦めたような笑みを浮かべながら告げればエメリヤへと同意を求める。

 肯定するように頷きながらもエメリヤはきちんと付け加えるように言えば、嬉しそうな表情になり掛けていたリーナは肩を落とす。だがその後に続いたライアンの言葉に救われたかのように顔を上げれば嬉しそうな笑みを浮かべる。

 目の前で交わされるそんな会話を微笑ましそうに、だがどこか羨ましそうに見ていたサーシャは少しだけ考える仕草を見せる。そして何か思い付いたように口を開き掛けたが一瞬躊躇い、だがゆっくりと言葉を紡いだ。


「ヒナタの村へ、行くんですよね? ……良ければ、俺も連れていっては、貰えませんか?」

「……サーシャも?」

「はい。仕事は一段落しましたし……君達と一緒に居たいと、思いまして」

「いいよ! 心強いもんね!」

「即答過ぎ……。ま、オレに否定する権利はねぇけどさ」


 少しだけ言い辛そうに紡がれた言葉にはリーナはあっさりと承諾すると、ヒナタは思わずぽつりと零しながら苦笑を浮かべた。

 あまりにも早い答えにサーシャはまた驚いてしまったが、ふと嬉しそうな微笑みを浮かべた。

 他の三人はと言えば顔を見合わせて、仕方ないか、と言わんばかりに微笑んでいたのだった。

 そして念のためにもう一日休んでから、一行はセントラルから出発をする。新たな仲間と共に歩くリーナの表情には、笑顔だけが浮かんでいて。それを遠くから見ていた一つの視線は嬉しそうに表情を緩ませながら、ふわり、とその場から姿を消すのだった。


 


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