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聖なる乙女と運命の人  作者: 雨月 雪花
第三章 銃を使う少年とアサシンと、街の危機
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15

 



 『タナトス』に襲われたセントラルの危機を救った『聖なる乙女』であるリーナはと言えば、気を失っていたためにそのまま、宿へと運ばれた。

 アルが言うには力を使い過ぎたためにしばらくは力の回復が必要だということで、騒ぐのもどうかと思ったために一旦はリーナの傍から離れた。それから一日してもリーナが目覚めることはなく、リーナが眠ったままの状態になってから二日が経過していた。

 さすがに心配になったためかリーナの傍に常にいたアルの他にも、仲間の三人。そしてヒナタとサーシャの姿もそこにあった。

 変わらずに眠り続けている寝顔は穏やか、そのもので。特に危険な状態ではないのが分かり、誰もがほっと安堵の息を漏らす。


「だから、心配はいらないって言ったのに」

「……とは言ってもだな」

「うん、心配になる気持ちも分かるけどね。……あんなにも大きな力を使った事がないのに、いきなり使うから上手く制御が出来なかったんだよ」

「そういうものなの、か?」

「まぁ、一つは増幅と制御の役割を果たす聖剣がないってことも原因の一つかもしれないけどね? 俺は本体に左右されるからどうしても、ね」


 安心した表情を見せた面々に対してアルは苦笑を浮かべながらぽつりと呟きを零すと、少しだけ居心地を悪そうにしながらもエメリヤが反論しようとする。

 もちろん、心配になる気持ちが分からないでもないアルは小さく頷きつつも苦笑を浮かべたまま、リーナへと視線を向けて困ったように言葉を紡いだ。その辺りは良く分からないライアンは思わず聞き返せば、あっさりとした答えが返って来た。


 ――本来聖剣とは、『聖なる乙女』が持つ象徴であり、その他にアルという存在が居ることによって力の増幅、または制御の役目を担うことが出来る。


 他にも聖剣には隠された秘密があると言われているがそれに関しては知っている者は数少なく、本来の意味合いで使われることはほとんどない。

 今現在の状態は聖剣の中にいるアルという存在はいるが、彼自身の本来の役目は上手く果たせていないのが現状だ。


「……。でも、まさか……リーナが『聖なる乙女』マリアリージュ=イヴ=クレスタ様だとは思いませんでしたけどね」

「色々とあるから正体は隠そうっていう話になってたからね。……隠してたのは悪いと思ってるけど」

「いえ、いいんです。俺も隠していることはありましたし、お互い様ですよ」


 眠っているリーナの顔を見ながらも、未だに現実味が湧かないのかサーシャが小さな声で独り言のように呟く。

 それを聞き取ったアルは少々申し訳なさそうな表情を浮かべながら、一応は、と言い訳するように言葉を紡ぐもののサーシャは特には気にしていないと言わんばかりに首を横に振る。

 現実味が湧かないのは本心だが、でも、心のどこかでは妙に納得しているのも事実だった。

 納得というよりは、安心。世界の希望の光である『聖なる乙女』が彼女のような人であって良かったという、そんな安心感。他人のために一生懸命になれて、どんなにも危険な場所であっても自分の身を後回しにして。呆れるぐらいに優しい、そんな彼女で本当に。

 彼女なら或いは、とふと考えていたサーシャであったが何気なくヒナタへと視線を向けると少々複雑そうな表情を浮かべているのが見て取れた。

 そう言えば彼は『聖なる乙女』に逢いたいと話していた少年だと今更ながらに気付く。妙な縁だな、と思いながらも嬉しそうな表情で無いのが不思議に思ったのかサーシャは口を開いた。


「……どうしました? 彼女に、逢いたかったんでしょう?」

「ああ……まぁ。……というかアンタにまた逢うとは思わなかったよ」

「それは俺の台詞でもありますけどね。一応自己紹介を……俺はサーシャ=ノイシュ。旅の吟遊詩人……と言っても納得はして貰えませんでしたね」

「……オレはヒナタ」

「二人は顔見知りか?」

「ええ、まぁ……一度だけ話した程度ですけどね」


 サーシャの疑問には曖昧な返事を返しながらも、ヒナタは改めてサーシャを見ながら何とも言い難い表情を浮かべながら言葉を零す。

 ヒナタの言葉には同意するように苦笑を浮かべて頷きながらも一応は自己紹介をするように言ってはいったが、最後の台詞は困ったような笑みを浮かべて思い出したように言う。それに対しては否定することはなく、ヒナタは名前だけ言うとそんな二人のやり取りを不思議に思ったエメリヤが口を挟むと、肯定するように頷いた。

 そんなサーシャから目を逸らしたヒナタは、もう一度リーナへと視線を向ける。

 嘘だと思っていた彼女の『聖なる乙女は自分だ』という言葉に嘘偽りはなくて。つまりは、自分の力になりたいと思ったという気持ちも嘘ではなかったということなのだろう。

 隠さなければいけなかったはずの事実を話してくれたのだから、そこは信じるべきだと思えた。

 ――だからこそ、自分の目的を話さなければいけないのは自分の役目。ここまで『聖なる乙女』を探しに来た自分の役目であるのだから、どんな理由があっても話すべきだと分かっているが少しだけ尻込みをしてしまう。

 この街を守るために倒れるまでに力を使った彼女に、また自分は無理をさせようとしている。

 言うべきか言わぬべきかの選択肢など残されていないというのに。ヒナタはぐるぐると自分の中で悩み続けていたが、見ていたリーナの瞼かゆっくりと開くのが見て取れて少しだけ慌てる。


「……ん……?」

「リーナ! ……ようやく、目を覚ましたね」

「アル……? あれ……それに、みんなも……」

「二日間も目を覚まさないから心配した」

「……え。……あたし、二日間も眠り続けてたの?」


 ゆっくりと目を開けたリーナの視界に入ったのは一番傍にいたアルの顔で。ほっと安堵の表情を浮かべ、柔らかな笑みを浮かべながら安心したように言葉を紡ぎながらリーナは状況が理解できていないのか少し重い身体を動かして横を向いてみると、そこに見えたのは見知った人達で。

 ライアンも表情を緩ませながらぽつりと言葉を漏らせば、その言葉に驚いたリーナは思わず聞き返せば誰もが頷いて肯定したのだった。


 


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