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聖なる乙女と運命の人  作者: 雨月 雪花
第三章 銃を使う少年とアサシンと、街の危機
47/103

09

 



 情報収集を終えたレイクとの合流も果たしたということで、彼らは見て回るのを一旦終えることにし、ライアンが待っている宿へと帰ることにした。

 その最中でアルは見覚えのある姿が見えたような気がして首を傾げたのだが、他の誰も気付いていないようだったので気のせいだろうと思うことにしたらしく、特に何も言うことはしなかった。

 宿へと戻って来た四人はそのまま、ライアンがいる部屋へと向かう。扉を開いて最初に見えた姿は、剣を真剣な眼差しで見ているライアンの姿だったので邪魔をしてはいけないだろうかと思ったがその前にふとライアンがそちらへと視線を向ける。


「……お帰り、少し遅かったな」

「ああ……ごめんね、お使い頼まれてたのに」

「いや、気にしなくて良い。……遅くなるだろうことは何となく分かってたから」


 仲間達の姿を目に入れるとライアンは時間を確認してから、そう声を掛けるとアルが少々申し訳なさそうに謝る。だが、それに対しては気にしていないとばかりに首を横に振れば予想通りだと言わんばかりに言うと先程まで見ていた剣を鞘へと納める。


「エメリヤさんの剣は特に問題は無かった。一応は研いでおいたけど……」

「わざわざ、すまないな。助かるよ、ライアン」

「……これぐらいしか出来ないから」

「十分じゃない? 専門的な部分もあるだろうし……、僕なんかさっぱりだしね」

「魔導師には必要ないからねぇ」


 鞘へと戻した剣をエメリヤに対して差し出しながら見た結果を告げると、エメリヤはそれを受け取りながらふと表情を緩ませながら嬉しそうに告げる。

 お礼を言われるほどのことじゃない、とふるふると首を横に振りながらぽつりと呟けばレイクはフォローを入れるように言葉を紡ぐと、アルは苦笑を浮かべてうん、と頷く。

 旅をしている時は、各地にある鍛冶屋に行くという選択肢が一般的であるが自分の剣を大切にしている人ほど本当に信頼を寄せている相手にしか、剣を預けたくない考える人も少なくはないだろう。

 そのために自分でその技術を身に付ける者も居るかもしれないが、鍛冶師が旅の仲間に居るということは剣を扱う者にとっては非常に助かるのではないだろうか。そう考えることも出来るのだが、ライアンは肯定し難いのか僅かに首を傾げるだけだ。

 ライアンの様子を見ると苦笑を浮かべることしか出来なかったのだが、ようやく会話が途切れたと思ったリーナはばっと勢い良くライアンの前まで行く。


「ライアンっ!」

「……あ、ああ……何、だ……?」

「あのね、あのね! 沢山話したいことがあってね、次はライアンも一緒に行きたいなーって思うぐらいで! えーっと何から話そうかな……」

「はい、落ち着こうね、リーナ。……あ、これ、頼まれてた物ね」

「ありがとう」


 いきなりのことにライアンは驚いた表情を浮かべて思わず後ろに下がってしまうが、そんなのお構いなしに更に詰め寄りながら他の人が口を挟む間を与えない勢いで話し始めたのだが、それをあっさりと止めたアルはふと思い出したようにライアンに買った物が入っている袋を手渡す。

 袋を受け取って中身を確認してから、自分の求めていたものであることを確認するとライアンはアルに対して礼を告げる。

 話を遮られたリーナは拗ねたように頬を膨らませたのだが、あえてそれには触れずにアルはそのまま、視線をレイクへと向けた。


「レイクの方は、どうだった? 何か良い情報は、手に入った?」

「え? ……有力な情報は何にも」

「……そう」

「でも、見掛けたって人は居たから……とりあえずは、生きてるってことだけは確認できたよ」

「それを確認できただけでも収穫だな。……まぁ、この街は広い。根気強くいけば、有力な情報も出てくるかも知れない」

「そうだと、いいけど」


 気になっていたのだろう、アルが問い掛けるとレイクは一瞬リーナの方を見てから何とも言えない表情になるが、答えた方がいいのだろうと思ったのか緩く首を横に振る。

 そう簡単にはいかないか、と頷いたものの、どこか安堵した表情でレイクが言葉を続けるとエメリヤはふと表情を緩めながら励ますように言えばレイクは、こくりと小さく頷いた。

 さすがにこの話題の時は口を挟めなかったリーナは、レイクの言葉にはほっと安心した表情を浮かべていたがすぐにむぅ、とまた頬を膨らませる。

 その様子を見たライアンはまず三人へと視線を向けてから、リーナに視線を移す。


「……土産話、楽しみにしてる」

「……うんっ! 後で一杯話そうね!」


 ぽつりと小さな声で告げられたライアンの言葉に、リーナは拗ねていた表情を一変させてぱぁ、と顔を明るくさせれば何度も頷きながら満面の笑みを浮かべる。リーナの笑顔を見てライアンは釣られるように笑みを浮かべて小さく頷いた。

 二人の様子を見ていた三人はと言えば、互いに顔を見合わせて苦笑を浮かべあった。リーナの土産話の内容がどれだけ多いか知らないライアンは後々後悔してしまう予感もあるが、それはもしかしたら杞憂なのかも知れないな、と思ったのだった。

 本人達が楽しいのであればそれでいいのだろうし、長くなりそうな場合は自分達が気を付けてやればいいだけの話だ。結局は、二人には甘くなってしまう、という結論が導き出されてしまったことには溜息しか出ないがこれはもう、仕方がないことだ。


「そう言えば、ライアンがお使いに頼んだ物って……何に使う物なの?」

「……ああ、ちょっと……どういう意味合いが適切なのか分からないな……」

「んー……一種の、特殊な道具って所だよね? 鍛冶師とかが使うのが一般的で、稀に普通の人でも使う感じので」

「そう、だな……一般的とは言っても、それほど使う機会がある訳でもないんだが」

「ふーん……?」


 話を聞いてくれるということで満足したのかリーナは笑顔のまま、ふと気になったことを問い掛ける。ライアンが受け取った袋へと視線を落としながら答えようとするが、分かりやすい言い回しが出来なかったために言葉を濁らせる。

 それを聞いていたアルは助け船を出すように自分が知っていることを告げれば、ライアンは小さく頷いて肯定をしつつも付け加えるように言う。

 分かったような、分からなかったようなリーナはきょとんとした表情になるがそれ以上聞いても、どうせ分からないのだろう、と思って聞くのを止める。


「……そうだ、ライアンって鍛冶師ってことは……武器、作れるんだよね?」

「え? ああ……まぁ……。エメリヤさんの剣も鍛える約束もしてるし」

「僕にも、作ってくれない? 短剣みたいなの」

「……? レイク、お前は魔導師じゃなかったか?」

「そうだけど……アルは分かるだろうけど、僕の魔力って普通に比べて桁が違うらしくて。たまに自分でも制御出来なくなる時があるから、出来る限りは使いたくないんだ」


 三人の話を聞いてて気付いたようにレイクが確認するように聞くと、ライアンはこくりと小さく頷いて肯定するとお願いするように言葉を紡ぐ。

 その言葉に疑問を最初に抱いたのはエメリヤで、それを口にする。ラセードの街で確かにレイクは魔導を扱っていたのを実際に目にしているし、かなり強力な魔導師だということも何となくだが分かる。

 疑問はもっともだと思ったレイクであったが苦笑を浮かべながら、説明するように話していく。

 魔導を使う機会は決して多くは無かったが、その多くなかったとしても何度か暴発しそうになった時があった。時に強力な魔導を扱おうとして、制御出来ずに辺り構わず魔導を放ったという経験もある。

 同じ魔導師曰く、「心が不安定である時ほど危険」らしい。魔導というのは奥深いもので、魔導を扱う者でも完璧に解明したものは居ないそうだ。自分も例外ではなく、アルも多分そうであろう。

 レイクの言い分が唯一理解出来たアルは、納得したように頷く。魔導を扱わない者達にとっては分からない悩みらしいが、ライアンは少しだけ考える仕草をしてから小さく頷く。


「分かった。機会を見つけて鍛えよう」

「……ありがとう。持ち歩いてはいるんだけど、適当に買い揃えたモノだから」


 ライアンから良い返事をもらえたレイクはほっと安堵した表情を浮かべた後、嬉しそうに微笑みながら礼を告げるとぽつりと零す。

 急ぐ必要はない、と言外に伝えられたライアンはもう一度頷いた。

 それを確認すると、リーナはうーん、と軽く背伸びをしてから面々の顔を順々に見る。


「よしっ! じゃあ、これから何しよっか」

「何をするって……うーん。普通に考えて……夕食……?」

「それが妥当だな。……この宿は食事付きだったか?」

「食堂、あったような気がするけど。宿の人に聞いてみる?」

「そうだね、そうしようか。じゃあ、早速……? ……ライアン?」

「……」


 これからのことを決めようとリーナが首を傾げて問い掛けると、アルは時間を確認してから最初に思い浮かんだことを口にする。エメリヤはそれに同意するように頷いてから気付いたように聞く。

 レイクは宿の構造をざっと思い出そうとするが記憶は曖昧で、もしも食堂がないのであれば、食事が出来る場所を探しに行く必要が出て来るためにそう提案するとアルは頷いてから行動に移そうと皆に声を掛けようとした時、ただ一人会話に入って来なかったライアンへと視線を向ける。

 視線を向けた先のライアンは僅かに難しい顔をしながら窓から外を眺めているのに気付き、アルが名前を呼ぶもそれに応えることはなく、じっと外を見たままだ。

 もう一度名前を呼ぼうと口を開きかけた時、ライアン以外の他の人達もここでようやく気付く。――何かが起こったのか、外が騒がしいようだった。


 


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