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聖なる乙女と運命の人  作者: 雨月 雪花
第三章 銃を使う少年とアサシンと、街の危機
45/103

07

 



 案外、ライアンからのお使いは簡単に済んだようでアルは小さな袋を持ちながら店から出てきた。


「あ、早かったねー」

「ほとんど人も居なかったしね。……さて、これからどうする? まだ見て回る?」

「回りたい!」

「私は別に構わないが……」


 ひらひらと手を振りながらアルをこちらに呼びながら、アルは微笑みながら小さく頷く。

 その後に面々を順々に見てからこれからのことを決めるように問い掛ける。唯一の目的であったライアンのお使いは無事に終了し、宿に戻るという選択肢も出来た訳だが一応はとばかりに聞くとリーナは即答して答える。

 エメリヤも特に異論はないとばかりに頷きつつ、レイクへと視線を向ける。

 全員の視線が集まったことに気付いたレイクは苦笑を浮かべるが、ゆっくりと立ち上がる。


「僕はちょっと別行動してもいいかな? ここなら少しは情報が集まるかも知れないし……」

「それはいいけど。付き合おうか?」

「大丈夫だよ。今日の所はそんなに頑張るつもりもないし……」

「そう? じゃあ、一旦別行動ってことで」

「うん。また後でね」


 立ち上がったレイクは少々申し訳なさそうにしながら言うと、もちろんとばかりに頷いたアルは首を傾げて聞く。それには嬉しそうに微笑んだレイクであったが、ふるふると緩く首を横に振って断ると安心させるように告げる。

 しつこく言うつもりはなかったのだろう、すぐに分かったとばかりに頷けばレイクは軽く手を振ってから人込みの中に入って行く。

 その後ろ姿を見ていたのだがすぐにリーナは立ち上がってアルとエメリヤの手を取る。


「ってことで、あたし達も出発!」

「……元気だねぇ」

「当たり前っ! 沢山色んなものを見て、ライアンに教えてあげるんだー」

「程ほどにしておけ」


 手を取られたエメリヤは立ち上がり、アルは苦笑を浮かべながら半ば感心したように呟くとリーナは何度も頷きながら言うとえへへ、と楽しそうに笑顔を浮かべる。

 その様子を見たエメリヤはライアンのことを考えて一応はとばかりに声を掛けるも、既に聞こえていないようでリーナは二人の手を引っ張って歩き出してしまう。引っ張られるままに歩き出した二人は互いに顔を見合わせて、困ったような表情を浮かべた。

 それからも飽きることなく、露店などを見て回っていたのだがふと軽い足取りで歩いていたリーナの足が止まる。


「……リーナ?」

「どうした? 疲れたのか?」

「…………。あーっ! あの人! ぶつかった人!」

「うん?」


 立ち止まったリーナを不思議そうに呼ぶアルと、心配そうに声を掛けるエメリヤの声に答えることはなかったリーナはじっとある一点を見ながらいきなり声を上げる。

 突然のことに驚きを隠せなかったものの、二人はリーナが見ている方向へと視線を向けるとそこには店の人と話している少年が居た。


 ――確かにこの街に来たばかりの時にぶつかった少年の姿だ。


 何か聞いている様子だったようだが、リーナの声が聞こえたために何事だと言わんばかりにこちらに視線が向けられる。

 少年はリーナ達を視線にいれた時に、僅かに首を傾げるものの、すぐに思い出したのかはぁ、と溜息を一つつく。そんな態度にむぅ、とリーナは頬を膨らませるが少年はと言えば話していた人に対して一言二言何かを告げるとこちらに近寄って来る。


「また、アンタか。……オレに何か用?」

「え? 用は何も無いけど。ただ、見付けたから」

「……見付けただけで、あんな大声上げられる身にもなれよ」

「はい……、それは考えてませんでした。ごめんなさい」


 話の中断を余儀なくされたためか、少年は少々不機嫌そうにしながら溜息交じりに仕方ないとばかりに問い掛けるもリーナから返って来た答えに、呆れたような視線を向ける。

 その言葉には反論出来なかったリーナは、がくっと肩を落として自分が悪いと言うことをすぐに認めて謝る。


 ――また、年下の男の子に叱られてしまった。


 自分の軽率な行動がそれを招いているのだと改めて痛感したリーナは、落ち込んだ様子を見せるが少年はあえて声を掛けることはせずに呆然と見て来ている残りの二人へと視線を向ける。


「アンタらは……、旅人?」

「ん……ああ、まぁ、そうだが。とりあえず、自己紹介だけはしておこうか。私はエメリヤ。で、こっちが……」

「俺はアル。それで落ち込んでるこの子がリーナ。……君は?」

「ヒナタ」

「……珍しい名前だな? この辺りの出身じゃないのか」

「ああ、まぁ……ここよりは離れた場所。それよりも聞きたいことがあるんだけど」


 少年――ヒナタと軽く自己紹介を交わすと、エメリヤは聞き慣れない名前に僅かに目を見開かせるがそれについては詳しく答えることもせずに、ヒナタはじっと見ながら話を切りだす。

 突然のことに目を瞬かせたが、特に拒否する理由もなかったために視線だけで促すとヒナタは言葉を続ける。


「『聖なる乙女』……知らないか? 聞いた話じゃ、クレスタ王国から家出中って聞いてるけど。その辺で見掛けたとか、そういう話」

「…………」

「それを、聞いてどうするの?」

「オレは『聖なる乙女』に逢うためにここにいる。逢わなければいけないんだ」


 ヒナタから問われたことに関して落ち込んでいたリーナは思わず顔を上げてヒナタへと視線を向け、エメリヤは僅かに目を見開かせて口を閉じてしまう。

 唯一、驚くことはしなかったアルが理由を問い掛けるとヒナタはキッパリと言い切る。

 ――『聖なる乙女』に逢うことが、簡単にできるとは思ってはいない。とは言っても聞いた話ではクレスタ王国まで出向けば、通常であれば普通に逢ってくれるような人であったらしいが。

 一応外見などの特徴も聞いているし、見れば分かるとは思うが今現在、どこに居るか分からない状態では話にならない。

 そのために目の前にいる彼らに問い掛けたのだが、今まで聞いてきた人達とは少し反応が違って。もしかしたら、何かを知っているのかも知れないと思ったヒナタはそれ以上は何か言うこともせずに答えを待つ。

 そんなヒナタを目にいれたリーナは、何気なくアルとエメリヤへと視線を向ける。その意味に最初こそ気付かなかった二人であったが、すぐに気付いたのか駄目だと言わんばかりに首を横に振る。

 だがそんな二人の反対など押し切るようにじっと見つめると、二人は、はぁ、と一つ溜息を吐いた。それが好きにすれば良い、という合図だと取ったリーナは笑顔を浮かべながらヒナタの前に立つ。


「あたしだよ!」

「……はっ?」

「だから、あたし! あたしが『聖なる乙女』なの」

「…………」

「えっ……そ、その反応は、何?」

「嘘をつくならもっとマシな嘘をつけ。外見もまるで違うし……、名前だって違うだろ」

「そ、それは!」

「とてもじゃないが信じられない」

「……うー」


 突然、リーナが手を挙げて『聖なる乙女』だと名乗るとヒナタは呆気に取られたような表情を浮かべてから、はぁ、と深々と溜息をつく。

 てっきり喜ばれるかと思ったリーナはまるで予想とは違う反応に慌てながら、ヒナタは極々当然のことをキッパリを告げるとはっとしたように否定をしようとするが畳みかけられるようにヒナタが付け加えるように言い切ると、リーナは唸り声を上げ、また肩を落とした。

 二人の様子を見ていたアルとエメリヤは互いに顔を合わせて、思ったことは一緒だったのかほぼ同時に溜息を吐きだしたのだった。


 


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