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聖なる乙女と運命の人  作者: 雨月 雪花
第三章 銃を使う少年とアサシンと、街の危機
44/103

06

 



 宿が無事に決まったということで、お待ちかねの自由行動と言わんばかりに今すぐにでも街に繰り出したい様子のリーナとは裏腹に、ライアンは僅かに顔を俯かせて何かを考えているようだ。

 この二人とは対照的に残りの三人は、この後どうするかの話し合いをしている。


「とりあえず、各自自由行動を取る? レイクも目的あるだろうし……」

「そうしてくれるのは嬉しいけど。あの二人を放って置くのは気が引けるというか」

「……そうだな……これだけ広い街だと何が起こるか分からないからな。全員で纏まって動くか?」

「んー……それもいいかもね? ある程度経ったらレイクは別行動してもいいし」

「何か、ごめんね? 僕のことまで考えて貰って」

「構わない。仲間なんだから、遠慮する必要はない」


 まずはアルが提案するように告げるがレイクはちらり、とリーナとライアンを見てから僅かに苦笑を浮かべる。

 エメリヤもその意見には同意するのか数回頷いてから、少し考えるように口を閉じていたが思い浮かんだことを口にする。

 それが妥当な判断だと思ったアルは肯定しつつもレイクへと微笑みかければ、レイクは少々申し訳なさそうに微笑む。

 レイクの言葉にはエメリヤは当たり前のことのようにキッパリと言い切れば、少しだけ驚いたように目を瞬かせたレイクであったもののすぐにふと嬉しそうに微笑みを浮かべる。


「ねー、もう行ってもいい? というかこれ以上待たせるなら行くよ! 勝手に!」

「こら。一人で行動するのは何度も駄目だって言ってるでしょう。とりあえずは、全員で行動する事になったから。……いいよね?」

「あたしは街に出れればそれで問題なしっ! ライアンは?」

「俺は……、宿に残る」

「……え?」


 焦れたリーナは三人に対して声を掛けるのだがもう待ちきれないのか、付け加えるように告げられた言葉にアルは苦笑交じりに嗜めると、決まったことを話す。

 特に一人で行動したいという訳でもなかったのだろう、リーナはあっさりと承諾をすれば考え込んでいる様子のライアンへと声を掛ける。

 声を掛けられてようやく顔を上げると、ライアンは少しだけ迷った様子を見せた後に自分の意見を告げると、仲間の誰もがぽかん、とした表情を浮かべた。

 街に着いた時の様子を思い出せば、ライアンもリーナと同じく街に行きたくて仕方がないのだろうと思っていたので、驚きは更に深まる。

 驚かれている理由が分からないライアンはきょとんと首を傾げる。


「必要無いかも知れないが剣の様子を見ておきたい。……エメリヤさんが使ってる剣も、出来れば」

「私の剣も、か? 助かるが……いいのか?」

「俺は一応は鍛冶師だから。……それで一つ、頼みたい物があるんだが」

「頼みたい物?」

「ああ、多分、この街なら手に入ると思う」


 とりあえずはと言わんばかりに残る理由を話すと、ちらりとエメリヤの方へと視線を向けて申し出るように告げると、自分もだとは思わなかったエメリヤは僅かに驚きの表情を浮かべる。

 それにはすぐに頷いて肯定しつつ、ふと思い出したように頼むように告げるとリーナがきょとんとした表情で問い掛ける。

 ライアンは小さく頷きつつ、欲しいモノを口にすると聞いたことのないモノだったリーナは更に不思議そうに首を傾げる。

 幸いにもアルが知っているようだったので問題は無いということで、ライアンはとりあえずエメリヤの剣だけを預かり、取った部屋へと向かったのだった。

 ライアンが部屋に戻ったのを見送ってから、ライアンを抜いた四人は街へと繰り出すことにする。丁度活気が出て来る時間帯なのか、少ししか経っていないと思うのだが先程よりも街の賑わいが大きくなっているように見える。

 立ち並ぶ店、道端にある露店。どこから見ればいいのか目移りしてしまうのも分かるほどで、リーナは目を輝かせているのが見なくても分かる。

 その気持ちは分からないでもないのでとりあえずは、勝手に一人で行かないように見張りつつ、どうするべきかと思う。ライアンから頼まれたモノを探しつつ、適当に散策するのが一番だろうと思い、アルが口を開こうとする前にリーナが勝手に歩き出す。


「ちょっ……、リーナ!」

「大丈夫大丈夫! それより……見たことないものばっかり!」

「……はぁ」

「まぁ、仕方がないだろう。リーナからすれば物珍しいモノばっかりだからな」

「というよりも僕から見ても、見たことないモノばっかりだけどね? ……さすがにこれほどだとは思わなかったよ」

「交易都市と言われる所以だ。それと同時に偽物も混ざっているという話も聞いたことがあるから、買い物をする場合は気を付けて……」

「ねぇねぇ、あれは! あれは何っ!?」


 勝手に歩き出したリーナを慌てて呼び止めようとするアルであったが、ほぼ聞いていないリーナは忙しそうにあちこちに視線を向けている。止まりそうにもないことをすぐに理解したアルは疲れたように溜息をつくと、エメリヤは苦笑交じりに声を掛ける。

 エメリヤの話を聞いたレイクはざっと辺りを見回してから自分が思ったことを素直に告げれば、エメリヤはこくりと頷いて話しつつも注意を促すように声を掛けるのだがそんなのを聞こえているはずもないリーナは、何かを指差して問い掛けて来る。

 三人は互いに顔を見合わせ、同じ事を思ったのか苦笑を浮かべ合うと先走っているリーナの後を追うように見物に移ることにした。

 結局は彼らが見たい物はほとんど後回しという感じで、リーナが片っ端から見たことのないモノを見付けては聞いたりして、知っている人がそれを答えるというのを一時間ぐらい続いていた。

 疲れたというのを知らないと言わんばかりのリーナの様子に苦笑を深めるほか無かったものの、ふとアルはある一軒の店に目を留める。それに気付いたリーナはぴたりと止まってきょとん、と首を傾げる。


「どうしたの?」

「……いや、ちょっと。ライアンからの頼まれたモノ、見付けたみたいだから買って来るよ」

「着いてくか?」

「大丈夫、そこまで大きいモノでもないしね。ちょっとこの辺りで待ってて?」


 リーナが不思議そうに問い掛けるとアルは店に視線を向けたまま、その理由を話すとエメリヤが一応はと言わんばかりに名乗り出るがアルはふるふると首を横に振って微笑みを浮かべると人込みを割って、見付けた店へと向かって行く。

 残された三人は動く訳にもいかずに、アルを待つため、丁度良く近くにあったベンチに腰を落ち着けることにした。


「それにしても……、見て回ったね」

「半分も見てないと思うがな」

「全然飽きないからすごいよね! ライアンも見て回れば良かったのにー」

「……お前が話してやればいいだろう、見たものとかを」

「そのつもり!」


 レイクがふぅ、と疲れたように息を吐きだしてぽつりと呟くとエメリヤは確かにと頷きながら僅かに苦笑を浮かべた。

 疲れた様子を見せる二人を尻目にリーナは、楽しくて仕方がないと言わんばかりに満面の笑みを浮かべながら感想を述べつつ、宿に残ったライアンを思い出して不満げに呟く。

 ライアンにはライアンなりの理由があったのだろうし、本当は見て回りたかったのかも知れないがそれでも剣を優先してくれたのは感謝するべきことなのだろう。

 元々は自分の剣の修理をするために着いて来てくれたようなものであるし、それには本当に感謝している。だからこそ、尚更に一緒に見て回りたかったという気持ちがあるのだ。それに気付いたエメリヤはふと微笑みを零しながら、思ったことを口にすればリーナはもちろん、とばかりに頷いた。

 話すことがあり過ぎて困るぐらい、とリーナが楽しげに続けるとエメリヤとレイクは顔を見合わせて、宿にいるライアンに対して申し訳ない気持ちになった。もしかしたら今日は眠れない可能性があるな、と彼女の様子を見て直感的にそう悟ったからだった。


 


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