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聖なる乙女と運命の人  作者: 雨月 雪花
第三章 銃を使う少年とアサシンと、街の危機
43/103

05

 



 ラセードの街から出発して数日が経ってようやく、中央の街――別名交易都市セントラルへと到着する。

 まず最初に目が惹かれたのは、街の大きさだろうか。今まで寄った街など比較にならないほど大きいのが目に見えて分かるぐらいに広い。

 そして多くの人が行き交っており、中には見たことのない服を着ている人達もちらほら居る。

 入口付近にも既に店が何軒も連なっており、少し先には露店という形で開いているの見える。

 最初はその人の多さにただただ驚いていたリーナであったが、徐々にその活気に感化されるかのようにぱぁっと顔を明るくさせて勢いよく仲間達へと向き直る。


「じゃあ、早速……!」

「はい、却下」

「…………。えー!」

「あのね、こんなにも広い街なんだから迷子になったら探せないでしょう」

「大丈夫だよ! 迷子になんかならないし……いざとなれば、アルがいるし!」

「そういう問題じゃないよね? ……全く」


 リーナが勢いに任せて提案しようと口を開いたのだが、それを最後まで言わせないようにアルは途中で口を挟んで、内容を聞く前に一刀両断する。

 最初こそ何を言われたか分からずにぽかんとした表情で目を瞬かせていたリーナであったが、すぐに不満そうな声を上げる。

 だがこればかりは譲れないとばかりにアルがキッパリと告げると、リーナは自信満々に言い切ろうとしたが、途中から自信がなくなったのかのように最後に付け加える。のだがアルははぁ、と溜息一つ吐きながら困ったように笑みを浮かべる。

 気持ちは分からないでもない。見に行くことが駄目だと言うつもりも、もちろんない。

 ただ、街に着いてすぐというのが駄目なだけだ。それを分かって貰うのにはどうしたらいいだろうか、とアルが意見を求めるように他の三人へと視線を向けると僅かに目を見開かせる。


「ライアン。……もう少し待ってくれ」

「……」

「ほら、ね? 宿を見付けてからならいくらでも見て回れるし、興味惹かれるものがあった気持ちも分かるけど」

「……え、何。そっちもなの?」

「その、ね? ライアンが何か見付けたみたいで……」


 今すぐにでも歩き出しそうになっていたライアンの腕を掴んでいるエメリヤの姿が最初に見え、その様子を見たレイクが苦笑交じりに説得を試みている。

 同じことが起こっているとは考えもしなかったアルは思わず驚きの声を漏らせば、レイクが苦笑を深めながら理由を話すとアルは改めて辺りをざっと見回す。

 とは言ってもどの店がどんなものを扱っているかは店の近くまで行かないと分からないのだが、ライアンには分かっているのか見える限りの表情は僅かに不満気だ。

 このままではリーナとライアンが勝手に動き出してしまうのも時間の問題だと思ったアルははぁ、と一つ溜息を吐いた時だったろうか。目を離した隙にリーナが歩き出したその時、どんっ、と誰かとぶつかってしまい、衝撃でその場に座り込む。


「リーナっ!」

「いたたっ……、前を向いて歩けば良かった……。あっ! ごめんなさい、大丈夫だった!?」


 その音が聞こえてきたのだろう、誰もが名前を慌てたように呼ぶとリーナはぶつけた場所を擦りながらはっとしたようにぶつかった相手を見上げる。

 そこには顔立ちも幼く、まだ少年と言える男の子が僅かに顔を顰めて立っていた。


(……あれ?)


 リーナは少年を視界にいれた時、僅かな違和感を感じる。どこかで逢ったことがあるという訳でもなく、どこかで感じたことのあるような気配を纏わせているような、そんな感じの。

 もちろん、見られている少年は顔を顰めたまま、不機嫌そうにリーナに対して手を差し伸べる。

 突然のことにきょとん、とした表情を浮かべたリーナであったものの、手を貸してくれるのだということにすぐに気付けば慌てたように少年の手を取って立ち上がる。


「あ、ありがとう」

「……いや。今度からは前向いて歩けよ」

「気を付ける……」

「じゃあな」


 立ち上がったのを確認してから少年は手を離し、リーナはぱんぱんと軽く服の埃を払いながら改めて少年と向き直ってお礼を言う。

 少年はふい、とそっぽを向けば注意するように言葉を紡げば、年下の男の子に叱られたリーナは落ち込んだように肩を落としてこくりと小さく頷く。

 その様子を見てから少年は、すっとリーナの横を通り過ぎて行き、人込みに紛れてすぐに姿が見えなくなる。


「リーナ! 怪我は……」

「あ、大丈夫大丈夫。えへへー……、失敗失敗」

「全く……、目を離すとこれだ。とりあえずは、リーナとライアン。宿を探してから街を見回ることにするぞ」

「はーい……」

「……分かった」

「……色々、大変だったんだね? 二人とも」

「まぁ、ね。レイクも大変になるんだから覚悟しといた方がいいよ」


 少年と別れた後、慌てて駆け寄って来たアルは心配そうに声を掛けるとリーナは、少々照れ臭そうに笑いながら安心させるように言う。

 エメリヤはほっと安堵の息を漏らしたのも束の間、すぐに二人に対して告げれば渋々ながらに二人は頷く。

 やり取りを見ていたレイクは苦笑を浮かべながらぽつりと思わず呟けば、呟きを聞き取ったアルは頷いて肯定しつつも忠告するように言うとレイクは苦笑を深めるだけにしておいた。

 そうして一行はようやく、宿を探すために歩き出すのだがさすがは多くの人が訪れる街とあって宿はすぐに見付かるのだが、その内何軒かは既に満員という感じだった。

 結局、数軒渡り歩いた後に見付けた宿で無事に部屋を取ることが出来たのだった。


 


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