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聖なる乙女と運命の人  作者: 雨月 雪花
第三章 銃を使う少年とアサシンと、街の危機
42/103

04

 



 翌朝。一番早くに起きたのはやはり、アルで焚き火の近くに座りながらぼんやりと空を見上げた。

 空はようやく明るみ始めたところで、早朝というにも早い時間帯のようにも思える。これならばもう少し遅くすれば良かったな、と考えながらもふと物音が聞こえたのでそちらに目を向けると、微笑みを浮かべた。


「やぁ、おはよう、レイク、それにエメリヤも」

「おはよう、アル」

「……今日も早いな」

「まぁ、俺は早起きって感覚はないしね」


 一番最初に出てきたレイクに声を掛けつつも、レイクに続くように出てきたエメリヤにも声を掛ける。

 声を掛けられたレイクは微笑み返しながら挨拶を返し、エメリヤは少しだけ眠そうに小さく欠伸をしつつ、ぽつりと呟きを漏らせばアルは苦笑を浮かべた。

 こういう所は人間っぽくないなと改めて思える。とは言ってもそれは今更なような気がして苦笑を深めながら、もう一度空へと視線を移した。

 明るくなっていく空は、近いうちに必ず闇に覆われる日が来るのだろう。その予兆を示すのは『タナトス』の存在であり、空の明るさだ。

 風の便りで聞いただけの話だが、一部の土地ではずっと暗いままの土地が出て来ているという話も聞く。

 それが嘘であればいいのに、と願う心があるのは事実で。そんな自分を叱咤しつつ、朝ご飯の準備を始めたレイクを見て、何か手伝おうかな、と思った時だったろうか。

 ふと人の気配を感じてアルがそちらに目を向けると同時に、エメリヤも同じ方向へと視線を向けていた。


「人か?」

「人以外は入って来れないしね、安心していいと思うよ」

「ならいいんだが……、話を聞きに行ってこよう」

「ついてこうか?」

「いや、大丈夫だろう」


 エメリヤが警戒するように小さな声で問い掛ければ、アルはこくりと頷いて肯定をする。

 ほっと小さく安堵の息を漏らしながら、やはり気になりはするのかそう申し出ると少し考えてからアルが同行を申し出る。

 だが、人であるというのであれば危険はないだろうと判断したエメリヤはその申し出を断れば、気配を感じた方へと歩いて行く。

 少し距離を歩いた所だったろうか、ようやく人の影らしきものが見え、遠目からでも数人からなる団体であることが分かった。

 珍しいな、と思いながらもエメリヤは近寄っていくと見えたのは少し大きめの馬車。見える限りでは護衛が数人と、依頼者がいるのだろうと思えた。


「あのー……、何か?」

「……っ! あ、ああ、すまない。近くにテントを張っていた者なんだが」

「ああ、そうでしたか。旅人さんですか?」

「まぁ、近い感じだ。……貴方達は?」

「セントラルまで戻る途中なんですよ。商売の方が一段落したので、一度戻ろうと思いまして」

「……なるほど」


 推測を立てていたために注意散漫になっていたエメリヤは突然前から聞こえてきた声に大袈裟過ぎるほどに驚きはするも、訝しげな視線を向けられていることに気付いたために慌てて説明をする。

 説明を聞いた相手は、緊張を緩めたのかほっと安堵した表情を浮かべながら問い掛ければエメリヤは頷いて肯定しつつ、同じように質問をすると商人は微笑みながら答える。

 あらかたの想像は間違っていなかったことを確認しつつ、エメリヤは小さく頷いた。

 そしてふと気付いた。商人であるというのであればそれなりの情報を持っているのではないだろうか。特に聞きたいことがあるという訳ではないが、情報はあるに越したことはない。

 エメリヤは少しだけ考える仕草を見せてから口を開く。


「……最近、変わったことなどはないか? 旅のし始めで、あまり大陸の事情を把握してなくてな」

「そうですねぇ……、物騒な話が多くなってきましたよ」

「物騒な話?」

「ええ、最近になって急激にタナトスが増え始めて色々な場所で目撃情報が出ているという話は良く聞きますし」

「……」

「それに……」

「……?」


 言葉を選びながらエメリヤが問い掛けると商人は少しだけ思い出すように黙っていたが、思い出したように口を開けば困ったように笑みを浮かべた。

 商人はどこか重々しく口を開いて聞いたことのある話を口にすれば、エメリヤは口を閉じた。


 ――確かにその話は間違っていない。


 行く先々で『タナトス』と遭遇しているように見えるかも知れないが、それは確実に数が増えているということに他ならない。

 つまりは歴史上に何度も起こっている『闇の支配者』と『聖なる乙女』の戦いの日は確実に近付いて来ているということの何よりもの証拠。

 僅かに顔を曇らせたエメリヤに気付かなかった商人は続けて話そうとするが、その先を話すのは躊躇われるかのように口を閉じる。

 それに気付いたエメリヤは、考えるのを一旦止めて首を傾げる。躊躇われるようなことが起こっているのだろうか。


「……『タナトス』の増加に比例するように、いくつかの村が被害に遭ったようで……」

「……っ! ……そうか、村だと戦える人はほとんどいないか……」

「はい。……今はまだ村だけですが、これ以上増えるようであれば本当に歴史の繰り返しが起きると皆が心配してます」

「……」

「貴方も十分気を付けて旅を続けて下さいね」

「ああ……、感謝する」


 商人の口から出た言葉にエメリヤは僅かに目を見開かせながら、自分を落ち着かせるように一つ息を吐いてからぽつりと呟きを零す。

 村は基本的には人口が少ない。それ故に戦える人がいる村がある方が稀で、最初に被害に遭うことがもっとも多い場所だとも言える。

 そこまで騎士などを派遣すればいい、などと意見が出ていたのも事実だが、全ての村に派遣できるほどの人数がいないというのが現状であり、それは今も変わっていないのだろう。

 苦々しい表情を浮かべたエメリヤに対し、商人は自らの内にある不安を述べてから苦笑を浮かべつつも心配するように告げれば、エメリヤは僅かに微笑みを浮かべて頷いた。

 それから一言二言会話を交わして別れるとエメリヤは仲間達が待つ場所へと戻っていく。

 既に朝食の準備はあらかた終わっているようだがリーナとライアンの姿は未だに見えず、アルとレイクが何かを話しているのが見えた。


「あ、エメリヤ。どうだった? 何か良い情報聞けた?」

「悪い情報なら聞いたな」

「……悪い情報。……どんな感じの?」


 会話をしていた二人であったがエメリヤが戻ってきたことに気付いたのだろう。微笑みながらアルが問い掛けるとエメリヤは、僅かに苦笑を浮かべて簡潔にだけ告げる。

 レイクが繰り返すようにぽつりと呟けば詳しい内容を促すと、エメリヤは二人と対面する位置に座りながら先程聞いた情報を話すと二人の顔は曇る。

 当たり前と言えば当たり前だ。確実に世界の危機が訪れており、既に『タナトス』に襲われてしまった場所があると知ったら今も眠っているリーナがどう思うか。

 今だけは、起きていなくて良かったと思いながらも今後のルートもきちんと考えなければいけないと改めて思った。

 とは言ってもこれだけの情報では、どこが危険でどこが安全なのか分かるはずもなく、とりあえずはセントラルへの旅路を急ごうという結論を出した時だったろうか。テントから出て来る音が聞こえ、そちらに視線を向ける。


「ライアン。……それにリーナも。おはよう、まだ眠そうだね?」

「…………」

「うぅ……、ねむい……。皆、早起きすぎ……」

「野宿でそこまで寝られるんだから良いと思うけど……。ほら、目覚ましておいでよ。朝食の準備は出来てるから」

「うん……ライアン、歩ける……?」

「何とか……」


 まず見えた姿はライアンで、見える限りは半分以上寝ているように見える。ライアンに続くようにリーナが出て来て、目を擦りつつ時折欠伸をし。

 他の人達が全員起きているのが分かると文句を呟けば、レイクは小さく笑みを零しながらどこか感心するように言葉を紡ぎつつも声を掛けるとリーナは頷く。

 その後にまだ眠っているだろうライアンに声を掛けると、こくりと小さく頷いてふらふらとした足取りで歩き出す。

 そんな二人の後ろ姿を見ていた三人は互いに顔を見合わせて苦笑を浮かべあう。


 ――そう、あの二人はまだ、こんな現実など知らないままでいい。いつか自然と知るときが来るまで。


 自然とそう思いながら、二人が戻って来る間に朝食を食べる準備を始めるのだった。


 


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