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聖なる乙女と運命の人  作者: 雨月 雪花
第三章 銃を使う少年とアサシンと、街の危機
40/103

02

 



「『セントラル』?』

「ああ、レイクの意見を採用しつつ、見聞を広げるには丁度良い場所だろう」


 リーナが輪に加わる前に大体の場所を決め終わっていたらしく、最終的に出た結論を告げるとリーナはきょとんと首を傾げる。

 聞き覚えのある街がある方が驚きなのだが、今回もやはり聞き覚えはなかったらしく聞き返すように言うと、エメリヤは小さく頷いてから改めて地図を指差す。

 それを見るように覗きこむと、エメリヤの指は今現在の位置を指しており、すっと地図上をなぞるように指を動かすとちょこんとある一点を指差す。

 指し示されたのは丁度地図の真ん中に位置する場所だった。


「中央の街――別名交易都市」

「……交易。……各地から様々なものが集まっているの、か?」

「そうだね、見たことないモノばかりかも知れないよ。大抵の品は集まるらしいからね」


 指差しながらエメリヤが説明するように告げると、ライアンがぽつりと言葉を繰り返すように言葉を零しながら気付いたことを口にすると首を傾げた。

 ライアンの言葉を肯定するようにアルが頷きながら小さく笑みを零す。

 そう言う意味では確かに、見聞を広げる、という絶好の場所かも知れない。


「様々な土地から多くの人が訪れ、それ故に情報収集もしやすい、というわけだ」

「じゃあ、レイクの希望もばっちりだね!」

「うん、ありがとう。……でも、良かったの? 僕の意見を採用してくれるのは嬉しいけど、行くべき場所とか……」

「んー……逆にそういう場所があれば楽だったかもね?」


 付け加えるようにエメリヤが告げれば、リーナが表情を明るくさせて笑いながらレイクを見ればふと微笑み返しながらも少々申し訳なさそうにする。

 旅の仲間に入ったばかりの自分の意見を採用して貰えるのは確かに助かる部分はあるのだが、やはり申し訳なさが抜けきらなかったのかレイクはそう問い掛けると、アルは苦笑を浮かべた。

 旅に出ると決めたのはリーナで。本来であれば彼女が行くべき場所などを決めるべきなのだろうが、土地勘はおろか、地図を見てもさっぱり分からない状態だ。

 変な所に行きたいと言われるよりは、仲間達の意見を採用して行き先を決めた方が安全だということ、らしい。

 アルが苦笑交じりに簡単にだけ説明すれば、レイクは納得出来たように頷いてから僅かに苦笑を浮かべた。


「旅の目的とかは、ないの?」

「え? あー……えっとね、一応『運命の人探し』って旅の目的が……」

「……それは私も初耳だが」

「俺も」

「えっ……お、表向きだから! 城を出る理由が欲しかっただけだったというか!」


 納得出来はしたものの、やはり気になったのかレイクが首を傾げて問い掛ければリーナは、一瞬きょとんとした表情になる。

 だがすぐに、どう言うべきかと考えながら思ったことを話せば驚きの表情を浮かべたのはレイクだけではなく、エメリヤとライアンもで。

 言ってなかったっけ、という表情になったリーナであったが慌てたように必死に説明しようとするものの、上手く言えずに途中で言葉が詰まってしまう。

 視線が自分に向いているのに気付いたリーナは最後の頼みとばかりにアルに助けを求めるように視線を向けると、向けられたアルはと言えば困ったように笑う。

 彼らの耳に『運命の人』という言葉がどういう意味合いで届いたのは気になる所だが、それを聞くような雰囲気でもないような気がしたためにうーん、と僅かに首を傾げる。

 話題を逸らすために他の話題を探そうとしたのだが、ふと思い出したようにレイクに声を掛ける。


「とりあえず、この話題は置いておくとして……レイクは? 旅をしなければいけない理由、あるんだよね?」

「ああ……うん。……そうだね、君達には言っておいた方がいいよね。これから一緒に行動するなら」


 問われたレイクはと言えば、肯定するように頷きはするが少しだけ考える仕草を見せた。

 言うべきか言わないべきか、そう考えたもののこれから一緒に旅をする仲間なのだからいずれは知ることになるだろう。

 そう結論づけたレイクは、ゆっくりと旅をする理由を話すことにした。


「まぁ、今までも何度か店を空けることはあったんだけど……探してる人が、いるんだ」

「探してる、人?」

「……そう。ほんの数年前に、行方不明になった兄と、その婚約者である義理の姉を」


 レイクが話した内容で気になった部分をリーナが繰り返すように言えば、レイクは僅かに苦笑を浮かべながら頷いて答える。

 ――行方不明と言うしかないぐらいに、ある日突然に忽然と姿を消した兄。それと同じように義理の姉まで居なくなった。

 姿を消すような、そんな理由はなかったはずなのに。幸せな結婚式が間近に迫っていたはずなのに、二人は姿を消した。

 何か危険なことに巻き込まれたのかも知れない。そう思ったからこそ、何度か近場の街などに行っては目撃情報を聞こうと思っても、見掛けた人すら見付からない。


「手掛かりは全くないのか?」

「今のところは、だけど。……まぁ、そこまで遠出はしたことなかったんだけど」

「……。近くにはいない、ということか」

「それだけはハッキリしてるね。……僕の旅の目的はそんな感じだよ、だから出来るだけ人の多い所に行きたいんだ」

「なるほど、ね。俺達も協力するから、早くに見付かれば良いね」

「……ありがとう」


 レイクの目的を聞くと納得したように頷いた面々であったが、どこか心配げな視線を向ける。それが分かったからこそ、レイクは安心させるように微笑みを浮かべた。

 自分の心配することなど本当は起こっていなくて、ただの失踪ならいいとさえ思ってしまう。

 ただ、居なくなってしまったあの日から嫌な予感が消えない。

 元気で居てくれれば、二人で幸せに居てくれているならそれで構わないというのに。レイクはぎゅっと手を握り締めると、その握り締めた手にそっとリーナは触れる。


「リーナ……?」

「大丈夫っ! 絶対大丈夫だよ!」


 触れられると不思議そうに名前を呼ぶも、リーナは手を重ねたまま、レイクを見上げつつ真剣な表情で繰り返す。


 ――大丈夫だから、絶対に見付かるから。


 触れられた手から伝わって来る感情が、そう物語っていて。レイクはふと表情を崩して、柔らかな微笑みを浮かべたのだった。


 


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