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聖なる乙女と運命の人  作者: 雨月 雪花
序章  聖なる乙女と聖剣と、聖剣を鍛えし鍛冶師
4/103

03

 


 実を言えば、マリアだけに限ったことに言えば鉱山へと足を踏み入れるのは初めてだった。鍛冶屋が沢山ある国だとは言っても、鉱山に用があるのは剣を鍛える鍛冶師か、その鍛冶師に頼まれた極一部の人達ぐらいだろう、とマリアはそう捉えている。

 もしかしたらアルも入ったことはないかも知れないがその可能性はあまりにも低いことはある程度は分かっているつもりなのであえて聞かない。ライアンは鍛冶師であるので聞く必要もないし、先程の様子を見る限りではどの鉱山でどんな鉱石が取れるのかは把握しているように見えた。

 前を歩くライアンに視線を向けながら、凄いなぁ、と感心しつつもマリアは好奇心からぐるりと辺りを見回す。

 鉱山と言われる場所は基本、どの辺りを掘っても鉱石というのは発掘出来るらしい。とは言っても本当に入った場所であれば大抵は掘り尽くされているかも知れないし、鍛冶師が言う「ランク」の低い初心者用の鉱石しか取れないという話だ。

 その話が本当であるかどうかは定かではないがライアンは「奥の方」にと言っていたので、聖剣に似た剣を作る鉱石はやはりそれなりのモノでなければいけないのかも知れない。

 そう思えば結構な無茶を彼には言ったな、と苦笑を浮かべながらそんなことを思った。彼にしてみれば仕事をするだけなのかも知れないし、引き受けてくれたこと自体なんてことない、極々普通のことなのかも知れない。

 だが、ここで引き受けてくれなかったのであれば本当に″アレ″を持って行くしかなくなるので本当に感謝している。


 ――本来であれば。


 そんな事態にならないのが一番良いのかも知れないが、残念ながら自分にはそれほど時間が残されていないのは事実だった。時間さえれば意地でも説き伏せて、″アレ″を持っていく事だって可能だったかも知れないが、もしも、の話などもう起こるはずはない。

 話は進んでいる。本人とはほとんど関係ない場所で、勝手に進み続けている。

 阻止しなければならない、何がなんでも。そのためにはどうしても剣が必要だった。聖剣と同じ効力を持つ、剣が。


「マリア?」

「え? あ……、どしたの?」

「いや、考え事? マリアにしては随分難しい顔だったから」

「むぅ……。私らしくないのは分かるけど。……急いでるのは確かだし、剣がないと困るのも事実だけど……ライアンに無茶言ってるなぁって思って」

「ああ、そういうこと。どちらかと言えば俺の所為でその無茶に繋がってる訳なんだけどね?」

「違うよ! アルの所為じゃない。誰が悪いのかと言えば、お父さんの所為だよ」

「はは……、まぁ、そうとも言えるだろうけど」


 難しい表情をしているマリアに気付いたアルは不思議そうな表情をしながら声を掛けると、はっと慌てたようにマリアはアルの方へと視線を向ける。

 向けられたアルは微笑みながら気になったことを問い掛ければ、マリアは僅かに頬を膨らませながら考えていたことをぽつりと零す。

 ――我儘だと言われても仕方ないのだがライアンはそんな事一つも言わずに、急いでいる自分達に合わせてくれた。断られていたらそれはそれで困るし、意地で頼み込んだかも知れないがあっさりと引き受けて貰えるとは思っていたので申し訳なさの方が込み上げてくる。

 そんなマリアの想いが伝わったのか、アルは苦笑を浮かべながらうーん、と考えるように僅かに上に視線を向けながら告げればマリアはキッパリと即答に近い形で否定をすれば、その後に怒っているのか、拗ねているのか。膨らませていた頬を更に大きく膨らませながらぶつぶつと文句を呟く。

 出てきた人物にアルは何とも言えない表情で乾いた笑い声を上げながら、否定は出来ないようで曖昧な言葉を返す。

 マリアの視点から見れば確かに悪いのは彼女の父なのかも知れないが、父の立場からすればそれはただ、マリアの幸せを考えたが故の最善の行動だったのだろうと思う。

 実際に今の彼女が置かれている状況は本来ならば幸せに満ち溢れていてもおかしくはないと思うのだが、様々な理由が重なりに重なって、今こんな状況に陥っている。

 うーん、と困ったようにアルは軽く首を傾げる。どちらの味方につくと聞かれれば考える間もなく、マリアの味方につくに決まっているし。彼女自身もあの相談を受けるまでは話を進めるつもりだったのだろうというのも何となく予想がつく。

 断る理由がなかったのが本音だろうし、それが最善であることは彼女自身が一番分かっていると思ったから。それでも断らなくてはいけない理由が彼女には出来てしまった。だがただ、断るだけでは今後に問題が生じるということでこの状況が彼女なりに考えて出した結論だというわけだ。

 どちらにしろ、ライアンに迷惑を掛けているのは自覚はしているものの、助かっているのは事実。今は彼の親切に甘えるしかないというのが今の状態で選べる一番の答えだろう。


「……。話をしながら進むのは構わないが、目的のものはもう少し奥にある。少し急がないと日が暮れる」

「え? あ、う、うん、ごめんね!」

「いや……。その、遅くなったら困るんじゃないか?」

「へ? あー……、そうかも。確かに遅くなったら一大事かも」


 二人の話の内容までは聞こえていなかったライアンは、歩くのを止めるわけではないが二人に聞こえる程度の大きさの声で声を掛ければ、はっとしたようにマリアは慌てたように謝る。

 謝られたライアンであったが考えるように眉間に皺を寄せながら言葉を導き出したように紡げば、予想外の言葉だったのかマリアはきょとん、とした表情になりはするも想像するように上を見上げるとうん、と肯定するように頷いた。

 確かに鉱山の中では時間を知る術は少ない。日が暮れる前に鉱山から出ないと、帰る頃には既に辺り一面が真っ暗に、という事態が起こってもおかしくはない。

 さすがに今の状況ではそれは一番困るような気がしたためにマリアは慌てたようにライアンの隣に並ぶ。

 その様子を眺めながらアルは、くすり、と小さな笑みを零しながら自分も少しだけ歩く速度を速めた。


(慣れてないんだろうなぁ、彼)


 初めて出逢った時から、何となくだが人と接することに慣れてないのかな、と思ってはいたものの今、確信をした。

 多分、鍛冶のことにしか興味がないんだろう、彼は。鍛冶のことになれば口数が増えているような気がするし、それ以外のときは多少なりとも苦手そうなイメージがある。

 マリアは初対面であろうが、関係なしに今の状態のまま接していくから彼のような性格の人からとってすれば接し方が難しいのかも知れない。それには少々申し訳なく思いはするも、今更マリアの性格を変えられないことは誰よりも知っているつもりだったので、ただ、ただ、苦笑を浮かべることしか出来なかった。

 大分距離を歩いたという自覚が出た所だろうか。先頭を歩いているライアンがぴたりと歩みを止めると、それに倣うかのように後ろに着いて来ていたマリアとアルも足を止める。

 ようやく目的地に着いたのかな、と思い、ひょこっとライアンの後ろから前の景色を見るために顔を覗かせると見えた光景に、僅かに目を見開き、瞳を輝かせる。


「わぁ……」

「……ん? 何か見えたの?」

「石が光ってる!」


 マリアから感嘆の声が漏れたことに気付くとここからではまだ少し遠いのか、ライアンの前にある景色は見えていないらしくアルは不思議そうに問い掛けるとマリアは少々興奮した様子でキッパリと言い切る。


 ――石が光る?


 自ら光を出す石があるのかも知れないが、マリアにしてみれば珍しいのだろう、はしゃいでいる様子にアルはくすくすと小さく笑みを零しながらライアンへと視線を向ける。

 動かない様子の彼ではあるが視線は見定めるかのように石に注がれており、じっと見ていたものの、ふとようやく見付けたのかライアンはゆっくりと淡い光を放っている一つの鉱石へと近寄っていく。


「それ?」

「ああ。ここにある中では一番適している」

「……ふーん?」


 ライアンが動いたことにより、ようやくアルにも二人が見ていた光景が見えると確かに幻想的な風景だと思った。

 暗闇の中で淡い光を放つ鉱石が多く存在しており、点々とした光や一つに集まって大きな光になっていたりなど様々で、これならばマリアがはしゃぐのも無理はない。

 そんな風にアルが考えていることなど露知らず、マリアは近寄っていくライアンの後ろを着いて行きながら鉱石を掘り始めたのに気付けば問い掛けると、ライアンは迷いなく小さく頷いて答える。一応返事を返したマリアであるものの、彼女の目から見ればどれも同じ鉱石に見える。

 ライアンの作業の邪魔はしてはいけないと思ったのか少し離れて、適当な場所にしゃがみ込むと光を放っている石へとそっと手を伸ばす。

 手を翳してしまえばすぐにでも消えてしまう、本当に小さな小さな光を鉱石は必死に放っている。鍛冶師の目にはどんな風に見えているんだろうと少し気になりながらも、今は聞けなかったためにアルへと視線を向けた。


「ねぇ、アル」

「うん?」

「……アルの目には、どんな光に見える?」

「え? ……うーん」


 名前を呼ばれるとアルは微笑みながら視線を向ければ、僅かに首を傾げながらマリアは何気なく思ったことを問い掛ける。

 問い掛けられた内容に関して驚いた表情を浮かべはするも真剣に問い掛けていることだけには気付けば、考えるように首を傾げながら改めて鉱石へと視線を向ける。


 ――どんな光に見えるか、か。


 多分、そんな風に考えるのはマリアぐらいだろうな、と思う。そう思いながらも暗闇の中で、必死に光を放ちながら何かを伝えようとしているようにも見えたアルは小さく笑みを零してゆっくりと言葉を紡ぐ。


「『聖なる乙女』みたい、かな?」

「え?」

「正確に言えば『聖なる乙女』のおかげで希望を得た人々の、希望の光。一つ一つが淡い光かも知れないけど、ね」


 闇に立ち向かう『聖なる乙女』の光は強過ぎる光かも知れない。その強い光の中では飲み込まれてしまう小さな小さな淡い光かもしれないが、それでも光ろうとする。

 自分に襲いかかっている闇に負けないように。例え光に照らされなくても、必死で生きるように。

 アルの言いたいことが大体は理解出来たのか、マリアはきょとんとした表情を浮かべていたがふっと笑みを浮かべながら、同意するように大きく頷いた。そんな話をしている間にライアンは鉱石を掘り終わったのか手には一つの鉱石が収まっている。

 それに気付いたマリアは鉱石を見るように近寄ると、やはり同じ鉱石に見えたためにライアンの様子を見るように見上げる。


「思った通りの鉱石?」

「……何とも言えないな。問題なく作れはすると思うが」

「あれ、問題でもありそうな感じ?」

「いや……。耐久度が低くなるかも知れない」


 マリアは確認するように問い掛ければ、ライアンは珍しくも眉間に皺を寄せて難しそうな表情でぽつりと答えれば、その言い方が気になったのかアルは首を傾げて更に聞く。

 問題と言う問題ではないかも知れないが、少しだけ言い辛そうにライアンが答えれば思わずマリアとアルは顔を見合わせた。


「旅に出るのなら、適度に修理はした方がいいだろう」

「はーい。って、まだ出来てないのに分かるんだ」

「出来る限りは頑張るつもりだ」


 顔を見合わせたことに気付いたライアンは注意するように言葉を紡ぐと、マリアは素直に返事を返しはするものの、ふと感心したように言えばライアンはそれだけを返した。

 自分の出来る限りのことはするつもりではあるが、それでもやはり、心配はあるのだろう。ライアンの言葉にはマリアはもう一度頷けば、アルはそんな二人に「帰ろうか」と声を掛けてゆっくりと歩き出した。

 マリアはその後に続こうとしつつも何か考えている様子のライアンに気付き、鉱石を持っていない方の手を取れば引っ張るように歩き出す。


「お、おい……?」

「気にしない、気にしない!」

「はぁ……。ライアン、マリアはこう言う子だから」


 手を握られたことに気付いたライアンは動揺を隠せない様子で声をかけると、マリアは楽しげにしながらキッパリと言い切る。

 先に歩き始めていたアルは会話だけで何が起こったのか理解出来れば、どこか申し訳なさそうに返したが咎めるようなことはしなかった。ライアンはどうするべきかと思いはするものの、結局は鉱山を出るまでの間、マリアはずっとライアンの手を握ったまま引っ張り続けるのであった。


 


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