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聖なる乙女と運命の人  作者: 雨月 雪花
第二章 魔導師と恋心と、神隠し
37/103

14

 



「……なるほど、ね」

「…………」


 結局、「神隠し」の事件が解決した日は被害に遭った人達を送り届けたり、事情を説明したりなどで時間が遅くなったこともあり。何よりも疲労が大きかったのか詳しい話は翌日ということになった。

 そして次の日、リーナ達四人はレイクの店へとやって来ていた。

 話をするためなのか店は開けておらず、店内に居るのは五人だけだ。それを確認してから事情を説明した。

 まずはリーナが正真正銘の『聖なる乙女』であること。訳あって旅をしていること。話すことはそれほどないのだが、それでも話すべきだろうということは包み隠さずに話した後にレイクは一応は納得した、と言わんばかりの表情で頷いた。

 気まずさがあるのかリーナは小さく縮こまっており、残りの三人は思い思いに苦笑などを浮かべていた。

 今回はタナトスの出現もあり、止むを得なく、『聖なる乙女』としての力を使う結果となったが出来る限りはこういうことは避けた方がいいのかも知れない。

 ――とは言っても、リーナ自身がそれを良しとしない部分があるだろうから意味は無いと思うが。

 溜息をつきたくなる状況でもあったのだが、とりあえずは今は店内に流れている気まずい沈黙を先にどうにかすべきだろう。そう思いながらも、話題がこれと言ってなかったためにうーん、と考える仕草をした時だったろうか。

 からん、と音を立てて店の扉が開いたのが分かり、店内にいた人達の視線は扉へと注がれる。


「こんにちは。……皆さん、お揃いのようで」

「サーシャ! もう、どこ行ってたの!?」

「え? ……ああ、ちょっと……野暮用がありまして。それより、深刻な話でもしてましたか? 気まずい表情でしたが」


 一気に視線が注がれた中に入って来たサーシャは、僅かに苦笑を浮かべながらざっと見回してから微笑みつつ簡単に声を掛ける。

 その存在に誰よりも先に反応したのがリーナで少々怒ったように問い詰められれば、サーシャは困ったように笑いながら詳しいことを話さずにそれだけ告げた。その後に不思議そうな表情で首を傾げる。

 サーシャの言葉には誰も否定出来なかったようで、また沈黙が訪れるとサーシャは不思議そうな表情のままであったが聞いてはいけないような理由なのだろうと思えば言葉を続ける。


「それでですね、少々急用が出来まして。俺はそろそろ出発します」

「……ああ。だから、挨拶に?」

「ええ、一応は、と思いまして。少しの間でしたが一緒に行動が出来て楽しかったですよ、またこういう機会を持てるのを楽しみにしてます」

「こっちこそ……世話になったな」

「まぁ、またね? 何か、すぐに再会出来そうな予感がするよ」

「俺もですよ。……それじゃ、また」


 店まで来た用件を話せば、ライアンはどこか納得したように頷く。その言葉には同意しながらも、順々に見ていきながらも微笑みながら素直に告げると、エメリヤも感謝を告げる。

 アルはひらひらと手を振りながら何となく思ったことを口にすれば、サーシャも面白そうに笑いながら頷けば手短にであったが別れの挨拶を済ませてまた外へと出て行ってしまう。

 それを見送っていたのだが、サーシャのお陰か、気まずい雰囲気は既になくなっていた。

 しばし考える仕草をしていたレイクであったのだが、ふと小さな溜息を吐くとつけていた黒い手袋をゆっくりと外すとそっとリーナに手を差し出す。


「君がどういう存在であったにしても、助かったのは事実だから。――ありがとう、リーナ」

「え? あ、ど、どういたしまして! ……その、レイク」

「うん?」

「……話さなくて、ごめんね」

「いいよ、君が『聖なる乙女』なら隠すのは当然だと思うから」


 差し出された手を見たリーナであったが、ゆっくりとした口調で感謝の言葉を告げられると慌てたように手を取って握り返す。

 その後にすまなさそうな表情を浮かべながら、ぽつりと一言ずっと言いたかったのだろう謝罪の言葉を漏らしたリーナを見て、レイクは僅かに目を見開きつつも微笑みながらゆっくりと首を横に振る。

 一度、手を握ってからゆっくりと離しながらじっとその手をレイクは見つめた。


 ――やはり、彼女は。


 今まで出会った誰とも違う、そんな予感がする。僅かな興味を抱きながらもふと視線を感じたのかレイクはそちらへと視線を向ける。


「そう言えば……、どうして分かったの? 居場所」

「……ああ、それか。……僕は昔から、触れた相手の感情とか、心の声とかを聞いてしまう『力』があった。自分の意志とは何の関係もなしにだから、極力人には触れないようにしてきた」

「それで、か……。……今のは、平気、なのか?」

「僕も驚くけれど、ね。リーナは平気だよ……暖かな感情ばかりだから」

「……え?」


 アルがずっと持っていたのだろう疑問をようやくぶつけると、レイクはじっと手を見たままの状態で苦々しい表情を浮かべながら溜息交じりに話す。

 納得したようにアルが頷いたのを見ながら、ライアンも頷いたのだがふとレイクへと視線を向ける。

 ライアンの疑問も尤もだと思ったのか苦笑交じりに頷きながら、レイクはリーナへ視線を向けながら柔らかな微笑みを浮かべて素直に思ったことを告げるが本人はよく分からないのかきょとんとした表情を浮かべた。

 その表情を見ながら、気にしなくていい、とばかりに小さく首を横に振るとレイクは小さく息を吐いて何かを決めたように立ち上がる。


「……これから、リーナたちも旅に出るんだよね?」

「ああ。次の行き先は決まっていないが……」

「それなら……、僕も付いていっても構わない?」

「えっ!? で、でも、レイク。このお店……」

「元々、旅には出るつもりだったんだ。店に関しては休業にも出来るし……、旅をしなきゃいけない理由は僕にはあるから」

「理由……?」


 立ち上がったレイクは確認するように問い掛ければ、エメリヤは隠す理由はないと思ったのかあっさりとした答えを返した。

 その答えを聞いた後に少し考える仕草をした後に、レイクが申し出るように言葉を紡ぐとリーナは驚いたように声を上げた。その驚きには苦笑を浮かべつつも、レイクは大丈夫と言わんばかりに微笑んでいたが、すぐにその表情は厳しいものへと変えられていく。

 ライアンが問い掛けはするも、理由に関しては「後で話すよ」とだけ付け加えられると仲間達は一旦顔を見合わせた。

 旅の仲間が増えるのは問題は無いだろう。レイクが優れた魔導師であるのであれば、これからの旅でもきっと心強い存在になってくれることに違いないとは思う。リーナは確認を取るように全員の顔を見た後に頷いて答えを貰うと、改めてレイクへと向き直った。


「……じゃあ、これからもよろしく! レイク!」

「魔導師が俺だけじゃ、心許ない部分もあったし、ね? 頼りにさせて貰うよ」

「まぁ、出来る限りは頑張らせて貰うよ」


 承諾の意を得られたレイクはほっとしたような表情を浮かべつつも、嬉しそうな笑みを浮かべた。

 そしてレイクの旅支度が終わり次第、ラセードの街を出発することになった一行。新たな仲間も増えたために浮かれている部分もあったのか、気付く様子は見せなかった。

 近くに深い闇の気配があることに。そして彼らの行動を見ている一人の、存在に。


 


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