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聖なる乙女と運命の人  作者: 雨月 雪花
第二章 魔導師と恋心と、神隠し
32/103

09

 



 仲間達が呆れていることに気付いていないのかリーナは、よし、と気合をいれるように握りこぶしを作ってからここでようやく仲間達へと視線を向ける。

 ライアンのみが了承するように頷いているのを確認すると、じーっとアルとエメリヤを見る。


「……何。その、呆れた視線、しかも溜息まで」

「いやー……こればっかりは、ねぇ?」

「今回ばかりは予想が外れればいいとさえ思ったが……」


 リーナが拗ねたように頬を膨らませながら抗議の声を上げると、アルは苦笑を浮かべたまま、同じような反応を返したエメリヤに同意を求める。

 こくりと小さく頷いて肯定をしつつ、エメリヤははぁ、と溜息交じりにぽつりと呟く。

 ――危険なことに自分から首を突っ込みたがるこの性格だけは何とかしなければいけないのかも知れない。

 とは言っても彼女の性格を直すのには一苦労するだろうし、直る可能性はほぼ無いに等しい。

 どちらにしろ、自分の立場というのを理解して欲しいと切実に願う。

 そんなアルやエメリヤの想いに気付くはずもなく、リーナは更に頬を膨らませながら唯一同意をしてくれたライアンの近くまで行く。


「ライアンは快く承諾してくれたのにっ! ね、付き合ってくれるんだよね?」

「ああ……まぁ、役に立つかどうかは、分からないが……」

「協力してくれるだけで嬉しいよ!」

「というか……どうして、頷いたのライアン……。おかげでリーナが止まりそうにないよ」

「……? リーナが出来ると判断したのだったら、付き合う方がいいと思って」


 唯一の味方に最大の感謝を示しつつも、再度確認するように問い掛ければライアンは小さく頷きつつも、少々申し訳なさげに苦笑交じりに呟く。

 だが役に立つよりも以前に、味方になってくれたことが嬉しいのかリーナはニッコリと笑みを浮かべれば、ライアンもほっと安堵したように僅かに表情を緩ませる。

 それを見ていたアルは、はぁ、と何度目か分からない溜息を零しながら一言文句を告げれば、きょとんと首をかしげつつもライアンは素直に理由を告げる。

 その理由を聞いたアルとエメリヤは互いに顔を見合わせる。

 もしかしたら、ライアンが反対すればリーナを止められる可能性も出たかも知れないがライアンは完璧にリーナの味方についたようだ。

 というよりも彼女のやりたいことに付き合いたいという気持ちの方が強いのだろうというのが見て取れると、諦めたように息を吐く。


「いいよ、もう。……分かった、付き合うよ。どうせ、こうなることは分かってたんだしね」

「……ああ。どちらにしろ、リーナとライアンの意志を曲げさせることは私達には出来ないしな」


 ――この二人にはとことん甘くなりそうだ。


 アルとエメリヤは同じような思いを抱えたことに分かると苦笑を浮かべ合う。もちろん、そんなこと知る由もなかったリーナは了承を得られたことに満面の笑みを浮かべてから呆然と自分達のやり取りを見ていたレイクに向きあう。


「レイク! 「神隠し」に被害に遭った人達助けられるように頑張るから……、少しの間かも知れないけどよろしくね?」

「え? あ……うん。こちらこそ、よろしく」


 リーナは満面の笑みを浮かべたまま、誓うように言葉を紡ぐと極々当然のように握手を求めるように手を差し出した。

 展開についていけていないレイクであったものの、はっとしたように慌てて頷けばほぼ何も考えずに黒い手袋をつけている手を差し出してリーナの手を握り締める。

 握手を交わされるとリーナも返すように握り返してから、ふとレイクはようやく握手を交わしたことに気付くと驚いたように目を見開かせる。


「……レイク? どうかした?」

「え……あ……いや、その……」

「というか手袋つけてるんだね? 普段からずっと?」

「あ、ああ……うん、ちょっと理由があって、ね。料理する時以外は大抵」

「そうなんだ」


 驚いた表情を浮かべたレイクを不思議そうに見たリーナが声を掛けると、問われたことにはどう答えればいいか迷うように言葉を濁らせる。

 リーナは不思議そうにしたまま、握手を交わしていた手を離しつつ、疑問に思ったことを何気なく口にするとレイクは素直に答えを返す。

 手袋をつけているのは理由があるのだろうと思ったリーナは、納得したように頷き、深く追求することはなかった。

 それには小さく安堵の息を漏らしながら、レイクはリーナの手を握った手に視線を落とす。

 ただ、それは本当に驚きでしかなかったのか手をじっと見つつ、目を瞬かせていた。

 そしておもむろにリーナの方へと視線を向けると、事件解決へ向けてどうすればいいのか、というのを仲間達と話し合っているのが見て取れる。


 ――彼女は。


 彼女は、本当に純粋な気持ちで協力をしてくれているのか。少し信じられない気持ちになる。

 だからと言って疑える要素が自分には持てなかったために僅かに苦笑を零した。


「そうだ。レイクは、この「神隠し」について詳しくは知らない?」

「あ……そうだな。目撃者とかは居ないみたいだけど」

「だけど?」

「ああ……、いや、僕の勝手な推測に過ぎないんだけど。「神隠し」なんて呼ばれている割には人がいない時間帯を狙ってるような気がして」


 そう言えば、と思い出したようにアルが何気なく問い掛けるとはっとレイクは顔を上げれば少しだけ思い出すように口を閉じる。

 すぐに思い出したことを口にすれば一旦その言葉を途切れさせるものの、続きが気になったのかライアンは首を傾げて続きを促してみる。

 話すかどうか迷いはするものの、レイクは考えるように腕を組みながら、僅かに首を傾げて自分の考えを告げる。


 ――そう、別に目撃者がいないことには何ら問題もないと思っている。


 詳しい時間帯は分からないのだが、大抵は人通りが少ない夜が主なようで。「神隠し」なんて呼ばれている割には人為的に行われているような感覚があった。

 レイクの考えを聞いた四人は顔を見合わせる。新たな情報を手に入れつつも、確実な時間帯が分からなければこちらから仕掛けるなんてことは出来ない。

 適当に夜を狙って罠を仕掛けてみるのもいいかも知れない。そんな考えが浮かぶ中、店の扉が開く音が聞こえる。


「……ん? あ、すみません。今、店は閉店中で」

「あー! サーシャ! もう、どこ行ってたの?」

「ああ、すみません。ちょっと興味深い話を小耳に挟んだもので……。……おや、店員さんも協力者さんで?」

「僕? ……僕にも無関係ではないような話だったから、ね」

「そうでしたか。……一応は自己紹介を。俺はサーシャ=ノイシュと言います。彼らとは……まぁ、旅の途中で出逢った知り合いというか、そんな感じです」

「僕はレイク。レイク=ケプラー」

「和やかに話をしている所悪いが……、サーシャ。興味深い話とは?」


 扉が開かれたことに一番最初に反応を示したのはこの店の主でもあるレイクであり、札を見なかったのかな、と思いながら申し訳なさそうに謝罪を口にするが、それに割り込むように見覚えのある人の姿にリーナは声を上げる。

 少々非難交じりの声だったことに気付けば、入って来たサーシャは苦笑交じりに軽く謝れば理由を話そうとするものの、ふと見知っているが話したことのないレイクの姿があって不思議そうに聞く。

 思わず自分を指差したレイクであったが肯定するように頷けば、サーシャは納得したように頷き簡単に自己紹介を済ませる。

 それに返すようにレイクも名乗り返すのだが、和やかな雰囲気になりつつある二人の会話に割り込んだエメリヤは、サーシャへと視線を向けて問い掛ける。

 問われたサーシャは、ああ、と思い出したように声を上げるが言うべきか言わないべきか一瞬だけ迷う。

 とは言ってもこの雰囲気は、完璧に事件に関わる気満々のようだったので、話しておくべきだろうと考え、口を開く。


「これは本当に信憑性がないんですが……どうにも、『タナトス』の目撃情報があるとか」

「……! ……街の、中に……?」

「そこまでは分からないんですけどね。ただ、居る可能性はあると考えた方がいいとは思いますよ」


 最初に注意事項を話してからサーシャは、聞いてきた話をゆっくりとした口調で話すとライアンは僅かに目を見開かせ、確認を取るように聞く。

 それ以上は分からない、とふるふると首を横に振りながら注意を促す。


「事件に関わっている可能性もあるのか?」

「どうだろ? 『タナトス』に進んで関わるような人なんていないでしょ」

「……」

「アル?」

「……何でもないよ。とりあえずは、頭の片隅に置いておきつつもどうすればいいか考えよう?」


 エメリヤとリーナが少々顔を顰めて話し合っているのを見つつ、アルは考え込むように口を閉じる。

 それを不思議に思ったリーナが声を掛けると、小さく息を吐いてから軽く首を横に振りつつ、何よりも優先して考えるべきことを口にする。

 その言葉に誰もが良い案がないか考え始めつつ、リーナはうーん、と小さな唸り声を上げる。

 ――「神隠し」の被害に遭っているのは女性。レイクに好意を寄せている女性ばかりが狙われている。

 ここでふと名案が浮かんだとばかりにリーナは、顔を明るくさせればはーい、と手を挙げる。


「思い付いた!」

「……どんなの?」


 声も同時に上げたリーナに最初に視線を向けたレイクが何気なく問い掛ければ、ニッコリと笑ってその名案を話す。

 話した瞬間、その場に居た誰もが言葉を失っていたとか。


 


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