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聖なる乙女と運命の人  作者: 雨月 雪花
第二章 魔導師と恋心と、神隠し
30/103

07

 



「おいしかったー!」


 ラセードの街の噂などすっかりと忘れてしまったのか、昼食を終えた一行と一緒に店を出たサーシャ。

 店を出てからリーナが、うーん、と気持ち良さそうに軽く背伸びをしながら素直な感想を述べると、それを間近で聞いていた面々は苦笑を浮かべる。

 その感想には同意出来るぐらいには、立ちよった小さなカフェの料理は美味しかった。

 量も申し分なく、満足できる内容だっただろう。店が繁盛しているのは決して店員だけのおかげではないようだと確認しつつ、リーナは数歩歩いてから振り返る。


「さて! これから、どうしよっか?」

「……。ああ、一応覚えてたんだね?」

「あたしはそこまで物覚えは悪くないの! んー……、「神隠し」かぁ」


 面々の顔を順々に見ながらリーナは首を傾げて今後のことを決めようと問い掛けると、アルは少々意外そうにぽつりと呟きを漏らす。

 それには意義ありとばかりにキッパリと言い切れば、サーシャが話してくれた内容を思い出す。

 忽然と何も残さずに消えたという話だから証拠など何も残っていないだろう。とは言っても「神隠し」などと言われても何が原因かなどすぐに思いつくはずもない。

 店の前で考え事をするのはさすがに迷惑がかかると思ったのか、とりあえずは移動しようか、という話になって歩き出そうとした時だったろうか。

 すぐ近くで何か騒ぎが起きているようで人だかりが出来ていて、ざわざわとどこか緊迫した雰囲気が漂っている。


「……? 何だ……?」

「内容が聞き取れないな……、もう少し近くに行ってみるしかないか?」

「行かなくても大丈夫だと思いますけど」

「どういうことだ?」


 ライアンが気になったように視線を向けるとそれに釣られるように他の人達も視線を向ける。

 大勢の人が何かを囲んでいるようにも見え、その中心部分では何か言い合っているようにさえ見える。

 内容を聞こうと耳を澄ませてみたエメリヤではあったが、様々な人が重なっており上手く聞き取れなかったために、どうする、とばかりに聞く。

 だがサーシャは、じっと人の塊を見つめながらぽつりと呟きを漏らすと、エメリヤは意味が分からずに問い掛ける。

 近くに行かなければ何が起こっているか分からない。それは間違えではないのだが、それからすぐに人だかりを抜け出してきたのは二人の男性だった。

 必死に止めようとしている男性と、それを振り払うように歩き続けている男性。


「止めた方がいいって! 彼が原因だとは限らないんだから……!」

「あいつが原因でなければ、どうして……どうして、妹が「神隠し」に巻き込まれるんだ!」

「だから、それはっ……!」


 必死に止めようとする言葉など聞いてさえいないかのように、もう一人の男性はリーナ達の前を通り過ぎて行く。その後を追うようにもう一方の男性も慌てたように追う。

 ぽかん、とした表情で見送った面々であったがふと先程「神隠し」という言葉を言っていたことに気付いたために、二人がどこへ向かうかを見るように視線を向けてみると、向かっていたのは先程自分達がいた小さなカフェだった。

 制止の声など聞こえていないかのように、怒りで我を忘れている男性は店の扉を乱暴に開ける。

 店内にいた客たちは驚きの表情でそちらに視線を向け、店員は驚く様子はなく、入口の方に顔を向けると小さく息を吐く。


 ――またか。


 そんな風に思いながら、店員は客に対して詫びの声を掛けてから店内に入って来た男性の元まで行く。


「お前がレイク=ケプラーか!」

「……そうだけど。君も僕に文句を言いに来た一人?」

「「神隠し」で姿を消した女性の全てがお前と関わりがあったと聞いている!」

「そうらしいね。でも、僕は何も知らない」


 男性は近くまでやって来た店員――レイクに確認を取れば、彼はここで否定しても事態は変わらないと思ったのか溜息交じりに肯定しつつ、僅かに首を傾げる。

 レイクのそんな態度に男性は今にも爆発しそうな勢いでキッパリと言い切ると、レイクは話は知っているのか頷きはするも、最後はきちんと弁解を口にする。

 だがそんな言葉など聞こえていないかのように男性がレイクに掴みかかろうとしたその時だったろうか。

 ほぼ反射的にレイクは、男性の手を振り払う。


「お前が……、お前が……!」

「……確かに偶然にしてはおかしいかも知れないけど僕は何も知らない」


 振り払われた手をぎゅっと握りしめながら行き場のない怒りをぶつけるようにレイクを睨みつけながら、レイクは聞き入れてはくれないだろうと思いながらももう一度繰り返すように言い切る。

 ――実際には同じようなことが何度もあった。その全てが「神隠し」で消えた女性達に関わりがある人達ばかりで。

 これだけの数があれば確かに自分は無関係ではないだろうか、と思いはするが知らないものは知らないのだ。

 レイクはこれで納得してくれなかったらどうしよう、と思いながらも怒りが静まらない様子の男性を見て小さく息を吐く。


「失礼する」

「……え?」


 突然聞こえた別の声にレイクは驚きの声を上げるが、声を掛けた人――ずっと見守っていたエメリヤは近付くと男性を気絶させるように手刀をいれる。

 後ろに気を配っていなかった男性は為す術もなく、そのまま気を失ってその場に倒れるのを確認してからもう一方の男性へと視線を向けた。


「すまないが連れて行ってくれるか?」

「あ、は、はいっ! ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありません」


 ぽかん、とした表情でいたもののはっとした表情になり、慌てた謝罪をすれば気を失っている男性を背負って店を出て行く。

 それを確認してからエメリヤ以外の三人が店の中へと入ってくるのだった。


 


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