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聖なる乙女と運命の人  作者: 雨月 雪花
第二章 魔導師と恋心と、神隠し
28/103

05

 



 あらかたの情報収集を終えた面々は別々に分かれた場所まで戻って来ていた。

 先に戻って来ていたのはアルとエメリヤの二人であり、その二人の姿を見掛けたリーナとライアンが駆け寄って来る。


「どう? 何か情報あった?」

「うーん……、あったっけ? ライアン」


 駆け寄って来た二人の姿を確認してからアルは首を傾げて問い掛けると、リーナは同じように首を傾げるとライアンへと視線を向ける。


「……人が消える、っていう話を聞いた」

「人が消える? ……普通じゃないな、それは」

「俺達は目ぼしい情報は手に入れられなかったしね……。うーん、人が消える、か」


 ライアンが話すべきかどうか迷う仕草を見せたが、すぐに聞いた話を口にするとエメリヤは驚いたように目を見開きつつ、ぽつりと呟く。

 アルもそれに同意するように頷いてから同じように意味を考えるように呟く。

 本当に人が消えているかどうかは置いておいても、失踪者が居るというのは事実なのだろう。


 ――あの「謎の人」が言っていた危険という意味ももしかしたらそこにあるのかも知れない。


 行くことを止めるという選択肢は既に失われているために、出来るだけその奇妙な噂の真相には近付かないようにした方が良さそうだ。

 改めてそう思い返しながらも、ふと黙ったままのリーナを不思議に思って視線を向けてみる。僅かに顔を顰めているのが見て取れたために声を掛ける。


「リーナ? どうかしたの?」

「えっ……う、ううん、何でもない! 今日はこのまま出発?」

「……。いや、そこまで急ぐ旅でもないんだし、一泊してもいいよね?」

「ああ、私は構わないが……」


 声を掛けられるとリーナははっとどこか焦ったような反応をした後に、慌てて首を横に振ってから話題を変えるかのように思い浮かんだことを口にする。

 その様子をじっと見ていたアルであったが今はそれ以上深く問い掛けることはせずに、確認を取るように聞くとエメリヤが先に答えてライアンも同意するように頷き返した。

 リーナの様子が気になりはするものの、近場の宿を探しに行くことになり聞く機会を失ってしまったアルは小さく溜息をついたのだった。

 そして近場の宿で二つ部屋を取るとふとライアンは思い出したようにリーナへと目を向ける。


「剣、貸して貰えるか?」

「え? うん、別にいいけど……。どうかした?」

「修理した方がいいかと思って……。俺は先に部屋に行っている」

「修理か……。興味があるな、ライアン。邪魔をしないから見ていても構わないか?」


 ライアンからの突然の言葉にリーナは驚きつつも腰に携えている剣を鞘ごと外すと、はい、とライアンに手渡しながら首を傾げる。

 問われるとライアンは剣を抜きつつ、状態を確認しながら答えるとざっと見回した後に告げる。

 エメリヤは少しだけ考える仕草を見せるも興味があったのか申し出ると、特に問題は無いと判断したライアンは頷いて了承をすると、ライアンとエメリヤは取った一部屋の方へと入って行く。

 それを見送った後にアルは、同じように後ろ姿を見ていたリーナへと視線を向ける。


「それで、どうしたの?」

「……」

「俺に隠し事は出来ないのは、知ってるでしょう?」


 気になっていたことを切り出したアルであったのだがそれに答える声はなく、苦笑を浮かべながら一言付け加える。

 それが嘘ではないことは分かっているリーナは何かを話そうと口を開きかけたものの、結局その口が喋ることはしなかった。

 中々話しそうにないことが分かると溜息を一つついてから、これ以上追及することはなく自分なりに考えてみることにする。

 とは言ってもこの街に来て二手に分かれるまではいつも通りであったのは確かであったし、その後に何かあったのであればライアンの方が知っているだろう。

 聞きに行くという手がない訳ではないが、鍛冶師としての仕事をこなしている彼の邪魔をするのは少々気が引ける。

 何と言っても彼が修理している剣は自分が宿っている剣であるのだから、更に邪魔することなど出来ない。

 苦笑を深めながら、うーん、と考える。それからふと一つのことを思い立った。


 ――クレスタ王国の噂話だ。噂話というよりはあれはほとんど真実であることは分かっている。


「……何か聞いたの? もしかして」

「聞いてないって言ったら嘘になるけど……、あたしは間違ったことをしたなんて思ってないから」

「リーナ」

「あたしはあたしの出来ることをやっただけ。それであたしがどれだけ責められようと構わないの。……そう思ってたんだけど、なぁ」


 アルからぽつりと端的に告げられた言葉にぴくりと小さな反応を示したリーナであったが、それを隠すようにキッパリと言い切る。

 言い切るリーナを心配気に見るのだが、当たり前のことのように言っていたリーナであったものの、最後の言葉は小さな声でぽつりと呟く。

 本当にそう思っていた。責められるのは仕方ないと思うし、確かに一国の姫にはあるまじき行動でもあると思っている。

 でもそうしなければいけない理由が自分にはあり、その理由は何よりも優先しようと考えたものだから何を言われてもいいと思っていた。


 ――本当に思っていただけだったのかも知れないと少しだけ思う。覚悟がまだ足りなかったんじゃないかと。


「真実を告げればいいと俺は思うけど?」

「そうだね……、いつかは言うべきかも知れない。でも、まだ早いよ」

「……先延ばしにすればするほど、君が傷付くことになるんだよ?」

「うん……」


 ――それが当たり前のことだから。


 リーナは微笑みながら決してそういう事はしなかったけど、アルにはそう聞こえた。だからそれ以上は何も言わずにただ、リーナの頭を撫でたのだった。


 


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