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聖なる乙女と運命の人  作者: 雨月 雪花
第二章 魔導師と恋心と、神隠し
25/103

02

 



 無事に″結界″のことも覚え、野宿の心配もなくなったことからまた歩き始める。

 歩いている最中は本当に他愛のない話ばかりで、それなりに楽しい雰囲気が流れていたのだがふとアルが思い出したようにリーナとライアンへ視線を向ける。


「そう言えば、聞き忘れてたけど……」

「うん?」

「どうして、ラセードの街に行くことにしたの?」


 ヴェルディの街を出発するときには既に彼女の中では次の目的地は決まっていたようだ。

 とは言ってもどこにあるかは全く知らない街だったようなので、街の名前を知っていたことがまず疑問に思った。

 見る限りではライアンもその理由を知っているようだったが今の今まで忘れていたために、アルは思い出したように問い掛けたのだ。

 問い掛けられたリーナとライアンは互いに顔を見合わせるものの、話しても何ら問題は無いだろうと思ったのかリーナが説明をするように口を開いた。


「ちょっとお友達になった人がいてね。ラセードの街で何か奇妙な噂があるんだって」

「奇妙な噂?」

「うん。詳しくは聞いてないよね? ライアン」

「ああ」


 リーナから説明されると気になる単語にアルが首を傾げて問い返せば、リーナは肯定しながらも同意を得るようにライアンを見ると小さく頷いて返す。

 正確には詳しく聞いていないのではなく、相手の方が言葉を濁してしまって聞けなかったという言い方の方が正しいがどちらにしろ聞けなかったことなので問題は無い。

 そんな三人の会話を耳にいれたエメリヤは僅かに首を傾げて、記憶を辿る。

 ――そう言えば、行き先を決めるときに街の名前を聞いたときはほとんど聞き流していた部分があったが今思えば、確かに聞き覚えがあるような街だ。

 だが聞き覚えがあってもそれ以上思い出すことが出来ずに、エメリヤは騎士時代に立ち寄った街だろう、と微かな引っ掛かりを無理矢理に納得させる。

 奇妙な噂があるのだとしても長居をせずに、首を突っ込まなければどうとでもなるだろうと思いながらもエメリヤは何気なくリーナへと視線を向けると小さく溜息を吐く。関わり合いのならないようにするのが第一なのかも知れないがもしも、ほんの僅かでも関わりを持ってしまった場合、果たして彼女は無視するだろうか。

 否、するはずもない。すぐに出て来てしまう答えにリーナに視線を向けたまま、今度は深々と溜息を吐くとそれに気付いたリーナはむぅ、と頬を膨らませる。


「ちょっと! エメリヤ、あたしを見ながら溜息つくの止めてよ。すごく呆れられているような感じがする……」

「心配するな。実際に呆れている」

「……えっ!? 何、あたし、何かした!?」


 文句をぶつけるとエメリヤはあっさりとした答えを返せば、呆れていない、と返されることを期待していたリーナは驚いたような声を上げると慌てたようにアルとライアンに視線を向けて問い掛ける。

 聞かれても今までの話の中に呆れるような内容があったかと言われればないと思うのだが、エメリヤが何に対して溜息をついていたか分からない二人は互いに顔を見合わせた後に苦笑を浮かべて、それ以上は何も言わなかった。

 否定の言葉を待っていたリーナは更なる文句をぶつけようと口を開こうとしたのだが、不意にその口は閉じられて僅かに首を傾げる。


「……どうした?」

「ライアン。……少し後ろに下がるんだ」

「エメリヤさん?」


 突然首を傾げたリーナの様子を不思議に思ったライアンは声を掛けるのだが、その声に答える声はなく、エメリヤが僅かに声音を低めながら指示を出す。

 出された指示の意味が変わらずに名前を呼ぶものの、早く、と視線で促されればライアンは素直に数歩だけ後ろに下がる。

 エメリヤは辺りを警戒するように視線をあちこちに向けていたが、唯一アルだけはある一点を見つめ続けている。

 気付かれたことが分かったのだろう、くすり、と小さな笑い声をさせながらふわり、と何も無い場所から一人の人が現れる。

 突然のことに警戒を強めるもののアルだけは、ほんの僅かに何かに感付いたかのようにぴくりと小さな反応を見せる。目の前に現れたのは全身を真っ黒なローブで姿を隠し、尚且つフードを被って顔を隠しているために顔などは一切見えない。

 つまりは性別の判断も難しいのだが、その手には一本の鎌が握られている。


「誰だ?」


 姿を見せてから一言も発さない相手に対してエメリヤは鋭い視線を向けながら、背にリーナとライアンを庇うように立つ。

 敵か味方かの判断も出来ない状況であるために緊迫した雰囲気が続くのだが不意に声が聞こえる。


「マリアリージュ」

「……え?」

「ラセードの街には行かない方がいい。――あそこは危険だから」


 不意に聞こえた声は男に人であろう低い声で、自分の名前を呼ばれたリーナは驚いた表情を浮かべて反応を示す。

 だがそれに気にした様子もなく、目の前に立つ人は淡々と、でもどこか心配げに忠告をするように言葉を発する。

 どうして自分達の行き先を知っているのか。どうして名前を知っているのか。まずそれを聞かなければどうにもならないと思ったためにリーナは質問しようと口を開こうとするものの、相手は黙ったままのアルへと視線を向ける。


「……」

「……」


 フードの下の目と視線が合ったのはほんの一瞬で。


 アルが僅かに驚きで目を見開いたことに気付いたのか、出てきたときと同様にふわりと音もなく姿を消す。

 呼びとめようとするまでもなく、そこにいたという証拠も何も残さずに消えてしまったために緊張の糸が解けたのかほっと安堵の息を漏らす。


「……知り合いか? リーナ」

「えっ……、し、知らないよ! あんな真っ黒いローブを着たような謎の人!」

「名前を知ってたみたいだけど……」

「うー……知らないものは知らないの! アルも知らないよね?」


 エメリヤは息を漏らした後に気になったように問い掛ければ、リーナは慌てたようにぶんぶんと勢い良く首を横に振りながら必死に言う。

 嘘は言っていないだろうというのは目に見えて分かりはするものの、ライアンがぽつりと零した言葉には反論出来なかったが思い当たる人がいないリーナは必死になって言いながら助けを求めるようにアルへと視線を向けると、きょとんと首を傾げる。

 その反応が分からなかったのだろう、ライアンとエメリヤも釣られるようにアルへと視線を向けるとリーナの声など聞こえていないかのように呆然とした表情で先程まで「謎の人」が居たところを見続けている。


(まさ、か……?)


 ――まさか、そんなはずがある訳はない。


 ほんの一瞬だけ視線が合ったような、そんな気もしたけれど。誰かに似ているようなそんな感じもしていたのも確かだけれど、確証は何一つとしてない。

 そして自分が思い描いた人が「ここ」に居るはずがない。それは誰よりも自分が分かっているはずなのに、自分の中にある「何か」が引っ掛かりを取らせてくれない。

 そう、声は違ったような気がする。でもあの人が持っていた鎌には見覚えがある。

 別人だろうか。アルはぐるぐると思考の渦に埋まっていたのだが、不意にリーナが顔を覗き込んだために驚いたように後ろに飛び退く。


「ど、どうしたの? リーナ」

「……アルの知り合いなの? あの人」

「え? …………いや、確証は持ててないし……断定も出来ないから、確実にそうだと思えたら言うよ」


 慌てたようにアルが問い掛ければ、じーっとリーナはアルを見つめながら一言問い掛ければ一瞬どう答えればいいのか言い淀む。

 だが確証を持てていない話をするのもどうかと思ったためにアルはふるふると首を横に振りながら説明するように言葉を紡げば、そっか、とそれ以上深く追求することはなく頷く。


 ――そう、あり得ないのだ。″あの人″がここにいることなど、ありえるはずがない。


 自分を落ち着かせるように息を吐きだしてから、先程の謎の人が告げた言葉を思い出す。


「ラセードの街は危険、か」

「……どうするんだ? リーナ。本当に行くのか?」

「行くよ! あの謎の人が言ってたことが本当かどうかも分からないし……、本当なら街が大変になってるってことだしね!」

「君は……。少しは危険を回避する道を選ぶこともしてくれ」

「えー……」


 ぽつりとアルが小さく呟けば、その言葉を聞き取ったライアンは確認を取るように言葉を投げ掛ける。

 迷う必要はないと言わんばかりに当たり前のように言い切れば、自分のことにうんうんと何度も頷く。それを聞いたエメリヤは自分の想像通りだと思うと深々と溜息をつきながら、無理だと思いながらも頼むように言葉を発するがそれには不満げに声を上げるリーナだった。


 


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