09
街の外に出た四人は、ざっと辺りを見回す。人の気配などはなく、それ以外がいるような気配もなかったために互いに顔を見合わせた。
「アルとライアンは、街の周りを見回ってくれ」
「了解。……多分、俺達の方に危険はないと思うけど」
「……ああ、大丈夫だ」
エメリヤが改めてこれからのことを話せば分かっているとばかりにアルは頷きつつ、少し心配そうにリーナへと視線を向ける。
その意味を理解したエメリヤは、表情を引き締めて言葉少なに安心させるように言葉を紡ぐ。
エメリヤへと視線を向けてアルは、ふっと微笑みを浮かべればリーナと話していたライアンの肩を叩く。
「じゃあ、行こうか? ライアン」
「分かった。……じゃあ、気を付けて。リーナ、エメリヤさん」
「うん! ライアンたちもねー!」
肩を叩かれるとライアンはこくりと頷いてから、リーナとエメリヤに視線を向けてから告げると先に歩き始めいたアルの後を追うように歩き出す。
二人の後ろ姿にリーナは声を掛けてから、エメリヤへと向き合うと何を話せばいいか少々迷う。再会してから二人きりになったことがないことに今更ながらに気付けば戸惑いも出てきた。
ぐるぐると考え始めているリーナに気付く様子もなく、エメリヤは視線を遠くに移すと大体の場所を決めていく。
この辺りに隠れられる場所などほとんどないし、広がっている平原の怪しい場所などすぐに分かる。
とりあえずは見ておくべきだろう場所の近場から回ろうと考えると、リーナに視線を向ける。
「行くぞ」
「え、あ、は、はいっ!」
「……考え事もいいが、気は引き締めるように。何があるか分からない」
「うん、気を付ける」
「それでいい」
声を掛けるとリーナは、今まで考えていたために弾かれたように慌てて返事をすると、エメリヤは少々困ったような表情になるが注意を促す。
それには真剣な表情でリーナは受け止めるように頷くと、エメリヤはふと表情を緩めて満足そうに頷くと手を伸ばして褒めるように軽くリーナの頭を撫でると歩き出す。
撫でられるとぽかんとした表情になったリーナではあったが、すぐに気恥しい、でもやはりどこか懐かしい感覚になりながら歩き出したエメリヤを追いかける。
しばらく歩いていると街はだんだんと小さくなって行き、見えてきたのは木々が生い茂っている森だ。森と言うには少し規模が小さいかも知れないが。
だが陽が入ってこないのか、ここから見える限りでも森の中は薄暗く、寂しい雰囲気を醸し出しているように見えたリーナは、思わず一歩だけ下がる。
そんなリーナに気付かなかったエメリヤは軽く辺りを見回すと、ふと何かが目に入ったのか慌てて駆け寄っていく。
「エ、エメリヤ?」
「人だ」
「……え?」
いきなりのことであったためにリーナは戸惑いを隠せずに追い掛けながら名前を呼ぶと、エメリヤは一言だけ告げるとリーナは驚いた表情を浮かべる。
慌ててエメリヤの隣に並んでその先を見つめると確かにそこには、一人の青年が倒れているのが見て取れる。
リーナは一瞬で顔を青ざめさせ、エメリヤも表情を硬くさせながら倒れている青年の様子を見るようにしゃがむと軽く頬を叩く。
「……大丈夫か?」
「う……ん……。……エメリヤ、様……?」
「ああ、私だ。怪我でもしたのか?」
「い、いえ、僕は……。それよりも、『タナトス』を追いかけて森の奥に……つぅ……」
「いきなり起き上がるな」
何度か頬を叩きながらエメリヤが気遣うように声を掛けると、倒れていた青年は気がついたのかゆっくりと目を開け、目に入った姿の名前を呼ぶ。
気がついたことにほっとエメリヤは安堵の表情を浮かべながら問い掛ければ、青年は小さく首を横に振って答えるがはっと何かを思い出したように早口で言葉を紡ぎ、慌てたように身体を起き上がらせると痛みが走ったのか顔を歪める。
エメリヤは注意するように声を掛けつつ、森の奥へと視線を向ける。
――『タナトス』が出たと言う話は本当のようだ。一般人が相手に出来るような存在である訳がないが、ここに置いていくことが出来ないのも事実で。
そんなエメリヤの考えが分かったのか青年はゆっくりと体勢を整えながら、必死に微笑みを浮かべる。
「僕は、大丈夫です。だから皆を……」
「だが」
「……本当に大丈夫ですから。少し休んだら動けると思いますし」
「……分かった。無理だけはするな。――リーナ」
「うん、分かってる。すぐに戻って来るから安心してね!」
未だに心配そうなエメリヤを安心させるように言葉を紡ぐと、エメリヤはそれを受け取ったのか小さく頷いて声を掛ければ、黙って様子を見ていたリーナに視線を向ける。
その意味はすぐに分かったのか頷いて答えれば、青年に対してニッコリと微笑みながら声を掛ければ二人は森の奥へと駆けていく。
リーナとエメリヤの後ろ姿を見送った青年は、無事で帰って来ることを願いながらそっと目を閉じた。
リーナとエメリヤの二人と別れたライアンとアルは街の周辺をぐるりと一周するように歩いていた。
決して小さくはない街なので一周するだけでもかなりの時間を要するかも知れないが今のところ危険な様子はなく、住人の姿もない。
こちらは外れという可能性が高くなってきたためにライアンは心配そうに遠くの方に視線を向けると、それに気付いたアルは苦笑を浮かべた。
「大丈夫だよ。……リーナはそんなに弱い訳じゃないし、何よりもエメリヤがいるから」
「……ああ」
「それでも心配?」
「友人だと、言ってくれたから。……友人が危険なら、心配になると思う」
安心させるように声を掛けるも、やはり心配なのは変わらないライアンを見て、アルは苦笑を浮かべたまま問い掛ける。
問われたことには少しだけライアンは考える仕草を見せる。その後に言葉を選びながら、自分の思ったことを告げるとふとアルは表情を緩めて微笑みながらライアンの頭を撫でてやる。
ぽんぽんと軽く、優しく撫でられたライアンは驚いた表情を浮かべてアルへと視線を向けるも撫でるのを止めなかった。
――リーナにとって本当の友達など少ないだろう。立場があるし、それを気にする周りの者は決して少なくはない。
少なくはないからこそ、本当の姿を知っても尚変わらずに接してくれるライアンの存在は何よりも嬉しかっただろう。もちろん、ライアンがそれに気付いていないことも知っているからあえて何も言わない。
くすくすと小さくおかしそうに笑いだしたアルに気付いたライアンは、不思議そうな視線を向けながらも何気なく自分の手に視線を落とす。
「……」
「ライアン? あ、撫でられるの嫌だった?」
「いや……そうじゃなくて。……強くならないと」
「これから先のことを考えて?」
「……ああ」
「うーん……」
ライアンの視線が下に向いたことに気付けば、はっと慌てたように手を離しながら問い掛けると、ふるふると首を横に振って小さな声で呟く。
それを聞き取ったアルは、言葉の意味が分かったのか確認するように聞けば肯定するように頷く。
真剣な気持ちだということが伝わってきたアルは、考えるように首を傾げ、視線を空へと向ける。
旅をする前に聞いた話では護身程度でしか使えないという。それで十分だと言えないのが悲しいことで。
これから先もきっと同じようなことは何度も起きるだろう。それが当たり前のことで、アルは悲しげに表情を僅かに歪める。
だがすぐにその考えを振り払いながら、どうするべきかと思う。自分が教えられれば一番なのだが生憎、自分も本当に護身程度、それ以下かも知れない。
魔導であれば教えられるのだが、これは本当に才能が必要になってくるので無理だ。同じ剣を扱う身としてリーナに教えを請うという手もあるが、彼女は人に教えるというのは苦手な分類だろう。
「エメリヤに稽古を付けてもらうのが一番だろうけどね?」
「……エメリヤさん?」
「ああ……、ほら、リーナの剣の師匠だって言ったでしょう? だから、彼なら頼めばいくらでも稽古を付けてもらえると思うんだけど」
長い間、ヴェルディの街に留まることは不可能だし、旅について来て欲しいと口に出来るほど簡単なことでもない。
ライアンも真剣に悩み始めたことに気付くとアルは苦笑を浮かべつつも、一度考えを中断させながら遠くを見つめる。
本当に危険であれば自分にも伝わってくる。今の所は何も伝わってこないことに気付けば、彼女達には何も起こっていないようだ。
――どうか、何事もなく終わりますように。
心の中でそう願うと、歩く足を止めないままライアンの悩みを解消させる術を考えることにしたのだった。




