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聖なる乙女と運命の人  作者: 雨月 雪花
第一章 負の感情が作りだすモノと、元騎士兼教育係
18/103

08

 



 反射的に反対の言葉を口にしてしまったエメリヤを誰もが驚きの表情で見つめるのだが、一番驚いているのはエメリヤ本人であり、気まずそうに視線を逸らす。

 ――分かっている。リーナたちが手伝ってくれるのは大変ありがたいことだということも、彼女でなければいけないということも。

 嫌というほど思い知らされているからこそ、反対の言葉を出してしまった自分に驚いてしまった。

 でも、それが自分の本音なのだと気付くまでにそれほど時間は掛からずに小さく溜息を吐く。


 『聖なる乙女』だろうがなんだろうが、彼女は自分にとっては大切な少女のままなのだ。大切な存在だからこそ危険な目に遭って欲しくないと強く願う。


「……エメリヤ」

「……」


 父から咎めるような、そんな声音で名前を呼ばれてもエメリヤは意見を変える様子はなく顔を逸らす。

 ここまで来ると中々意見を変えないことは分かっているためにエルガーは、はぁ、と溜息を吐く。

 エメリヤの気持ちもわかるからこそ強く言えないのも事実で、どうするべきかと考えるとまず最初に動いたのはリーナだった。

 顔を逸らしているエメリヤの前に回り込んで、逸らせないようにじっと見ながら顔を覗き込む。


「大丈夫だよ。エメリヤだって、あたしが強くなったって言ったじゃない」

「……それとこれとは話は別だ」

「えー……、だって一刻を争う事態なんだよ、ね?」

「ええ、まぁ……急がなければいけないのは事実ですが」


 安心させるように言葉を紡ぐものの、エメリヤは頑として意見を変えないようできっぱりと告げるとリーナは困ったような笑みを浮かべる。

 その後にエルガーへと視線を向けて問い掛ければ、こくりと頷いて答えはするがこの状態のエメリヤを説得するのは中々難しい。

 それは付き合いの長かったリーナにも良く分かるので、うーん、と悩む。少し離れた場所から見ていたライアンは僅かに首を傾げる。


「人数が多い方がいいんじゃないのか……?」

「俺もライアンの意見に賛成。……ねぇ、エメリヤ? 君がリーナのことが心配なのは良く分かるつもりだし、反対する気持ちも理解出来るよ」

「……」

「でも、だからと言って住人が危険に晒されているのを君一人の我儘で見過ごすわけにはいかないんじゃない?」


 ライアンは特に何も考えずにただ、思った言葉を口にすれば、その意見に賛成するかのようにアルは頷くとゆっくりとエメリヤへと視線を向ける。

 そのまま言葉を続けつつも少々咎めるように聞こえてくるアルの言葉には反論出来ないのかエメリヤはぐっと手を握り締める。

 我儘だと取られても仕方ないということは誰よりも理解している。そして今、その我儘を突き通してはいけないことも。

 気持ちがそれを納得しないのも事実。エメリヤは葛藤するのを考えを落ち着かせるように深々と溜息を吐くと、ゆっくりと僅かに首を横に振る。


「……今回は私が悪かったようだ、すまない。父上……捜索は私と、彼女達を合わせた四人で行います」

「エメリヤ……」


 渋々に、だが少々申し訳なさそうな表情を浮かべて謝罪を口にすれば、心配そうに見守っていたエルガーへと視線を向けると決まったことを口にする。

 エルガーは何とも言えない表情を浮かべて名前を呼ぶも、こくりと頷いて了承をすれば自分の近くに四人を呼び寄せる。


「それで捜索範囲だが、街の近場と少々遠くまで探してもらう二手に分かれて欲しいと思ってるんですが……」

「私は遠くの方に行こう。この辺りの地理に詳しい者が行った方がいいだろう」


 説明するようにエルガーが口を開けば、エメリヤは少しだけ考える仕草を見せると小さく頷いて告げる。

 それには反対の意見はないのか誰もが頷くとリーナ達三人が互いに顔を見合わせる。


「俺は……、近場を探そう。戦いになったときに足手まといになりかねない」

「ああ、じゃあ、俺がライアンの護衛を兼ねて一緒に探すよ。リーナはエメリヤと一緒でお願い」

「え? う、うん、分かった。……それで、いい? エメリヤ」

「構わない。……では、父上」

「ああ……、こんなことを頼んで本当に申し訳ありません。……よろしくお願いします」


 互いに顔を見合わせた後に最初に口を開いたのはライアンだった。少々申し訳なさそうに言葉を紡げば、アルは少しだけ考える仕草をするも自ら申し出ればリーナに告げる。

 まさかの展開にリーナは驚いた表情になるもこくりと頷いてから、エメリヤの様子を窺いながら問えばエメリヤは反対するのを止めたのかこくりと頷いてから父を見る。

 エルガーは申し訳なさそうに謝罪を口にしてから深々と頭を下げると、託すように言う。それには誰もが頷いて答えれば、四人は街の外へと向かうのだった。


 


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