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聖なる乙女と運命の人  作者: 雨月 雪花
第一章 負の感情が作りだすモノと、元騎士兼教育係
14/103

04

 



 リーナが指差した先にいたのは、髪色は金、見えた瞳の色は翠、服装は年相応かそれよりも若干大人びたような感じで、見た感じの年齢は二十代前半の青年と言ったところか。

 花壇に隠れている三人は住人たちから不思議そうな視線を向けられるが今出て行くわけにはいかないと言わんばかりに出来る限り、背を低くして見えた青年をじっと見る。

 様子を見る限り、リーナとアルは見覚えのある青年らしいがライアンは当たり前の如く知っているはずもないが、二人の反応を見る限りでは城の人間なのかも知れない。

 第一王女であるリーナは見た目を変えてはいるが万が一という場合なのか、ただ単に条件反射なのか分からないが見付かりたくはない相手なのだろうと予想は出来る。


「エメリヤ様!」


 一人の男性が青年の名前を呼びながら駆け寄っていくとエメリヤと呼ばれた青年は足を止めてゆっくりと振り返る。

 聞こえてしまった名前にリーナは分かりやすすぎるほどにやばい、と顔色を更に悪くし、アルも苦笑を浮かべることしか出来ないようだ。


「……どうした?」

「ここまで来られるなんて珍しいと思いまして……どうかなさいましたか?」

「ああ……いや、たまには街の様子を見て来いと父上に言われてな」


 振り返ったエメリヤは、見覚えのある人だったのだろう僅かに首を傾げて問い掛けると男性の方は微笑みを浮かべながら、気になったことを聞く。

 聞かれたことに対して特に気分を悪くした様子もなく、どこか納得したように頷くと聞かれたことに関してあっさりと答えを返せば納得したように頷く。

 そんな様子を見ながらライアンは、首を傾げて考えながら一度エメリヤから視線を外してリーナとアルを見る。

 顔色を悪くしたリーナは何かに怯えるようにかたかたと身体を僅かに震わせ始め、アルはぽん、と慰めるように肩を叩いていた。

 間違えなく城の人間だろうと思いながら改めてエメリヤへと視線を向けはするものの、彼の格好そのものを見ても城に仕えている人間または騎士には到底見えない。

 どこにでも居そうな極々普通な青年のようにしか見えないのだが、二人の知り合いには間違えないのだから移動した方がいいのではないだろうか。

 そう思ったライアンは出来るだけ声を小さくしながら口を開く。


「……隠れたままでは気付かれるんじゃないか?」

「そ、そうかな? やっぱり、気付かれる? いや、気付くよね。スルーされたことなんて一度もなかったし」

「リーナ……落ち着いて?」

「アル! 由々しき事態なんだよ!? 道理で聞き覚えのある名前だと思った!」


 ライアンの声が聞こえたリーナは、はっと慌てたように困惑した様子で頭を抱え込みながらぶつぶつと呟き始めると、アルは落ち着くように声を掛ける。

 声を掛けたのだがリーナは、がしっとアルの腕を掴みながら小声のまま必死に訴えかけるように告げると事情が分かるアルは苦笑を浮かべることしか出来ない。

 ――確かに、彼がいることは想定外だった。否、思い出してさえいれば避けることも出来たのだが今更気付いても遅い。

 どうにかして見付からないように姿を隠さなければと思いはするが、エメリヤと男性の会話は続いていて動くタイミングを掴めない。


「そう言えば……エメリヤ様。領主様のお身体の具合は大丈夫ですか?」

「ああ、心配をかけたな。……まぁ、父上は色々なことを考え過ぎては身体を壊すからな……」

「そうでしたね。それでエメリヤ様もこちらに戻って来られたんですから」

「……未練がないと言ったら嘘にはなるが私が選んだことだ。どちらにしろ、いつかは戻って来ることになったのが早くなったに過ぎない」


 ふと男性は思い出したように心配気に問い掛ければエメリヤは僅かに苦笑を浮かべ、肯定するように頷けば最後は溜息交じりに呟きを漏らす。

 その言葉には同意をせざるを得なかった男性は苦笑を浮かべつつも、どこか言い難そうにエメリヤを見ながら告げるとエメリヤはふと遠くを見るような視線になるもそれは一瞬で僅かに目を伏せながらぽつりと呟く。

 エメリヤの言葉を聞き取ったのかリーナはぴくり、と小さな反応を示す。

 ――そしてリーナはそっと様子を窺うようにもう一度エメリヤへと視線を向けた。ここからでは良く見えはしないが、どんな表情をしてるのだろうと思う。

 声を掛けたい気持ちが僅かに芽生えるのだが、今はそんな立場でないことを自覚してるのでぐっと我慢する。

 リーナは視線を外して、改めてどうやって気付かれないように去るかを決めようと二人へと向き直ったために気付かなかったのだ。ふとエメリヤはリーナ達が居る方向へと視線を向けたことに。


「……エメリヤ様?」

「……」


 男性は突然会話を途切れさせたエメリヤの名前を不思議そうに呼ぶが、その声には答えることなく、じっとある一点を見つめる。

 エメリヤがいる所からでは花壇しか見えないのだが先程から視線を何度も感じた。気の所為ということも否めないが、確認しても損はないかと思い、話していた男性に一言詫びをいれるとゆっくりと歩き出す。


「とりあえず! 今は気付かれないようにしてあそこから去ったら、急いで宿に逃げ込んで……」

「まだ宿、見付かってないけどね?」

「うー……すぐ見付かるよ! 多分。明日早くに出発すれば大丈夫、だと思うし」

「……」

「……ライアン?」

「どうかした? さっきから黙って」

「遅かったようだ」

「え?」


 リーナは声を潜めて、思い付く限りの提案をするのだが問題点をアルが挙げれば、リーナは唸りはするものの根拠のない自信を込めて言い切りつつ、ほとんど自分に言い聞かせるように呟く。

 その間、ライアンが一言も言葉を発さなかったことに気付いたリーナが名前を呼び、アルも不思議そうに声を掛ける。

 ライアンはある一点を見つめたまま、一言端的に告げればそれが何を意味するか分からなかったために、ライアンが見ている方向へと視線を向けるとリーナは驚きで、身体を硬直させる。


「……あ」


 今更ながらに姿を消しておけば良かったとアルは思った。思わず声を漏らしつつ間近に見えた姿にアルは、どういう反応を返すべきか分からずに軽く手だけ振ってみる。

 ――そう、エメリヤが花壇に近付いてきており、その後ろにいた三人を見付けると僅かに驚きからか目を見開かせつつ、順々に視線を向けていく。

 ライアンには見覚えがなかったのでそのままスルーをし、アルを見れば手を振られたために見間違えないのだろうと思い、その隣で固まったままのリーナへと視線を向ける。

 髪の色も瞳の色も、そして髪の長ささえも自分が知っているある人物とは異なりはするが顔まで忘れるはずもなく、エメリヤはただ信じられないとばかりに声を漏らす。


「……まさか。……マリアリージュ、なのか?」


 エメリヤから洩れた名前に一番驚いたのはライアンであり、アルはしまったとばかりに顔を手で覆う。

 彼女を良く知る人物ならばどれだけ色を変えても気付いてもおかしくはない。何よりも証拠として自分がいるのだから意味がない。

 はぁ、と溜息を一つ吐きながらも固まったままのリーナへと視線を向けてから、腹を括るしかないな、と苦笑を浮かべた。


 


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