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聖なる乙女と運命の人  作者: 雨月 雪花
第一章 負の感情が作りだすモノと、元騎士兼教育係
11/103

01

 



「ということで!」


 クレスタ王国から出発をして数分経って、ようやく門が小さく見えるようになった時だったろうか。

 一歩手前を歩いていたマリアリージュであったが突然足を止めてくるっと振り返ると声を上げる。

 彼女が止まったために後ろを歩いていたアルとライアンも釣られるように足を止めつつ、マリアリージュの言葉の意味が分からずに首を傾げて言葉を続きを待つ。


「最初の行き先を決めたいと思いまーす!」

「……。マリア……? まさか、行き先決めてなかったの?」

「うん。だって、国から出ることなんてほとんどなかったし!」


 提案するように告げられたマリアリージュの言葉にアルは言葉を失いながら、恐る恐ると言わんばかりに問い掛ければ、マリアリージュは当たり前だと言わんばかりに即答で頷く。

 さすがにそれにははぁ、と溜息しか吐くことが出来なかったアルを見てライアンは、どうしたものか、と思う。

 基本的に街と街の間にあるのは何も無い草原であったり、森であったり。この辺りでは鉱山も多い。

 魔物と呼ばれる類の存在がいないことからのんびりと歩きで旅をする者も少なくはないが、定期的に馬車が出ている街は少なくはないと聞いている。

 他の移動手段としては馬ぐらいなものだが、自分が知らないだけで他の移動手段もあるのかも知れないな、とライアンはぼんやりとそんな事を思う。


「てっきり、マリアが行き先を決めて出発したのだと思って……」

「あたしはそこまで計画的じゃない!」

「いや、それは自信満々に言うことではないよね? ……どうしようか、ライアン?」

「俺、か?」


 頭が痛いとでも言わんばかりにアルは手で頭を抑えながら溜息交じりに呟けば、マリアリージュは胸を張りながらキッパリと言い切る。

 アルはそんなマリアリージュを見て苦笑交じりに一言気になったことを言った後に、助けを求めるかのようにライアンを見る。

 まさかここで自分に話を振られるとは思わなかったライアンは思わず自分を指差してしまいながらも、僅かに首を傾げる。

 自慢ではないがマリアリージュと同じくクレスタ王国から出た経験はない。時折話を聞いたりはするがさほど興味がなかったために覚えている話の方が少ない。

 なので意見を求められても困る、と思ったライアンであったがふと思い出したように家を出る際に持ってきた鞄を開けるとがさごそと鞄の中を漁る。

 いきなり鞄を漁り始めたライアンを見た二人は互いに顔を見合わせて、きょとん、とした表情になるものの、ライアンが探していたものはすぐに見付かる。


「これを見て決めればいい」


 ライアンが鞄から取り出したのは、世界地図だ。アルへと手渡せば、彼が開けば良かったんじゃないだろうか、と思いながらもアルは地図を開く。

 こういう地図は有名な場所かそこそこに名の知れた街しか書いていないものが多く、これも例外に漏れない。小さな街や村まで行くと書かれていない場所も少なくはないだろうがとりあえずは行き先を決めることが出来る。

 ほっと安堵の息を漏らしたアルの両隣からマリアリージュとライアンが地図を覗きこむ。

 実際に地図を見たからと言って、どの街がどういう場所なのか、などということは一切分からないのだがふとマリアリージュはある場所を指差す。


「ここ! クリスの故郷に行ってみたい」

「え? ああ……うーん、行けないことはないと思うけど。さすがに行ったら連れ戻されると思うよ?」

「えー……」

「……クリス?」

「ああ、そっか。ライアンは知らないよね。えーっと本名は、クリストファー=ユベル=リーディシア。リーディシア王国の第二王子でマリアの婚約者だね」

「元!」

「はいはい、元婚約者ね」


 マリアリージュが指差したのはクレスタ王国の友好国でもあるユーディシア王国だ。アルは考えるように唸りながら、苦笑を浮かべつつ告げれば、マリアリージュは不満げに声を上げる。

 唯一、聞き覚えのない名前が出たライアンは僅かに首を傾げるとふと気付いたようにアルが説明するように口を開けば、マリアリージュはすかさず訂正をする。

 訂正には苦笑を深めながら言い直しつつ、ライアンは納得したように頷いてからマリアリージュへと視線を向ける。

 ――婚約者が居たという事実には驚きそうになったが、彼女の立場を考えれば極々普通のことなのかも知れない。

 今こうして一緒にいる時はどこにでも居るような普通の女の子に見えてしまうが、実際にはクレスタ王国の第一王女であるのだから。

 改めてそれを実感させられたライアンではあったものの、今更それを気にしても仕方ないと思えば改めて地図へと視線を向ける。


「一度見てみたかったなー、クリスの故郷。行ったことないんだよね」

「……まぁ、今すぐは無理だけど。その内、行く機会は得られるんじゃない?」

「ほんと? じゃ、楽しみにしてよーっと!」


 未だに不満げなマリアリージュの呟きを聞き取ったアルは、苦笑を浮かべながらも機嫌を取るように告げるとマリアリージュはぱぁっと顔を明るくさせて、ニッコリと笑顔を浮かべる。

 単純で良かった、と思いながらアルは地図へと視線を移しながら、うーん、と考える。

 クレスタ王国からならば意外と行ける街は多い。歩きで行けば数日かかる場所から、一時間もあれば行けるような近場の街までよりどりみどりだ。

 どこに行きたいかと言われればそれこそ、分からない、と答えるしかなく、アルは考えるように唸り声を上げつつもすっとライアンが一つの場所を指差した。


「ここはどうだ? 近いし……」

「ん? えーっと……ヴェルディの街?」


 ライアンが指差したのは、クレスタ王国の目と鼻の先にあるヴェルディの街だ。アルは街の名前を挙げると、マリアリージュはきょとんと首を傾げる。


「ヴェルディ?」

「うん。歩いても一時間もあれば着くんじゃないかな」

「ううん、そうじゃなくて。聞き覚えがあるなーって」

「まぁ、一番近場の街だし、聞き覚えがあってもおかしくはないと思うけど」

「……うーん?」


 その名前に引っ掛かりを覚えたマリアリージュは繰り返すように呟くと、アルは頷きつつも地図を見ながら説明する。

 だが説明にはマリアリージュはふるふると首を横に振りながら、引っ掛かった部分をぽつりと零せばアルは僅かに首を傾げつつも可能性の一つとして挙げる。

 確かにそれはそうなのだろうが、そうではないような気がして。でもどうしても思い出せないマリアリージュはひたすら首を傾げて唸り続ける。

 そんな様子を見ていたアルは、思い出すように地図から空へと視線を移すと考える。


 ――ヴェルディの街。


 街とまで着けば、あまり聞き馴染みがないような気がするが「ヴェルディ」というだけならば確かに聞き覚えがあるような気がする。

 何度も繰り返して聞いたようなそんな感覚すらするが最近は全く聞いていない気がして、やはり思い出せない。


「……? 結局、どうする?」

「え? あ、ああ……マリア。どうするの?」

「うーん……。いいや、ヴェルディの街に決定! 旅の始まりだし、最初から無理しても良いことないだろうしね!」


 二人の様子を不思議そうに見ていたライアンは僅かに首を傾げるも気になったことを問い掛けると、はっとしたようにアルは考えを一旦止めて唸り続けているマリアリージュに意見を求める。

 求められたマリアリージュはと言えば、どれだけ考えても思い出せないのか諦めたように一つ息を吐けば、決めたと言わんばかりに言い切りつつ、地図へと視線を向ける。

 方向としては街道を歩いて行けば問題はなさそうだ。

 それを確認してから、マリアリージュはまた一歩前を歩き出す。歩き出したのを見て二人は苦笑を浮かべつつ、その後を追うように歩く。

 アルは歩きながら地図を折り畳みながら、隣を歩くライアンへと渡す。


「そう言えば、地図なんて良く持ってきたね?」

「出掛けに渡された」

「……。ああ、うん、なるほど」


 手渡された地図を鞄へとしまう姿を見ながらアルは気になっていたことを問えば、ライアンはぽつりと呟きを漏らす。

 彼が自ら進んで持ってきたわけではないことを知ったアルは一つ苦笑を浮かべながら、納得したように頷いたのだった。


 


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