表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/35

4

夕子の家を出たところで、ため息をついてみる。しかし不安感が息と一緒に口内から排出されることはない。むしろそうする事で夕子が見せた仕草が回想される。そして改めてまるで自分が取り返しのつかぬ事でもしてしまったかのような気になり、全身の血が下へ下へと下がっていくような不快感がした。心も体も冷静であった、動揺はしていない。それでもこの言い表せぬ不安は以前にも感じた事はあるが今はそれが思い出せずにいた。

 少し歩いた所で、僕は近くに見える駅ビルのずっと向こう、どこかの空がとても美しいのを発見した。夕方の太陽を薄い朧雲が隠しているのだが、その朧雲自体が太陽に照らされて薄紅色の輝き帯び、僕にはまるで雲が落ちてきているように見えた。その景観がとても美しいのと同時に悲しさのようなものを感じた。理由は分からない、しかしその悲しみはやはり今の僕が抱いている不安や悲しみに似ていると思う。

帰りの電車でバイト先の大船へ向かう途中、僕は電車内で読みかけの文庫本を開いたが、読書に集中することができない。先ほどの夕子の涙が頭を過ぎり、僕はそのことばかり考えてしまう。そもそも僕は夕子の無く姿を見るのは初めてだった。さらに言うと女性の涙自体あまり見たことが無かった。テレビドラマで連日繰り広げられる悲哀に満ちた物語の涙なんかはやっぱり嘘だったのだと、夕子の涙は教えてくれた。泣いている理由が分からないのにそれは僕の心に訴えかけてくる、悲しみが目を通して伝わってくる、そしてその伝わったものが僕の中で不安、混乱、悲しみ、様々な負の要素へ変換される。そしてそれが文章を読むことを遮っている。僕が無理にストーリーを読み進めようとしても内容が全く頭へ入っておらず、結局何度も同じポイントを読み返している。結局、大船駅へ着くまでの三四十分間、その物語の主人公は同じ場所を行ったり来たりしていて、しおりは電車へ乗る前と同じページに閉じられた。

  大船駅に来ると必ず目に入る観音像がある。山間にやたらと白い顔がライトアップされて不気味に光っている。大船の夜という場所が持つ独特の雰囲気と相まってそれは特別不気味に見えてくる。薄着をしていたせいもあるが夏だというのに今日は少し肌寒い。まるで秋口のような気候で、僕はポケットに手を突っ込んで体を小さく丸めて大船駅を出た。時計に目をやると短針は八を示し、大学を出てからまだ三時間しか経っていなかった。昨日の夜はこんなに暗くは無かった気がする、そして今日は満月だ。先ほどの朧雲はどこかへ消えて、裸の月が夜の黒の中で輝いている。僕は再び夕子を思い出した。先ほどの涙のずっと前を思い出していた。そして今、この寂寞とした月下でならば夕子との出会いがなんの恥ずかしげもなく思い出せる気がした。そして僕は一呼吸して、あの時を回想した。



修正が多くてすいません。

どうも改行がうまくいってなくて・・・

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ