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二人の葬式が行われたのはそれから二日後の事であった。元旦になるとうちにやってくる母の姉・綾子に式に関する事はまかせっきりにした。
僕は式場の二階の一室で窓から式の様子をじっと眺めて二人の死に涙を流す者達の顔を見ていた。沙耶の高校の同級生が大勢来ている。その大勢の殆どが同じポーズで涙を拭っていた。僕はそのすすり泣く声がとてもうるさく、不快だった。そしてそのどれもが嘘っぽく見えてしまった。僕は泣かない、僕にはもう泣く事さえ出来ない。自分でもそう分かっていた、これほどの大勢の嘘くさい涙に二人の死が汚されて僕の涙が乾いてしまった気がしていた。しかしその一方でそんな風にしか感じる事の出来なくなってしまった自分が嫌で嫌で仕方がなかった。
「早く終わってくれよ。」
心からそう思った。こんなパフォーマンス何の意味もない。僕の心を掻き毟り、僕の闇を増幅させるだけのこのお決まりの儀式とお決まりの挨拶や涙。皆これから僕を見て同情するだろう。僕に意味のない言葉を投げかけるだろう。そしてそうする事で自分だけ満足して帰っていくだろう。こんなありふれた悲劇なんて今夜にでも忘れてしまうのに、あたかも自分がそれを背負っているかのように僕の前で堂々とその涙を見せるだろう。僕はその行為や涙をあたかも至高な哀れみや愛情として受け取る事を強制させられ、その行為が終わるのを待って彼らに隠れて小便と一緒にお前たちから受け取った偽愛を吐き捨てる事を義務付けられている。だから僕は怨む。僕はこの一連の流れ作業を怨む。
クライマックスに近づき人々の目にハンカチが当てられ僕の苛々も佳境に入っていた。吐き気と言っても大袈裟じゃない、今すぐにでもこの感情を吐き捨てるたい。
何もかもを黒く染める絶望感を拭うのもきっと容易いだろう。しかし何もかもを拭った後、そこに裸で立たされる自分を想像して僕はまたこの闇を羽織るのだ。