25.嵐
あれからどれほどの歳月が流れただろうか。いや、実際はそれほどではない。
あの夕子の涙から一ヶ月位しか経ってないくらいだろう。
僕の砂漠の旅は何もない平坦な道に差し掛かり、恐らくこれからもう旅の終点まで何もないだろうと勘繰っていたある時・・
吹き荒れた突然の砂嵐。
そして今、僕はこうして君たちと話をしている。
最近は少し寒い。夏が終わってまだしばらくしかしてないのに。
大学三年の秋、友人達は少しずつ離れ離れになりながら黒いリクルートスーツに袖を通して町へ出る。僕は相変わらず、何かに囚われながらぶらぶらと何もせずにいた。
昼過ぎた頃に布団から出て、携帯のアラームを止める。昼の時間のバラエティ番組を見ながら一時間程かけて昼食を取る。
そして誰もいなくなった部屋を見渡し、しばらく無心になってみる。
あいつからのメールにも一切の返事をしていない。
伊藤は公務員になるために勉強中だそうだ。この前、彼と話したとき相変わらず無邪気で憎らしい狐みたいなあの笑顔を僕に見せてくれた。
香織はどうしているのだろうか。一応、コンビニの店長には休みを取らせて欲しいと伝えている。何日か休んでしまったから・・そろそろ行かないといけない。
そして夕子とは今日で十二日会っていない。何通かメールは着ていたが返事は出来なかった。あれほど僕を捉えて離さなかったも夕子のあの涙さえ今となっては思い出せない。
母さんと沙耶が死んで今日で十二日。
毎日毎日・・毎日毎日・・我が家に響く時計の音がこんなにうるさかったのか、と気付く
この僕らの住んでいたアパートがこんなに広かった事に気付く
玄関に飾られた沙耶の絵が以前よりも力強くそれでいて儚い・・そういう印象を受けている自分に気付く
静か過ぎる部屋で最近やっと二人が死んだという事を理解した。
「放せ・・」
誰もいなくなった部屋で僕は無意識に呟いた。それは本当に今までに体感した事のない程、無意識の行動で。僕の心を掴んで離さない「闇」に殺されないように呟いていた。
さぁ・・いよいよ僕は死ぬだろう。その前にしばらくあっていなかった人と会いたい。それで何か話す。
だからもう少しだけ僕の話を聞いて欲しい。