22
バイト終わり、僕はコンビニの前で煙草に火をつけて香織を待った。
これでいいのだろうか。煙が鼻から入り込み冷静になった直後、僕はふとそう思った。
月のない夜闇が静寂を運んでくる。コンビニ前の電柱にカラスが停まって、綺麗な目をしてこちらを見ている。何も言わずに押し黙っている。
「気にするなよ。」
そんな事を僕に言ってくれている気がした。
風の音も人の話し声も、どこかでならされたクラクションも、今は聞こえているのに聞こえない。そんな静けさがここだけにある。
「お待たせ。帰りましょ。」
そんな静けさを包み込むような響きを僕は背中で聞いたが、すぐには振り返れなかった。夕子に対する後ろめたさか何なのか、僕はしばらく香織を見る事ができなかった。
何でこんなに僕は無意味な事ばかり考えているのだろうか。
さっきのカラスはもういない。僕は香織と二人の帰り道、空返事をしながら地面に問いかけた。
最近、どうも様子がおかしい。考えなくてもいい事ばかり頭を過ぎり回り道ばかりしている気がする。徐々におかしくなる自分の思考を抑えきれない。
「きゃぁ!」
ぼーっとして躓いてしまった。香織が笑ってる。僕も思わず笑ってしまう。
「何もないところ転んじゃった。」
嘘くさい照れ笑いを彼女に作り、ごまかしながら満足。
「平気ですか?」
彼女の大きな瞳が僕を覗き込んだ。光のように浮かぶ白い肌と白い歯、薄紅色の形のいい唇、黒い艶のある髪。僕は自分の心を疑いたかった、周りの景色が見えなくなるほどの感動的な衝撃が僕の全身を駆け巡った気がした。
あの桜並木で夕子を見た2年間、感じていなかった衝撃が僕の体を走ったのだ。
しかしあの時とは、少し違う。その瞬間さえも浮かんで消える夕子の悲涙。
たったそれだけの事なのに、僕の背中につめたい汗が流れた。