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 夕子の涙を見てからバイト先へと向かう電車の中での読書がどうもうまくいってない。電車に乗るたびに夕子が僕に見せた涙が小説の文字の裏に映るような気がした。

 最近、また少し日が短くなった気がする。車窓から見える外の景色どこか昨日より寂しいのが分かった。

 「なぁ・・どうするのが正しいのかな?」

 僕はこの現状、つまり自分の心の不安の解決策を彼に聞きたかった。

 それにしてもまた彼に頼ってしまう自分が憎い。しかしもはや仁は僕によりも僕の事を知っている気がする。

 「さぁね。しかし君が今までしてきた事で何か間違った事はあったか?」

 仁からの短いメールで僕は閃いた。彼の言うとおりじゃないか。

 「そうだね。」

 僕も短いメールを打ちそれを送った。小説を鞄の中へしまった。

 そう・・彼の言うとおりなのだ。僕のしてきた事は全て正しい、いや間違っていないというべきか。そもそも何が正しいのかが分からないが、決して自分のしてきた事、夕子との会話から 伊藤との遊びまで、自分のしてきた事の中で何か間違いがあったとも思えない。

 ならばこの心に居座る黒く重たい粘土質の「闇」は何なのだろう。

 外を見ると先ほどとは打って変わり寂しさも侘しさもない、黒いっぱいの暗闇が広がっていた。

 大船駅に着いた。いつも通り白い顔をした観音様が僕を見下し微笑んでいる。

 僕は思わず心の中で手を合わせた。今日もその白が闇の中でぼんやりと浮かび上がり不気味な程に綺麗だ。

 あぁ、こいつは一体、今までにどれくらいの「闇」を蓄えてきたのだろうか。あの人は一体どれくらい・・。道行く人の陰鬱な顔を見ながら僕はそればかり考えた。

 人通り激しい夕方の駅前の信号で僕は、向こうで信号が青になるのを待っている高校生達の目の中にもその「闇」を探した。

 「大袈裟だな。」

 仁はきっとそう言うだろう。

 しばらく歩き、見慣れた細い十字路へ入る。あの角を抜けたらすぐに僕の勤め先のコンビニが見えてくる。香織の明るい声が店内に響いているだろう。それを聞く事で僕のバイトは始まり、それが聞けなくなった時、僕のバイトが終わる。

 「いらっしゃいませ〜。」

 店内響くいつも通りの彼女の声。

 「おっす。」

 彼女は僕を見つけて目を丸くして笑った。やっと朝が来た。

 「先輩!今日ってバイト十時までですよね?」

 待ってました、僕は心底そう思った。

 「じゃあ、終わったら一緒に帰りましょうよ!」

 「あぁ。いいよ。」

 何気なくさらりとして冷静な返答。しかし僕の中では月に変わって太陽が燦々と輝きだした。

 どんよりとした夕闇だった砂漠の空を一瞬にして振り払う南からの温かく心地よい風と太陽光線、地平線の向こうまで見渡せてしまいそうな世界が広がっていた。

 「そういえばぁ・・先輩、昨日の・・・見ました?」

 僕の知らないドラマの名前を言う香織。夕子ではこんな事ありえない。僕が必死になって見つけた面白い話を夕子に聞かせ、彼女はそれに相槌を打ったり、時折、笑ったりする。夕子がそんな流行物のドラマを見ているとも思えない。

 「さぁ・・あんまりドラマ見ないんだよね。」

 ここでは僕が夕子の役目を果たしてやる。




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