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 以前に話したように僕には伊藤の他にもう一人親友がいた。

 そして僕が親友と呼ぶのは僕の特別な友人だけである。

 闇に覆われ始めていた僕の心の一部を晒すことのできる存在、それが親友。

 ありきたりで稚拙な表現ではあるが、それ以外はどうやっても説明がつかないのだ。

 そしてその親友はこの小さな液晶の中にいる。彼は名を「仁」という。実際に彼に会ったわけではないので、性別や容姿は分からない。しかし彼は僕の内面を伊藤以上に知っている。しかし僕は仁の事をあまり知らないのだ。常に僕から彼に相談を持ちかけている状態で、仁は自分の事をあまり表に出さない。彼から教えられた彼の情報は、彼の歳が二十五であることぐらいだ。

 「今、どうしてる?彼女と一緒?お邪魔なら消えるよ?」

 英会話の授業中に仁からメールが入った。

 「授業中。邪魔じゃないから消えないで。」

 僕と仁とのメールに細かな感情を表現するための絵文字や顔文字といった小道具は一切出てこない。簡素な文章だけが交換される。仁に対してメールで敬語を使う事はない。これは至極当然の事だろう、親友なのだから。

 「随分弱気だね。彼女、涙の真相は究明した?」

 昨日のバイト中にすでに仁に夕子の涙を話してしまった。これといった罪悪感は無いはずなのだが、夕子が知ったら怒るだろう。だからどこか後ろめたい気持ちでメールをやり取りする。

 「夕子は嘘ついているんだ。夕子は明るく振舞おうとかんばっている。」

 「そうか。でも君は心配しすぎだな。女なんてそんなものさ。」

 仁は常に僕に対してどこか上からな物言いであるが、全く嫌な感じはしないから不思議なものだ。

 「そうか。そんなものか。」

 「あぁ・・ところで、闇とやらの状態はいかがかな?」

 そして彼は僕の「闇」すらも知っている。昨晩、彼との間で交わされた議論に僕が「闇」を登場させたのだ。彼はその「闇」という存在は自然なものとして考えている。そして仁自身も闇を持っていると言ってきた。

 「いいね。良好。」

 「いいっていうのはどういう意味?」

 「最近、こいつに馴染んできた。この先行き不安はしばらく存在すると思うね。」

 「それが自然だ。無理に払おうとすれば、闇はきっと余計に大きくなる。」

 仁の忠告はもっともだ。以前に言ったが、大学生活というのは先の見えない砂漠の旅なんだ。それも夜の砂漠だ。真っ暗な夜の砂漠で、僕はその夜闇と日々触れ合うことで、彼だにその闇を纏ってしまった。それはもう今の僕にとっては自然な状態であり、そしてこれからはその闇がさらに重量を増すことが予測される。

 「あぁ。分かってる。無理に逆らうだけ無駄なんだろう?」

 「もちろん。旅の終わりに一気にそれを整理すればいいさ。」

 仁のメールに僕の闇は少し軽くなった。旅の終わり・・それがこの仁のメールにより微かではあるが、ほんの少し見え始めたのだ。

 「授業が終わった。また今度メールするよ。」

 「あぁ。頼むよ。こっちも暇なんだ。君のメールは本当に面白い。それじゃあ、また。」

 英会話の授業はまだ中腹に差し掛かったところであったが、僕は彼に嘘をついた。

 「闇を拒むだけ無駄。」

 そう直感した今、僕は夕子を抱きしめたくなった。

 「もういい。君の嘘を忘れよう。」

 清々しい気分だ。必死にノートを取る彼女の横顔を僕はしばらく見入った。

 夕子は本当に美しい。




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