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長い文章を書くのは初めてなので誤字が多いかも知れません。これを投稿するまでに五六回修正をしました。ご指摘、アドバイス、感想、文句、何でもください。でもできたらお手柔らかに。

 物語はいつも静かに始まり、静かに終わる。この僕の物語もまた静かに幕を閉じようとしている。数分前に書いた遺書を僕はもう一度一から読み返す。

そもそもどうして僕が遺書なんて奇怪な物を書くに至ったか、それをこれから説明しよう。正直、今は少し寂しい。やっぱり一人で死ぬのは寂しい。


 まず自己紹介からしよう。僕の名は「青木慶介」。はじめまして。

 しばらく僕の昔話を聞いて欲しい。少し長くなるかもしれない、聞き飽きたなら寝てしまって構わない。




 その日は夏だというにも関わらず随分涼しくて、夏独特のうだる様な暑さとそれを増長する耳障りな蝉の鳴き声も妙に風流に聞こえた。僕は東京新宿飯田橋のA大学の三年生で、その日も狭苦しい教室でボーっと授業を受けていた。僕の頭にはすでに「夕子」がいた。夕子は付き合って二年目になる僕の彼女だ。A大学で僕が話しかけたのを思い出す。思い出すだけで顔が火照る。学部は同じだが専門が全く違ったためにキャンパス内で会うことは稀であった。それでも今日は違う、今日はお互いこの五時限目の授業で終わり。毎週この日は一緒に帰っていた。

 授業が終わり、僕はいつも待ち合わせしている大学の談話室へ急いだ。すでに夕子は談話室の隅の背の高い丸椅子に座っている。いつもと同じ落ち着いた後姿だ。長い黒髪が首元で自然な形で二本に分かれて、その小さな隙間から白い首筋が覗いていた。談話室ははっきり言って煩い、落ち着かない奴らの甲高い笑い声が響きあい僕は大嫌いだ。それでも夕子の背中はそれに全く反応する事なく、知性と静けさを醸している。

 「待った?」

 僕は夕子の横へ座る。

 「ううん。今来たところ。」

 「次は待ち合わせ場所を変えようか。」

 僕は大げさに不快そうな顔をして辺りを見回した。

 「そう。わかった。」

 少し笑ってそう言ってくれた。僕らは互いに言葉の多いほうでは無い。この辺りにいるや奴らのように阿呆みたいに笑ったり、わざとらしく驚いたり、そんな面倒な会話は無い。お互いにそれが好きだからだ。

 二人はその喧騒をするりと抜け出し、さっさと飯田橋へたどり着いた。

 「今日、夕子の家に行っていい?」

 僕はホームで電車を待っている間彼女に尋ねた。僕はいつだって夕子共に在りたいと思っているが、いつだってその思いが行動に出せるわけでない。この言葉を搾り出すのにも多少のエネルギーを要する。それに伴い僕の胸はきゅっと締められ、自分の中にだけ緊張の糸が張り詰めるのが分かる。

 「いいけど。今日はアルバイト?」

 一瞬の間の後、夕子は言った。その言葉に僕は少し不安を覚える。そして心にはなんとも言えぬ淀みが生まれる。それは本当に何とも言えぬ淀みなのだ。押しては引く後悔と期待の波がその淀みの原因であることは分かっている。

 「うん。それまでの間、いいだろ?」

 更なる勇気とエネルギーを持って期待を掛ける。この言葉を搾り出すという重労働をこの賢い夕子が理解していない事が不思議である。ここから少し遠いのだが、僕は大学へ入る前からずっと大船のコンビニエンスストアでアルバイトをしていた。その時間まで彼女の家へ遊びに行くのだ。

 「いいよ。」

 頷いた時、夕子が少し笑ってくれた事は僕の心にあった淀みの様な物を溶かし消し去ってくれた。ほっとして思わずため息が出そうになるが平気な顔をしてそれを堪える。

 電車を待っている夕子を横から盗むように見る。夕子は遠い目をして線路に目をやっている。こんなボーっとした一瞬からも、夕子の美しさには隙はない。

 飯田橋から電車で三十分程乗れば彼女の家のある駅へ着く。そしてそこから四五分歩けば、白を基調をとしたモダンな造りの家が見えてくる。玄関前の花壇は先週と変わらず、鮮やかな赤と落ち着いた青の朝顔の花が交互に列を成して咲く様はいつ見ても不恰好だが、僕にとってはこの家の目印になっていた。

 「今日は家誰もいないよ。」

 夕子は家の鍵を開けながら僕に呟いた。別にアルバイトまでの時間、彼女に性的な行為を求めよう等とは考えていなかったものの、彼女の家族へ余計な気遣いをしなくていいと思うとそれだけで気が楽になるものだ。余計な気遣いと言っても軽く会釈して、中身の無い言葉を二三個程交わすだけなのだが、その会話にもまた終始張り詰めた緊張の糸が張られ多少のエネルギーを使う必要があるのだ。

 「お邪魔します。」

 僕は彼女の家族がいないと分かっているにも関わらずその挨拶を欠かしたことがない。

 「誰もいないって。」

 夕子は笑ってそれに反応した。この挨拶は僕の中では暗黙のルールのような物で、この挨拶抜きで彼女の部屋へ入ってしまうとどうもしっくりこない、そんな習慣染みた行為であった。



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