1話
<アーサー、巣立ちの準備はできたのかい?>
「うん。 森のみんなにも挨拶したし、持って行く物も無いからね」
<人間には気をつけるのだぞ。人間は森の者ほど優しくないからな>
「心配性だな~エルザは・・・・・・ 大丈夫だよ。悪意の見分け方は習ったからね」
『神狼の森』にある洞窟の中で、腰まで伸ばした白銀の髪をした少年アーサーはエルザと呼ばれた金色の狼の首に抱きつき頬摺りをしながら話している。
<母よ、俺も付いて行くから心配いらないぜ>
アーサーの髪と同じ色の体毛をした2mはあるかという狼が入ってきた。
<シロバンテイン、お前が付いて行くから余計心配なんじゃないか。おバカなお前がアーサーに迷惑をかけるんじゃないかとな>
「アハハ・・・・・・ シロも森からでるのは初めてだからなぁ~」
<うるさいっ 何があっても俺がアーサーを守ってやる 頭は悪いけど強いぞ>
「自分で認めてるし・・・・・・」
「ところでシロ その姿では連れて行けないよ」
<ふむ 問題ない>
一瞬シロバンテインの身体が輝くと子犬の大きさに変化した。
「お~~~~!!かわいいなぁ~~」
<ふんっ!>
「それではアーサー様、参りましょうか」
4人の女性がアーサーの前に現れた。
「ええっ~~~~君たちも来るの?」
「アーサー様、何を当たり前のことを?」
「アーサー、アタイ達が一緒じゃ嫌なのか?」
「御子様、吾等守役が同行するのは当然のことだ」
「アーちゃん、ノーちゃんも一緒だよ~」
「君たちは忙しいんじゃ?」
「アーサー様のお世話以上に大切な用事などございません」
「はぁ~……僕が呼ぶまで大人しくできる?」
「もちろんでございます」
「わかった。本当に大人しくしててくれよ……」
「畏まりました」
<アーサー 大変な旅になりそうだな>
「シロ なんだか目から汗が出そうなんだけど……」
<俺には関係ない>
「……」
「じゃあ エルザ行ってくるね」
<アーサー 気をつけて行くのだぞ。困ったことがあればいつでも呼べ。いつでも駆け付けるでな>
「わかってるよ。エルザも元気でね」
エルザは目を細めてアーサーを送り出した。
五分丈のズボンに膝から踝までの黄金の脛当、五分袖の上着に肘から手首までの黄金の篭手、脛当と篭手にはそれぞれ精霊石と呼ばれる石が嵌め込まれている。
腰帯の左側にはダガーと呼ばれる短い剣、腰帯の背中側には日頃使うナイフが差してあるだけの簡素な格好で森を後にした。