9話
部屋で寛いでいるとメイドが
「アーサー様、お食事のご用意ができましたので食堂においでください」
と声をかけ、食堂まで案内された。
「アーサー君、ささやかだが夕食を用意させてもらった。
可愛い弟子のご子息じゃ自分の家と思って気軽にすごしてくれ」
「ありがとうございます」
「アーサー君、突っ立ってないでそこに座ってちょうだい。シロにも用意してあるから安心してね」
シロには数種類の生肉の盛り合わせが足元に用意されていた。
シロは一度アーサーを見て、フローリアの足元にある生肉に噛り付いた。
「フロー、アーサー君はしばらくここに客人として逗留してもらって、お前の練習相手を務めてもらうことになったから、今日からアーサー君はお前の師匠じゃ」
「よろしくお願いします。お様師匠」
「こちらこそお願いします。それと師匠はやめてくださいよ~」
それからランバートはメイドや執事に目をむけ
「聞いての通り、アーサー君は公爵家の客人じゃ。失礼のないようにな」
「「かしこまりました」」
と一斉にアーサーに一礼した。
「アーサー君も何かあったら遠慮せず言ってくれ」
「なにからなにまで本当にありがとうございます」
「アーサー君、練習はいつから?」
「姫様、明日の朝からでも結構ですよ」
「フロー、午前中は練習じゃが、午後からアーサー君には勉強してもらうことになっておる」
「あら?なんのお勉強ですか?」
「国のことや貴族のことなどじゃな」
「狩人のアーサー君が国や貴族のこと?」
「アーサー君のお父上は貴族じゃったんじゃ。
それをアーサー君は知らんでな、それならとワシが教えてやろうかと思ったんじゃ。
ロバートとも友人じゃったし、できれば再興させてやりたくてな」
「ランバート様、面倒おかけします」
「それじゃあ、私が教えてあげるわっ
難しいことはお爺様に任せるけど、基本的なことなら私でも教えられるわ」
と拳を握り締め言い放った。
食後のお茶を飲みながら、明日からのことを話し合った。
日の出から朝食までは基礎訓練。
朝食後少し休憩してから実線的な訓練。
昼食後フローリアによる貴族教育。
午後のお茶の後は自由時間。
夕食後も自由時間。
というスケジュールが決定した。
「ねえ、アーサー君は魔術や精霊術も使えるの?」
「少しだけなら」
「ん?フローは魔術に興味があるのか?」
「ええ。昨日馬鹿息子の護衛が使った魔術をシロ君が跳ね返したのをみて、私にもできないかなって」
「シロほどの障壁は難しいかもしれませんが、かなりの魔力をお持ちなので、身を守る程度の魔術は覚えても良いかもしれませんね」
「おおっ ワシも習いたいぞっ」
とランバートも目をキラキラさせてアーサーを見た。
「ランバート様も?お習いになったことないのですか?」
「ワシは武術一筋じゃったから、いままで習う機会がなかったんじゃ。
正面から正々堂々相手を打ち破ることしか考えておらんかった」
「それじゃあ魔術の攻撃を受けた時は、どうされていたんですか?」
「避けるしかなかったの。大体は相手が魔術を放つ前に切り伏せておったが」
「まあ、お爺様ったら、それで素早い動きができるんですの?」
「武術の才にだけは恵まれておったからな。ロバートも一緒じゃぞ?」
「それなら私が魔術も習得して、公爵家の武術をより高みに上げてみせます」
「頼もしいことを言ってくれるじゃないか では婿には魔術の才も必要じゃなっ」
「なんでそこで婿の話になるのよっ」
「アーサー君、基礎訓練ってどんなことするの?走ったり、腕立て伏せとか?」
「明日、動きを見せてもらってから決めようと思ってます。
なんならシロの一緒にランニングでもしてみますか?
今日の入隊試験のコースだと2時間くらいのペースだと思いますけど……」
「無理……ってそんなの人間にできるわけないじゃないっ!!」
「アハハ それもそうですね」
「人間にできるレベルにしてちょうだい」
「かしこまりました。お姫様」
「その『姫様』ってのやめてよ。フローリアかフローかリアでお願い」
「じゃあリア様で」
「様もいらないわよ。アーサー君は師匠なんだから呼び捨てで良いわ」
「恋人みたいじゃないかっ フロー、アーサー君に惚れたか?」
「お・お爺様っ 昨日会ったばかりなんですよ」
こうして夜は更けていった。
ちなみに、シロは知らん顔して寝ていた。