7話
2回戦の途中でマラソンのトップグループが帰ってきた。
死にそうな顔で地面にへたり込んでいるものが多いなかで、まだまだ余裕とばかり足踏みをして息を整えている男を見てアーサーはホッとした。
組合で会った男は1回戦を突破したようであった。
予想通り2回戦の勝者は騎士団の3人と貴族の子息ひとりだった。
「アーサー君 今までの戦いを見てどう思う?」
「貴族のご子息はここまでですね。騎士団の3人は互角です。
『疾風のレオン』さんはスピードはありますが、一撃の破壊力がありません。
『爆風のレックス』さんは一撃必殺ですがスピードも技量も足りません。
『千手のリック』さんは一番技量がありますが、積極性がないので防戦から隙を窺う戦術なので負け難いですが決め手に欠けるってとこですね」
「それぞれの長短を的確に言い当ててるわね」
「姫様 次の試合は午後からですので、昼食をお持ちしますね」
クレアは部屋を後にした。
「アーサー君 昼からはお爺様も一緒に見ると思うからよろしくね」
用意された食事は二人分とシロ用の生肉だけだった。
「あれっ クレアさんのは?」
「使用人が主人と一緒に食べるわけにはまいりません」
「クレア 他に誰もいないんだから大丈夫よ。一緒に食べましょうよ」
「しかし……」
「クレア これは命令です」
「かしこまりました」
その後3人と1匹は歓談しながら食事をし、食後のお茶を楽しんでいた。
ガチャっ
「フロー 見ておったか?」
と言いながら白髪に立派な髭を蓄えた人が入ってきた。
「ええお爺様 少しがっかりだわ」
アーサーは立ち上がって頭を下げた。
「お爺様、彼が昨日お話したアーサー君ですわ」
「ランバート様 席をご用意していただきありがとうございます」
「よいよい 気にせず頭を上げてくれ。領民を助けて貰ったワシのほうが礼を言わねばならんのだから」
「それよりお爺様、アーサー君のお父上はお爺様の弟子だったそうよ」
頭を上げたアーサーを見て、ランバートは目を瞠り
「も・もしや……」
アーサーはニッコリ微笑み頷いてみせた。
「アーサー殿は、お母上に瓜二つじゃ目は父上似ですな。アーサー殿は今どこにお泊りかな?」
「今は組合の宿泊施設に泊まっています」
「そうか……クレア、客間を用意してくれ。
それからアーサー殿の着替えと晩餐の用意をしてくれ。
アーサー殿、組合のほうには使いを出しますので、当城にお泊りください。
つもる話もございますゆえ」
「お爺様の慌てた姿は初めてみましたわ」
とフローリアはコロコロと笑った。
「お爺様、アーサー君は凄いわよ~ 今までの試合結果ほとんど言い当ててるのよ」
「それは、たいしたもんじゃな」
「そのうえ騎士団3人の長所や弱点まで言い当ててるのよ」
「アーサー殿は余程の鍛錬をされてきたようですな」
「『魔狼の森』で魔狼達と一緒に狩りをして命懸けでがんばったそうよ」
「その話も後でゆっくりお聞きしたいもんじゃ」
準決勝も終わり、決勝戦は『爆風のレックス』対『千手のリック』の対決となった。
「アーサー殿はこの試合どう見ますかな?」
「そうですね。
レックスさんの攻撃をリックさんが受け流す展開となりますが、両者共いままでの疲れがでるでしょうから、体力に勝るレックスさんが有利だと思います」
「私の予想も同じね」
「なんとまあ 見る前から結果が分かってしまっていれば面白みも欠けるのう わははは」
「お爺様 私の練習相手はどうなるんですか?」
「今のままでは該当者なしじゃの。フローより弱いんじゃ練習にならんじゃろう」
決勝戦も予想通りに終わり、入隊試験の合格者発表のためランバートは部屋を出て行った。
「アーサー君はいつまで滞在できるの?」
「さあ?ランバート様に会うのが旅の目的のひとつでしたから、しばらくはゆっくりできますよ」
「そのために私の我侭も役にたつのね」
「お陰様で早くランバート様にお会いすることができました。
可愛い姫様ともお話ができましたから、僕にとっては幸運でした」
「まあ 可愛いなんて……」
うおおおおぉぉぉぉーーー!!
獣のような雄たけびを上げて会場で男がガッツポーズをしていた頃、お姫様は赤い顔でクネクネしていた。