1話
アーサーとシロはレジアス公爵領に入った。
バーニング男爵領とは違い、豊かな田園風景に安堵した。
『武術の里』と呼ばれるにふさわしく、空き地では子供達は木剣を振るい剣術の稽古をしているのが見える。
近寄ってしばらく見ていると木陰から老人が話しかけてきた。
「旅のお方かい?」
「はい。父の知人を訪ねてロレンツォまで行くつもりです」
「どこから来なさった?」
「魔狼の森から来たんです」
「魔狼の森?そりゃ遠いところから大変じゃッたなぁ」
「いえ どこに行っても初めて見るものばかりで楽しかったですよ」
とニッコリ微笑んだ。
「さっきから熱心に見ておるが武術に興味がおありかの?」
「ええ 僕も習ってましたから」
「ほぉ~ どんな武術かの?」
「主には体術です。あとは剣と槍ですね。戦斧も習ったんですが、あれは苦手でした」
「体術が全ての基本じゃからな」
「はい 武器は手足の延長だと教えられました」
「良い師匠にならったな。
これからロレンツォに行くのかい?」
「はい」
「では君も衛士隊の入隊試験を受けにきたのかな?」
「えっ 入隊試験?」
「なんじゃ 知らんのか?」
「ええ」
「年に2度レジアス衛士隊の入隊試験があるんじゃよ。
衛士隊に入れば公爵家の武術も習えるし、腕が認められれば騎士団に入隊できるかもしれん」
「へぇ~ 面白そうですね」
「一緒に騎士団の入団試験も行われるぞ」
「衛士隊からの昇格だけじゃないんですか?」
「他の領地の騎士団から修行の為に来る奴らもおるからな」
「見てみたいなぁ~」
「試験は誰でも見学できるんじゃ。
騎士団のほうは国中の猛者が集まるから面白いぞ。
それに今回は公爵家お姫様の護衛選抜もあるから騎士団同士の試合も見られるぞ」
「そりゃ面白そうですね。
レジアス騎士団って、そんなに有名なんですか?」
「ああ、領主の騎士団としては最強じゃな。
王都の騎士団に引き抜かれることも多いと聞くぞ」
「それは凄いですね」
「護衛選抜のほうは、騎士団の精鋭と各地から来る貴族の子息が参加するらしい。
まあ実質婿選びと噂されておるよ。ワハハ」
「おにーさん」
子供達が近寄ってきて話しかけてきた。
「この子 狼?」
「そうだよ 魔狼の子供だよ」
「怖くないの?触っても大丈夫?」
「大丈夫だよ 大人しいよ」
ナデナデ
頭を撫でられてシロは気持ちよさそうにジッとしている。
「わあ~ 気持ちいい~~~ モフモフしてる~~~~」
「シロ 子供達と遊んであげなよ」
迷惑そうな顔をしながらも広場に向かって走りだした。
子供達も慌てて追いかけて、鬼ごっこがはじまった。
単純に追いかけても捕まらないと分かった子供達は連携して追い込もうと必死で追いかけていた。
「僕も子供の頃、魔狼とああやって追いかけっこさせられました。懐かしいなぁ~」
「俊敏さと適応力を鍛えるには良い訓練じゃな」
「はい 型にはまってはいけないと言われました。
基本をおろそかにせず応用を利かせろとよく怒られました」
「相当な腕の師匠じゃな。それに教え方が上手い。一度会ってみたいもんじゃ」
「今は大陸中を放浪してますから、運が良ければ会えるかもしれませんね」
「それは楽しみじゃ」
「それでは僕はそろそろ出発します。お話できて楽しかったです」
「気をつけて行かれるがよい」
「それでは」
と子供達のいる空き地に足を向け、ヒョイっとシロを捕まえると子供達に手を振って歩き始めた。
「相当な技量じゃな。まったく動きに無駄がないわい」
と老人はひとりごちた。
アーサーはロレンツォの手前で林に入り、旅の途中で狩った獣の毛皮を空間魔術で取り出し、木に巻きついた蔓を紐がわりにしてひとまとめに括った。
<アーサーそれをどうする?>
「ああ 旅の狩人らしく組合で売ろうかななんてね」
<お金とやらが無くなったのか?>
「いや 他の狩人の真似してるだけ」
と笑った。
毛皮を担いで、町の入り口に差し掛かったところで番兵に声をかけられた。
「小僧 旅の狩人か?登録証を確認させてくれ」
アーサーは懐から登録証を出し、番兵に差し出した。
「その毛皮はどうしたんだ?」
「はい 旅の途中で狩りました。組合で引き取ってもらうつもりです」
「自分で狩りをしたのか?ダガーだけで?」
「ダガーなんて使わないですよ。これはただの飾りです。この程度の狩りなら素手で充分です」
「おいおい猪の毛皮もあるぞっ こりゃあたまげた」
「アハハ 子供の頃から仕込まれましたから」
「組合はあそこに見えてる建物だ。
明日からの試験で柄の悪い奴等もたくさんいるから絡まれるんじゃないぞ」
「ありがとうございます」
とペコリをお辞儀をして組合の建物に向かって歩き出した。
建物に入り買取受付に進むと
「いらっしゃいませ。今日は買取かしら?だったら登録証も提出してね」
と受付嬢は話しかけてきた。
「はい お願いします」
と担いできた毛皮と登録証を渡した。
「品質確認おねが~い」
と奥に声をかけアーサーに微笑みかけた。
「君が今アチコチで噂になってる『白銀の美少年狩人』のアーサー君ね」
「なっなんなんですかっ その呼び名は」
「いや~ルディアの受付嬢の子がね水晶玉通話で全国の受付に『すっごい美少年発見!!』って教えてくれたのよ。ウフフ……噂以上だわね」
毛皮の検査ができるまでアーサーはカウンターに突っ伏していた。