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セミナー『石になる方法』

作者: 鶴ヶ友護
掲載日:2026/08/25

 休日に駅前をぶらついていると一枚のチラシを渡された。

『今日からあなたも石! 初心者さん大歓迎!』

 意味がわからなかったが、参加費が無料なこと、特にやることもなく暇だったことから俺はとりあえず行ってみることにした。

 会場には二十人くらいいた。

 全員が座っていて、まだ何かをしている様子はない。

「初めての方ですか?」

 すると近くにいた男性が俺に声をかけてきた。

「はい」

「では、初参加の方はこちらの柔らかい席へどうぞ」

 男性はスタッフのようで俺を席へと案内してくれた。

 柔らかい席とはなんだ?

 そもそも石に席がいるのか?

 疑問は浮かぶが指示に従い腰を下ろす。

 すこしして、講師が入ってきた。

 講師は石──ということなく、すこし歳をとった男性だった。

「皆さんこんにちは。本日のテーマは『動かない勇気』です」

 講師が喋り始めると、周りの参加者がメモを取り始めた。

 俺はメモなんて持ち合わせていなかったので、記憶という名のメモ帳を頼るしかなかった。

「石は動きません」

 ああ、そうだな。

「石は返事をしません」

 当然だ。

「石は既読をつけることもありません」

 そもそもスマホ持ってないからな。

 俺の冷めた脳内ツッコミとは正反対に、会場は大きな拍手に包まれていた。

 そこから二十分ほどで次のテーマ『皆さんも石のように動くことを捨てましょう』が始まった。

 この時間は退屈、というか苦痛だった。

 二十分。

 スマホをいじることはおろか、体を動かすことすら許されなかった。

 その苦痛の時間が終わり、休憩時間。

 固まった体をほぐしていると、隣の人が話しかけてきた。

「僕、一年目なんですよ」

 若い男性は軽く笑いながらそんなことを言う。

 大学生ぐらいだろうか。

 正確な年齢はわからないが現代娯楽に触れる機会の多いであろう若い世代の人が、なぜこんな面白みのないセミナーに一年も参加しているのだろうか。

 疑問には思うが直接聞くのはなんだか失礼な気がするので、俺は別の言葉を言ってみせた。

「そんなにやってるんですね」

「はい。最近レンガになったばっかりで」

 恥ずかしそうに照れ笑いしながら男性は言う。

 どうやらこのセミナ―には昇格制度があるようだ。

 まあ、二度と来ないであろう俺には関係のないことなのだが。

「では、全員石になってください」

 男性と会話をしていると、講師の人がそう言った。

 話を聞いてわかったのだが、先ほどまでのはウォーミングアップだったらしい。

 これからやることこそが本番のようだ。

 俺も周りの人と同じようにじっとしてみる。

「違います」

 講師に止められた。

「それは、疲れてる人です」

 わからない。

 講師の言っていることも、石と疲れてる人の違いも、まったくわからない。

 結局、わからないまま二時間のセミナーが終了し、俺は終了証をもらった。

『あなたは小石です』

 終了証にはそう書いてあった。

 ……うれしくねー。

 帰り道。

 終了証を雑にポケットの中に入れたら指先になにかが触れた。

「ん?」

 疑問に思いつつ触れたものを取り出してみれば、それは小石だった。

「ふっ」

 記念品ってことかよ。

 いつ貰ったのかもわからない小石を家にまで持って帰る気にもなれず、俺はそれを適当に放り投げた。


 後日。

 そのセミナーの講師名義でメールが届いた。

『昇進についてのお知らせ』

 …………コイツ、普通にメールしてるやん。

 石は既読をつけないとは何だったのか。

 教えていたことと正反対の行動にツッコミつつ、俺はそのメールを迷惑メールとして報告した。

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