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吸血鬼嫌いの吸血鬼、ヴィルヘルミナ  作者: Takahiro
第一章 北方戦争 1252年

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城塞都市トワングステ

 数時間後。退屈していたヴィルヘルミナにようやく報せが届いた。


「殿下は、お前を連れてくるように命じられた。つまり、最前線の城塞都市トワングステに来いということだ」

「それはそれは。流石は辺境伯殿、話がわかる人だね」

「思い上がるなよ? お前が信用されたわけではない」

「分かってるって。じゃあ、トワングステまで行ってくるよ。世話になったね」


 ヴィルヘルミナはソファから立ち上がり、そのまま出立しようとするが、兵士達が慌てて止める。


「ま、待て! お前のような奴を領内に放つ訳にはいかない!」

「そうかい? ブロベルク伯は私を放任してくれたけど」

「それは……伯爵も、西の吸血鬼事件の対処で忙しいのであろう。ともかく、これからは常に監視をつけさせてもらう。くれぐれも妙な気を起こすなよ?」

「そんなことしないって」


 ――まったく、頑固な連中だね。


 ヴィルヘルミナは内心では呆れつつ、兵士達の要求を承諾した。馬を貸してもらい、騎士8名と供廻り15名ほどに監視されながら、ヴィルヘルミナは東に向かう。


 道中、取り立てて大きな問題は発生しなかった。ヴィルヘルミナは夜にしか移動できないので監視の兵や馬は随分疲れた様子だったが、彼らが勝手に言い出したことなので知ったことではない。


 ポメレニア辺境伯領の北東部の端、現在異民族・異種族との紛争の最前線となっている城塞都市トワングステの目前まで、10日ほどで到着した。


「もうすぐ太陽が昇ってしまうね。目的地は見えてるけど、すまないが今日はここまでだ」

「ああ。適当に洞窟でも探せ」

「君達も手伝ってよ」

「……分かっている」


 トワングステまでほんの2時間ほどの距離ながら、一行はその場で宿泊することになった。昼の間、ヴィルヘルミナは洞窟で寝ていたが、監視の騎士がポメレニア辺境伯にヴィルヘルミナの到着を報告しに向かった。


 ○


 トワングステは人口としては2千人程度しかいない小規模な街だが、城壁の規模は首都グダンツに劣らない。ただし、現在は城壁の内側のほとんどが兵士の宿舎となっており、住民はほんの僅かだ。


 ここで特徴的なのは、都市を数十の巨大な塔が囲んでいることである。その塔は、中心となる太い塔があって、その四隅に細い塔が連結されたような見た目をしている。太い塔は上から見ると正方形で、普通の家の床面積くらいの断面積を持つ。細い塔は5人も入ると一杯になるくらいの、よくあるような塔である。


 さて、ヴィルヘルミナが寝ている間、いつものように敵が攻撃を仕掛けてきていた。


 第21代ポメレニア辺境伯、アドルフ8世は城壁の上に本陣を置き、自らの目で戦場を見ながら指揮を執っていた。当代の辺境伯はまだ若く、30代になったばかり。彼の家系は目の色に特徴があり、すなわち宝石のように鮮やかな蒼い眼を持っていることが知られている。


「殿下、前線の歩哨より連絡です。東北東18キロ地点、ドラゴンおよそ30体の軍勢を確認しました」


 尻尾まで含めた全長はおよそ12メートル。エルフ1人を乗せたドラゴンの群れである。人口が少ないエルフの主力部隊だ。


「いつもの威圧だろう。城まで引き寄せ迎撃する。高射砲塔12番から36番、迎撃の用意をせよ」

「はっ!」


 城を囲むように立つ塔は、一般的に高射砲塔と呼ばれている。その名の通り、空から来る敵を迎え撃つことに特化した塔である。辺境伯は自ら双眼鏡で敵の様子を観察しつつ、攻撃の時を待つ。


「敵勢、高射砲塔まで距離3キロを切りました」

「よし。高射投石器、撃ち方初め」


 高射砲塔の中心である太い塔には、2門の投石器が載っている。数階建ての建物に匹敵する高さを持つ大型の投石器だ。投げ飛ばすのは石ではなく、火薬を詰めた砲弾である。


 発射された砲弾は、敵のドラゴンのすぐ近くに達すると自動的に爆発する。魔力に反応して火をつけるように設定した近接信管を仕込んでいるのだ。空中で次々と大爆発が起こるが、敵に与えられる被害はそれほど大きくない。


「4体を撃墜。5体が撤退しています」

「敵、1キロまで接近!」

「続いて対空弩砲、撃ち方初め」


 高射砲塔の四隅に備え付けられているのは、連装対空弩砲と呼ばれるものである。対空弩砲とは魔法で弦を引くことで矢を次々連射できるようにした兵器である。およそ2秒に1本、槍のような矢を放つ。その矢は鋼鉄でできており、ドラゴンの鱗も貫くことができる。


 その弩砲を2つ束ねた連装対空弩砲が、それぞれの高射砲塔の四隅に設置されているのである。


 たちまち雨あられのように鋼鉄の矢が襲いかかる。矢はドラゴンの表皮に次々と突き刺さり、それらは苦しそうにうめき声を上げる。


 が、敵も黙って落とされるわけではなく、ドラゴンの口から火球が放たれ、高射砲塔を攻撃する。運の悪い砲塔では炸裂弾の火薬に引火し、大爆発を起こして兵士や兵器が地面に叩き落とされてしまう。


「敵、残り10体を切りました」

「よろしい。間もなく撤退を始めるだろう」

「敵が反転していきます」

「これ以上の交戦には耐えられまい」


 若干の被害は出たが、全体的には余裕がある。ドラゴン9体を殺すことに成功し、戦いは幕を下ろした。

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