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吸血鬼嫌いの吸血鬼、ヴィルヘルミナ  作者: Takahiro
第一章 北方戦争 1252年

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首都グダンツ

 地中海の真ん中に長靴のように突き出した半島がある。古代、その中部にレムリアという都市国家があった。レムリアは周辺の都市国家を制圧し領域国家へと発展、更に飽くなき拡大を続け、地中海沿海地域のほとんどを勢力下に収めた。


 レムリアが圧倒的な大国としての地位を固めた頃、ガイウスという男が元老院よりアウグストゥスの称号を授けられ、実質的に皇帝と呼んで差し支えない地位を得た。この年が後世、帝国暦元年と定められた。レムリアに比肩する国家は存在しない故に、帝国という名詞は無条件にレムリア帝国を意味した。


 帝国暦50年までに帝国は異民族の領域であったゲルマニア地方を制圧。その大部分は大ゲルマニア属州と名付けられ、他の属州と比べ圧倒的に広大な領域を持った。単独で国家として機能し得る大ゲルマニア属州には、辺境の異種族や異民族に備える軍事的な必要性もあり、当初より広範な自治権が与えられていた。


 帝国暦303年、帝国は魔導通信によって辺境の情報が即座に届く体制を構築していたが、その果てしない領域と無数の人口を統治するには、一人の皇帝では限界であった。元老院は属州を大きく3つに分割し、それぞれに皇帝を置くことを決定した。西方帝、東方帝、南方帝である。大ゲルマニア属州は西方帝の領域に含まれていた。半島本土はいずれの皇帝領にも含まれず、帝都レムリアを治める首都長官の統治下に置かれ、行政的に帝国は4分割された。


 帝国暦483年、大ゲルマニア属州総督アエティウスは反乱を起こし、自らに帝位を要求した。異種族との戦いで鍛えられた彼の軍隊は帝国で最強であり、元老院はこの要求を呑まざるを得ず、アエティウスに北方帝の地位と領土を与えた。ここに帝国は4人の皇帝と首都長官によって5分割されることになったのである。


 帝国暦773年、北方帝領の東から異種族の大軍が攻め寄せる。帝国は為す術もなく、北方帝領と西方帝領のほぼ全てが瞬く間に制圧された。その支配者は魔王と名乗り、エウロパの覇者として君臨した。


 帝国暦824年、魔王領の内部分裂に乗じて、当時のグダンツ伯アドルフが諸種族勢力を糾合して反乱を起こす。アドルフの卓越した軍才により、連合軍はついに魔王城を陥落せしめ、50年に亘る魔王の支配は崩壊した。


 帝国暦826年、時の北方帝ルートヴィヒ3世はグダンツ伯に北方帝領北東の広大な封土を与え、ポメレニア辺境伯の地位を与えた。皇帝としては、これほどの功を挙げた人物に褒美を与えなければ求心力を失うが、その影響力の巨大さは自らの帝位を脅かしかねなかった。そこで、最大限の名誉を与えつつ、異民族との戦いに忙殺されて中央政界に介入し難い辺境伯にアドルフを封じたのである。


 北方帝領内で最大の諸侯となったポメレニア辺境伯であったが、歴代当主は『皇帝に忠誠を尽くすべし』という家祖アドルフの遺訓に従い叛意を見せることはなく、ルートヴィヒ3世の心配は杞憂であった。精強で知られる辺境伯の軍勢は、帝国領内各地で出没する魔物の討伐に度々動員され、その名声を高めた。


 そうして時代は流れ、現在は帝国暦1252年である。


 ○


 ポメレニア辺境伯領の首都グダンツは、辺境伯時代となってから大幅に改修され、3重の厚く低い城壁を持つ大要塞となっている。城塞都市の例に漏れず、城内に住んでいるのは自由市民と貴族のみであり、農民はほとんど城壁の外で暮らしている。


 その中央には一際高い白亜の城が聳え立っているが、それはあくまで象徴的なものであって、実際の領主は城の麓にある館で生活を送っている。


 吸血鬼ヴィルヘルミナは、真夜中になっても人の流れが絶えない大通りを堂々と歩いていた。彼女の異様な雰囲気はただの人間でも何となく感じることができ、誰もが距離を取る。


 声をかけてくる者もおらず、ヴィルヘルミナは領主の屋敷に到達した。鉄の柵で囲われており、門には完全武装の兵士が常に見張りに立っている。この前見かけた対吸血鬼用の兵装――全身を覆う鎧とトゲがたくさん付いた棍棒――の兵士である。


 ヴィルヘルミナは当然そんなものに怖気づくことはなく、気さくに話しかけた。


「やあ、諸君。辺境伯殿下はいらっしゃるかな?」

「……何だお前は。名を名乗れ」

「私はヴィルヘルミナ。吸血鬼だ」

「なっ……!?」


 言いながらフードを脱ぐと、真っ白な肌が月明かりに照らされる。


 兵士達は直ちに臨戦態勢に入ったが、すぐさま襲いかかってくるわけではなさそうだ。


「殿下に害を加えに来たのか?」

「いやいや、そんなつもりはないよ。ただ話したいことがあるだけだ」

「信用できるものか」

「だったら、これを見てくれたまえ。ベロベルク伯からのお手紙だ」

「手紙……?」


 ヴィルヘルミナが差し出した封筒を、兵士はひったくるように受け取った。少々乱暴に封筒を破って中身を検分する。


「……お前をある程度は信用できる、か」


 手紙には、ヴィルヘルミナがヴレデック村の多くの民を救ったことと、人間に無差別に危害を加えるつもりはないということが記されていた。

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