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吸血鬼嫌いの吸血鬼、ヴィルヘルミナ~元魔王は千年の時の中、今日も戦場を見届ける~【旧版】  作者: Takahiro
第三章 北方戦争の終幕

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和平交渉

「ドラゴンが2体とも殺された? そんな馬鹿なことがあるか」

「し、しかし、間違いありません! 最早動かぬドラゴンの死体を確認しております!」

「我らエルフがようやく飼い馴らせるようになったドラゴンを……。次に用意できるのは何十年後になるものか」

「トワングステを落とす切り札を失ったようだな、エーギル殿」


 ポメレニア辺境伯と相対する諸種族連合軍の指導者、ホルムガルド公リューリクは、参加しているエルフの指導者エーギルと絶望的な状況を確認し合っていた。


「そのようです。これでポメレニア辺境伯は、トワングステに大した兵力を置かずとも防衛することができます。奴を消耗させるという手は使えなくなりました」

「それでは、流石に我々の方が先に枯れ死んでしまうな」

「……はい。その通りかと」


 辺境伯領の南方で人間同士が勝手に争い始めた時は、辺境伯軍が大きく損耗することに期待したが、ポメレニア辺境伯は僅かな損害だけで大勝を収めた。トワングステの城壁を一方的に破壊し得る成体のドラゴンが失われた今、現有の全戦力で総攻撃を仕掛けたとて、これを落とせるかは怪しい。


「トワングステを完全に包囲できているのならまだ可能性があったが、結局それも叶わなかったな」

「やはり、兵が足りませんでした」


 実際のところ、諸種族連合軍はトワングステを完全に包囲できてはいなかった。ヴィルヘルミナやポメレニア辺境伯が簡単に入城できたのがその証拠である。トワングステは天下の巨郭であり、一切の隙間なく包囲しようとすれば10万近い兵が必要であろう。


 完全に包囲できていないということは、物資をいくらでも補給できるということだ。トワングステが飢えるまで包囲し続けるという手段は通用しなかった。


「最早これまで。ポメレニア辺境伯と和睦するしかあるまい」

「辺境伯に領土を奪われたまま和睦するとは……降伏も同然ではありませんか!」


 エルフのエーギルは珍しく感情を露わにしていた。こんな戦況でポメレニア辺境伯が領土を返還してくれるわけがない。多くの犠牲を払って、ついに奪われた土地を奪還することは叶わなかったということになる。


「では、卿には何か方策があるのか? ポメレニア辺境伯に負けを認めさせる方策が」

「それは……ありませんかと」


 エルフだからこそ、人間と比べて遥かに長い経験から、今のままでは勝ち目がないことが分かる。ポメレニア辺境伯を野戦に引きずり出せれば戦力差を活かせるかもしれないが、それが分かって迂闊に出陣してくるような男ではない。


「エルフの皆にはすまない。儂は失う者が何もないというのに」

「それは問題ではありません。いつか必ず、我らの土地は取り返しましょう」

「うむ……。果たして何十年か、何百年かかるかも知れぬが」

「それまでは、雌伏の時です」


 諸種族連合軍もまた、これ以上の長陣を続けるのは困難であった。だからこそ、こちら側から和議を申し出ざるを得ないのである。


 ○


「殿下、ついに敵は音を上げたようです。奴らの方から和平の使者が来ました」


 ヘルヴェコナ伯ゲッツからポメレニア辺境伯アドルフへの報告である。


「それは僥倖。丁重に迎え入れよ」

「もちろんです」

「あいつに任せて大丈夫なのかい?」


 ヴィルヘルミナは辺境伯に問う。ヘルヴェコナ伯に使者の応接などできるのかと、ヴィルヘルミナには甚だ疑問であった。


「ああ見えて、そういう礼儀作法については全く問題ありません。私もすぐ後に使者と面会し、こちらから条件を伝えるとしましょう」

「条件ねぇ。何を要求するつもりなんだい?」

「現状で私が占領している土地をそのまま譲渡することは前提ですが、それなりの賠償金も取らないと、国庫が空っぽになってしまいます」

「賠償金なんて払える余裕が相手にあるのかい?」

「ないでしょうが、戦争とはそういうものです。勝者の権利というものですよ」

「まあねぇ」


 ポメレニア辺境伯の要求は取り立てて強硬なわけではない。むしろ優しい方だと言えるだろう。


 そんなわけで、辺境伯は諸種族連合軍からの使者に要求を突きつけ、交渉を行った。話が余計な方向に拗れるのが面倒だったので、ヴィルヘルミナは蚊帳の外である。応接間が封印されていたのは、せいぜい数十分程度であった。


「首尾はどうだい?」

「賠償金の支払いは拒否されてしまいました。使者はホルムガルド公などと条件を見直して再び来るようですが、私からの最低限の要求すら拒否されたとなると、和平は困難ですね」

「じゃあどうするんだい?」

「相手が和平を受け入れるまで戦争を続けるしかありませんね。相手の吸血鬼とドラゴンが消えたからには、野戦を挑んでも問題ありません」

「まだ攻め込む気なのかい?」

「ええ。敵が諦めてくれるまで、戦争を継続します」

「依然として相手には数倍の兵力があると思うけど?」

「その程度で私が勝てないとでも?」

「確かに、勝てるだろうね」

「ええ。一度決戦をして打ち負かせば、敵はこちらの要求を呑まざるを得なくなります」


 結果的にヴィルヘルミナの活躍によって、辺境伯が自由に動けるようになってしまった。敵の兵力がどれほど多かろうが、彼ならば勝てるだろう。


 ――これ以上の侵略を、許していいのだろうか。

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