ドラゴン退治Ⅱ
ヴィルヘルミナはとりあえず、周辺の兵士に命じてドラゴンを攻撃させた。連装対空弩砲、対空投石器による攻撃を全力で行ったが、ドラゴンには全く効かず、今度は興味すら持ってもらえなかった。ドラゴンはヴィルヘルミナ達の上空を旋回して、様子を見ている。
「ドラゴンの自然な行動とは思えない。エルフはあれを相当よく飼い慣らしてるみたいだね」
「そうなんですかね? あんなデカいドラゴンなんぞ見たことありませんもので」
「うん。全ての敵は視界に入り次第粉砕するのがドラゴンってものだ」
ヴィルヘルミナは、エルフがドラゴンの一挙手一投足を制御できている可能性が高いと推理した。それはつまり挑発に効果がないだろうということだ。
「ど、どうするんで?」
「うーん……。困ったね。私は空は飛べないから、高度を落としてくれないとどうしようもない」
「奴も困ってるんですかね」
「それもそうだね。下手に近寄ったら殺されるかもしれないとは思ってくれてるみたいだ」
――別に全然いいことじゃないんだけど。
状況はすっかり千日手に陥ってしまった。ドラゴンが遥か空の上を飛び回っている限り、こちらからは手の出しようがない。
――いや、待てよ。空を飛べないとは限らないじゃないか。
ヴィルヘルミナはふと、あることを思いついた。
「投石器で私を投げてくれるかい?」
「は、はい?? いやいや、そんな馬鹿な」
「無理なのかい?」
「べ、別に、そんなことはありませんけど……」
「しくじっても私は死なないんだ。気にせずやってくれたまえ」
「……は、はい!」
投石器で自分を投げてもらえばいい。それがヴィルヘルミナの結論であった。ヴィルヘルミナは対空炸裂弾を1個だけ抱え、投石器に乗り込んだ。
「い、いきますよ!」
「ああ。いつでもいいよ」
「は、発射!」
投石器にぶん投げられるのは、ヴィルヘルミナの長い人生でも流石に初めての経験である。とんでもない加速度によって骨が何本か折れたが、特に問題はない。
ヴィルヘルミナはドラゴンに向かって射出され、見事に命中。ドラゴンに取り付くことに成功した。不快を感じたドラゴンは右に左に旋回してヴィルヘルミナを振り落とそうとするが、鱗にしっかり掴まっていれば落ちることはない。
「さて……。これで終わりにしようか」
腹の辺りに着弾したヴィルヘルミナは、鱗を伝ってゆっくり口の方に近づいていく。あっさりと顔に到達し、砲丸を口の中に投げ込もうとしたのだが、まさにその瞬間、ドラゴンが一回転した。
「あ――しまった」
ヴィルヘルミナはせっかくの砲丸を落としてしまった。
――一回地上に戻るか? いや、別にその必要はないか。
ドラゴンを操るエルフが二度も同じ手に引っかかる可能性は低い。一度地上に戻ってしまえば、再びドラゴンに取り付けるとは限らない。であれば、対空炸裂弾なしでドラゴンを殺す他にない。
「非常に嫌だけど……仕方ないか」
ヴィルヘルミナはドラゴンの口のすぐ下に貼り付いている。まずは槍を作り出し、鱗の隙間から下顎に突き刺す。なかなか効いたのか、ドラゴンは呻き声を上げて口を開いた。
「しめたッ!」
ヴィルヘルミナはその隙に、ドラゴンの口の中に飛び込んだ。全身が入る前にドラゴンが口を閉じ、下半身が切断されてしまったが、特に問題はない。
――あ~、本当に臭いしヌメヌメしてるし最悪なんだけど。
「君にも死んでもらうよ」
ドラゴンの口腔内で、ヴィルヘルミナは戦斧を作り出した。それをドラゴンの舌に向かって振り下ろし、叩き切った。たちまち大量の血が溢れ出し、同時にドラゴンが急速に落下していくのを感じた。
ドラゴンはすぐに墜落した。息絶えたドラゴンの口の中から、血やその他体液でずぶ濡れになったヴィルヘルミナが出てきた。あまりにも酷い有様に、兵士達は固まってしまった。
「ご、ご無事でしたか……」
「私は無事に決まってる。こいつの舌を斬り落としたんだ。吸血鬼としては、貴重なドラゴンの血を吸えて幸運だったよ」
「は、はぁ……」
「でも全身ずぶ濡れなのは最悪だ。一回全身の皮を剥いで洗いたいよ。ああ、洗わなくても再生すればいいだけか」
ヴィルヘルミナは少なくともここ百年で一番最悪の気分であった。頭を吹き飛ばされても身体を粉々にされてもどうということはないが、汚れを即座に消し去る魔法は持ち合わせていない。
「ほ、本気で、言ってるので……?」
「ああ。ちょっと全身の皮を剥いでくる。ついてこない方がいいと思うよ」
「は、はは……」
ヴィルヘルミナは人目につかないところまで行って、さほどの時間も掛からず戻ってきた。戻ってきた彼女には汚れの一つもなかった。
「ほ、本当に、皮を剥いできたんで……?」
「さあ、どうだろうね。ご想像にお任せするよ」
「想像はしたくないですね……」
「賢明な判断だ」
とにもかくにも、ヴィルヘルミナは2体の成体のドラゴンを討伐することに成功したのである。
それと同時に、ドラゴンを操っていたエルフを1人拘束することに成功した。最後に殺したドラゴンに乗っていたエルフは墜落の衝撃で死んでしまっていた。




