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吸血鬼嫌いの吸血鬼、ヴィルヘルミナ~元魔王は千年の時の中、今日も戦場を見届ける~【旧版】  作者: Takahiro
第三章 北方戦争の終幕

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ドラゴン退治

 ポメレニア辺境伯はトワングステに入城したが、連れて来た兵はほんの少数であり、敵側には認識されなかった。トワングステでは義腕の将軍ヘルヴェコナ伯ゲッツの指揮により城壁の復旧工事が進められており、魔法で石を組み上げることで概ね完了していた。


「私が不在の間、苦労であった、ヘルヴェコナ伯」

「なんのなんの。別に敵が攻めてきたわけでもないですし、退屈な工事をしていただけですよ」

「であれば、退屈な工事に苦労したのではないか。苦労を労うのは間違っていないだろう」

「ははっ、そいつは確かに。過分なお言葉、ありがたく思います」

「それはそうと、早速だが、敵のドラゴンを始末しなければならない。卿には、敵からよく分かるように堂々とトワングステを出て、グダンツに帰るフリをしてもらいたい。よいか?」

「無論です。殿下のご命令であればなんでもやりますよ」


 いきなりそんなことを告げられ、普通は理由でも尋ねるところだが、ヘルヴェコナ伯にはその気すらなかった。辺境伯に全幅の信頼を置いているのである。


 かくして、ドラゴン討伐作戦が始動した。


 日が落ちた頃、ヘルヴェコナ伯は1万の軍勢を率い、トワングステから離れる動きを演じた。ちょうど城壁の復旧工事が終わったので、駐屯する兵を減らすというのは強い現実味を持っている。諸種族連合軍にとっては最も望ましくない展開であり、だからこそ切り札を投入してくるに違いない。


「殿下! 敵の成体のドラゴンです! 50メートル級のものが2体、迫りつつあります!」

「わかった。すぐに迎撃の用意を。ヴィルヘルミナ殿、よろしくお願いします。私は何の力もありませんから、後ろから眺めていることしかできませんが」

「別にいいよ。これは私の趣味だからね。じゃあ行ってくるよ」

「お気をつけて――と言っても、ヴィルヘルミナ殿を心配することの方が失礼ですか」

「死ぬのは気持ちのいいことじゃないんだ。心配くらいはしておくれよ」

「左様でしたか。では、どうかお気をつけて」


 ヴィルヘルミナは城を出た。破壊された高射砲塔はまだ修復されていないが、高射連装弩砲や高射投石器が地べたにいくつか置いてある。そしてそれらの周囲には塹壕が掘られていた。


「吸血鬼のヴィルヘルミナ様ですね。お待ちしておりました!」


 流石にヴィルヘルミナに慣れてきたのか、現場の兵士は非常に態度よく挨拶してきた。こういう兵器を扱うのは基本的に農兵なので、彼らも農村から徴用されてきた兵士だろう。


 ――そういうのはムズ痒いんだけど、まあいいや。


「どうも、私はヴィルヘルミナだ。君達の仕事は分かっているね?」

「はい! あのドラゴンを攻撃し、その注意を引くことです!」

「よろしい。攻撃し終えたあとは、直ちに塹壕に隠れるんだ。誰も死なないでくれよ」

「はっ!」


 兵士達はそれぞれの配置につく。


「敵のドラゴンまで、1千メートルを切りました!」

「うん。対空投石器、撃ち方始め」


 用意できた対空投石器は12門。2体のドラゴン目掛けて、炸裂弾の攻撃を開始する。


「奴の顔に命中です!」

「奴ら、怒ってますぜ!」

「こっちに向かってきてます!」

「狙い通りだね……」


 炸裂弾の爆発が顔に直撃しても、ドラゴンの鱗には傷もつかない。とは言え、顔の目の前で爆発を起こされるのは不愉快なようだ。ドラゴンは対空投石器を破壊しに高度を落とす。


「全員、塹壕に隠れるんだ!」

「まだ弩砲を撃ってませんが……」

「そんなのはどうだっていいだろう! 早く隠れてくれ!」


 兵士は塹壕に身を隠した。塹壕はただの溝ではなく、溝の奥に小さな部屋のような退避壕があり、ヴィルヘルミナを除く全員がそこに身を隠した。


「さーて。やってやろうじゃないか」


 人間とは比べ物にならない、圧倒的に巨大な怪物。人間など軽く丸呑みできそうな巨大な口がヴィルヘルミナに向かって開き、次の瞬間彼女の視界は橙に染まった。ドラゴンが火を噴いたのである。


 ――流石に熱いな。


 ヴィルヘルミナは一瞬にして黒焦げになった。普通の人間なら即座に死ぬので、ドラゴンはすぐに火の吐息を止めた。だが、ヴィルヘルミナがただの火傷で死ぬはずはない。皮膚と服を直ちに再生させ、そして足元に埋めてあったものを掘り出した。対空投石器で使っている砲丸である。


「こいつを喰らって無事でいられるかな?」


 ヴィルヘルミナはドラゴンの口の中に向かって、炸裂弾を思いっきり投擲した。矢のような速度で飛んだそれは、ドラゴンの口腔内に綺麗に突入し、そして魔力に反応して爆発した。


 対空炸裂弾は広い範囲の敵に損害を与える為に、可能な限り強力な爆発を起こすよう製造されている。口の中でそんな爆発が起これば、流石のドラゴンも無事では済まない。


 地上の兵器群を攻撃しようとしていたドラゴンは、そのままの勢いで墜落した。巨体が地面を抉り、まるで川の跡のような凹みが残った。ドラゴンはピクリとも動かなくなった。


「や、やりましたね!」

「ああ。一匹はこれで仕留めた。残りはあいつだけだ」

「し、しかし、同じ手に乗ってくれるでしょうか?」

「エルフがそんな馬鹿な連中だとは思えないね」


 一体は奇策で仕留めることに成功した。だがもう一体に同じでは通用しない。

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