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吸血鬼嫌いの吸血鬼、ヴィルヘルミナ~元魔王は千年の時の中、今日も戦場を見届ける~【旧版】  作者: Takahiro
第二章 南方から来る敵

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唐突な終焉

「申し上げます! ヴァルシュヴァ伯はポメレニア辺境伯を仕留め損ねたとのこと!」

「クソッ……。しくじりおったか……」


 ポスナニア公に、ヴァルシュヴァ伯の敵本陣への中入りが失敗したとの報告が入った。ポメレニア辺境伯もヴィアドルス宮中伯も無傷である。


「どうやらポメレニア辺境伯は個人としての武勇にも秀でているようですね」


 エルフの客将シルヴァは淡々と。


「隙がないではないか! あいつは無敵か!」

「実際、ポメレニア辺境伯が負けた戦争は一つとしてありませんね」

「クソッ……」


 乾坤一擲の策が失敗に終わり、ポスナニア公は焦っていた。正面からの攻撃は既に4度も跳ね返されており、勝てる見込みは非常に薄い。


「殿下、ここは恥を忍んで、辺境伯軍の包囲に切り替えましょう。敵を包囲して、残った部隊でブロベルクなどを制圧しに行けばよろしいかと」

「そんなことは分かっているのだ。だが、それはできない。既に多くの犠牲を払ってしまっている。そんな弱腰では、諸侯がついてこないだろう。連合軍が崩壊してしまう」

「……そうですか」


 ポスナニア公の本音を初めて聞かされたシルヴァは、改めて状況が詰んでいることを思い知らされる。


「では、最早これまでです。侵攻そのものを諦める他ないでしょう」

「ここまで来て逃げ帰れと申すか?」

「はい。これ以上戦ってもただ将兵を失うだけです」

「ううむ……。しかし、それで諸侯が納得してくれるものか」


 ポスナニア公としてはシルヴァの提案はもっともだと思っていたが、諸侯の反対を受ける可能性を恐れていた。既に多くの犠牲を出している以上、寧ろ戦果を出さなければ納得できない者も多いだろう。


「納得してくれなければ、私達だけで帰ればいいのでは?」

「馬鹿を申せ! そんなことをしでかせば、ポスナニア公爵家末代までの恥となるぞ!」

「そういうものですか」

「エルフにはわからんだろうが、人間とはそういうものなのだ」


 と、その時であった。伝令が急を知らせにやって来た。


「申し上げます! 兵らに公爵殿下がお亡くなりになったとの噂が広がっております!」

「な、何だと? 一体どうなっている!」

「ポメレニア辺境伯の作戦でしょう。殿下が死んだと噂を流して、我々の士気を落とそうとしているのかと。動じることはありません。噂などすぐに沈静化するでしょう」

「いや、しかしな……」


 全く根も葉もない噂である。暫くすれば混乱も鎮まるのは間違いないだろう。しかし、前線の将兵の疑念はシルヴァが予想したより大きく、公爵の無事を尋ねる使者が何度も本陣を訪ねてきた。


「だから、儂は無事だと言っておろうが!」

「も、申し訳ございません! 妙な噂に騙されてしまいました!」

「それはよい。とっとと下がれ。……まったく、この調子では埒が明かんぞ」

「何をするおつもりで?」


 シルヴァはポスナニア公がまた変なことを言い出すかもと懸念した。


「儂が自ら前線に赴く! 儂が顔を見せれば誰も疑問には思うまい!」

「やめておいた方がいいと思いますけど。総大将がそう易々と動くのは好ましくありません」

「だからこそである! 総大将自ら前線に参れば、兵らの士気も上がろう! 卿もついてこい!」

「はいはい。わかりましたよ」


 というわけで、ポスナニア公らは最前線の陣地に赴いた。ポスナニア公は兜を外して顔がよく見えるようにし、自らの健在を諸侯や将兵に見せつけた。


「どうだ。こうするのが手っ取り早いのだ。噂など一瞬にして吹き飛んだな!」

「まあそうですね。今回ばかりは殿下の方が正しかったかと」

「わかればよいのだ。わかればな。ふははははっ!」


 ポスナニア公の策は確かに奏功した。だが、それこそがポメレニア辺境伯の狙いだったのだろう。


 それは、実に騎士の風上にも置けない小細工であった。何の前触れもなく、ポスナニア公が倒れた。その頭は矢によって射抜かれており、即死であった。


「んなッ……。最初からこれを狙っていた、のか」


 ポスナニア公は死んだ。総大将が大勢の将兵の目の前で死んだのである。噂はすっかり事実と化してしまった。ポスナニア公戦死の報は瞬く間に全軍に知れ渡り、今度こそ連合軍は崩壊してしまった。


 シルヴァは一旦本陣に戻り、残った貴族の中で一番位の高いブレスニツェ公を捕まえた。


「――かくなる上は殿下に撤退の指揮を執っていただきたい。できますね?」

「わ、私が、全軍の指揮をするのか?」

「ただ逃げ帰るだけです。殿下は動じず偉そうにしていただければ、あとは私が適当にやっておきますから」

「た、頼むぞ、エルフ!」

「任されました」


 ブレスニツェ公はすっかり動揺して使い物にならなかったが、シルヴァの命令をただ繰り返してもらうだけで十分である。シルヴァは混乱を収拾して統制を取り戻そうと試みていたのだが、そこに更に悪い報せが入った。


「も、申し上げます! 敵軍が山を駆け下りて来ました!」

「な、なんじゃと!?」

「やはり、ここを見逃してはくれませんか」


 混乱の渦中にある連合軍に、ポメレニア辺境伯軍が総攻撃を仕掛けてきたのである。

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