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吸血鬼嫌いの吸血鬼、ヴィルヘルミナ~元魔王は千年の時の中、今日も戦場を見届ける~【旧版】  作者: Takahiro
第二章 南方から来る敵

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危機の終わり

 ――しかし、どうしたものかな。嵌められた気もするけど。


 ヴィアドルス宮中伯によると、ヴィルヘルミナは戦場のどさくさに紛れて人を喰いに来たと思われているらしい。ポメレニア辺境伯の部下かどうかなど関係なく、排除対象と認定されたようだ。


「はぁぁ……。本当に面倒なんだけど、無抵抗に殺されるのは癪だからね」


 ヴィルヘルミナはくっつけたばかりの右手の中にも大鎌を作り出した。両手に人の背丈を上回る長さの鎌を持ち、さながら獲物を狩るカマキリのようである。


 鎌というのは武器として使える場面が限られており、基本的に農民が反乱を起こす時くらいしか使われないが、だからこそ大半の兵にとって見慣れない武器である。それをヴィルヘルミナのような化け物が持っているのだから、見ただけで怯えるのも無理はない。


「クッ……。化け物め……」

「諦めてくれるならその方が嬉しいんだけど」

「な、舐めるなよ吸血鬼が! この場で滅ぼしてくれるわ!!」

「だから……なんでそうなるのさ」


 2人の騎士がヴィルヘルミナに攻撃を仕掛ける。ヴィルヘルミナは溜息を吐きながら、両者の間に向かって跳躍し、大鎌を騎士の鎧に引っ掛け、そのまま引きずり下ろした。恐らく唯一の、大鎌の有効な使い方である。


 今度もやはり、落馬した騎士はマトモに動けなくなるほどのダメージを受けたようだ。そして、騎士に呼ばれて集まってきた数名の騎士達は、2人の騎士が一瞬にして無力化されたのを見て怖気付いている。


 ――むしろこっちから仕掛けた方が諦めてくれるかな。


 ヴィルヘルミナは左手の大鎌を肩に乗せ、右手の大鎌を敵に向け、そしておどろおどろしい声で警告した。


「さて、私に殺して欲しい奴はどいつだ? 死にたい奴からかかってくるといい」

「ッ……。て、撤退だ! 下がれ!」

「おや、意外と物分りがいい」


 騎士達はあっさりと逃げた。だが、ヴィルヘルミナにとっても予想外だったのは、彼らが敗走したことで、ヴァルシュヴァ伯の騎士達全体に動揺が走ったことである。


「どうやら貴女の騎士達は逃げ出し始めたようですよ、ヴァルシュヴァ伯」

「うーん、そのようですね。戦いの流れがよくないように思います」


 ヴァルシュヴァ伯フリーデとポメレニア辺境伯アドルフは、延々と斧で斬り合いながら戦場を俯瞰していた。両者とも戦場の流れが変わったことを肌で感じていた。


「では、早いうちに撤収することをお勧めします。追撃はしないと約束しましょう」

「そうですね、そうしましょう。皆さん、撤退です! 下がりなさい!」


 ヴァルシュヴァ伯が命じると、騎士達は直ちに撤収を開始した。相変わらず非常によく統制の取れた集団である。辺境伯は約束通りに追撃を行わなかった。ヴァルシュヴァ伯の軍勢は山を駆け下り、辺境伯と宮中伯の本陣は平穏を取り戻したのであった。


 しかし、ヴィルヘルミナには辺境伯に言いたいことがあった。


「君、私をわざと戦いに巻き込んだだろう。私が自分を守るために戦わざるを得ないとわかって」


 結果的に、ヴィルヘルミナの存在が戦いの均衡を崩してしまった。辺境伯の戦争に加担させられたのである。


「まさか、そんなことは断じてありえません。しかし、ここまで追い詰められたのは私の至らぬ故です。ヴィルヘルミナ殿の身を危険に晒したこと、平にお詫び申し上げます」


 辺境伯は深刻そうな声で謝罪しながら、恭しく頭を下げた。


 ――どう考えても嘘としか思えないけど。


「まあいいや。君の策略だったとしても、別に何かをするわけでもないからね」

「左様でしたか。時に、ヴィルヘルミナ殿なら嫌がりそうな話があります」

「……何のことだい?」

「今回の戦いで得た捕虜についてです。我々には捕虜を収容している余裕がありません。よって、この場で殺害せざるを得ません」


 捕虜は身代金になる。将軍は敵を可能な限り生け捕りにしようとするのが普通だ。だが、兵力が少なく捕虜を管理している余裕がない場合は、殺すこともある。


「は? 君は何を言ってるんだ?」

「やはり、ヴィルヘルミナ殿は認めてくださりませんか」

「当たり前だろ。殺すくらいなら解放しろ」

「戦場で敵に兵を返すことはできませんね」

「君の事情なんて知らない。もしも無抵抗の人間を殺したら、君を殺すだけだ」

「困りましたね」


 ――私に捕虜の管理を押し付けようとでもしてるのか?


「そこまで仰るのなら、ヴィルヘルミナ殿に捕虜の監視をお願いしたいものです」

「はぁ……。私をいいように利用してくれるね」

「捕虜を殺すなと一方的に要求したのはヴィルヘルミナ殿です」

「わかったわかった。そのくらいはしてあげるよ」


 ――今回は辺境伯の言い分にも理があるか。


 ヴィルヘルミナが捕虜の管理をしないのなら、辺境伯は彼らを殺すだけである。もっとも、本当に捕虜を監視する余裕がないのかは定かではない。ヴィルヘルミナに捕虜の監視を押し付けるためのハッタリという可能性もある。


 いずれにせよ、ヴィルヘルミナは捕虜の武装解除と監視を単身で引き受けたのであった。幸いにして、武器も持たずにヴィルヘルミナに反抗しようとする愚か者はヴァルシュヴァ伯の騎士の中にはいなかった。

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