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吸血鬼嫌いの吸血鬼、ヴィルヘルミナ  作者: Takahiro
第一章 北方戦争 1252年

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少しだけの本気

 吸血鬼達はヴィルヘルミナに向かって何十本かの鎖を投げつけてきた。その一部は彼女の腕や脚にまとわりつき、簡単に取り去ることはできなくなる。その鎖は一本につき数体の吸血鬼に握られており、ヴィルヘルミナは後ろ手に拘束される格好になってしまった。


「まったく。か弱い少女を大勢の男で囲んでいたぶるなんて、君達には名誉ってものがないのかい?」

「何がか弱い少女だ。化け物め」


 特に両腕を厳重に拘束するため、ヴィルヘルミナのすぐ後ろに10人ばかりの吸血鬼が立っていた。多少の抵抗はしてみるが、全く動ける気配がない。


 ――純粋な力は、そんなに強くはないんだよなぁ。


 もちろん一対一なら力負けすることはないが、ここまでの数に押さえつけられると流石にどうにもならなかった。


「はぁ……。古今東西、不死身の化け物を何とかする手段は閉じ込めておくことだ。君達は随分と準備がいいね」


 普通、戦場に鎖を大量に持ち込むことなどない。ヴィルヘルミナが来ることを最初から想定していたと考えるのが妥当だ。


「こっちの大将から、お前が来ると聞かされてんだ。お前を討ち取れば望む限りの褒美をやるともな」

「へえ。誰がそんなことを言ってるんだい?」

「教えてやれんな」

「そうかい。もしかして、これまで君達が戦場に現れていたのも、私を誘き出すためだったのかな?」

「さあな」


 嘲るような返し。肯定しているも同然の返事であった。


 吸血鬼を戦争に使う輩をヴィルヘルミナが嫌うことを知っていて、彼女を誘き出そうとした奴がいる。ヴィルヘルミナは長年の経験から――あるいは勘で――内心そう確信していた。


「しかし、どうやって私を殺すつもりかな? 君達と違って、私は心臓を突き刺した程度では死なないよ?」


 傍目から見れば絶体絶命の状況だったが、ヴィルヘルミナは余裕綽々、彼らを嘲笑うように言った。そう言われると吸血鬼達も返答に窮した。そこまで命令されてはいなかったようだ。


 ――はは、困ってる困ってる。


「……その時は生きたまま連れて来いと命じられていた筈だ。城攻めは中止し、こいつを持ち帰る」

「おや、私がそこまで大事なのかい?」

「知るか。俺達は命令に従うだけだ」

「あっそう。じゃあ、そろそろ話は終わりにしようか」

「は?」


 その瞬間であった。ヴィルヘルミナの後ろに立っていた吸血鬼が2体、苦しそうな呻き声を上げ、血を吐きながら倒れた。


 突然のことに吸血鬼達は唖然としていたが、すぐにヴィルヘルミナの手に武器が握られていることに気付いた。いや、それは武器ではない。彼女の爪だ。5本の指の爪がまるで刀身のように伸び、背後にいた吸血鬼の心臓を貫いたのだ。細い爪で鎧の隙間を突いたのである。


「こ、こいつッ!!」

「さあ、殺し合いを再開しよう」


 後ろの吸血鬼2体を続けざまに刺し殺し、動揺した吸血鬼達を振り払うことに成功する。


「こういうのは野蛮だから、あんまりやりたくないんだ。でも、流石に手を抜いてはいられないよね」

「ッ……!!」


 近くにいた吸血鬼に獣のように飛びかかり、右手の血まみれの爪で首を刎ね飛ばした。そして左手は隣の吸血鬼の右腕を斬り落としていた。


 ――やっぱり、こういうのは楽しいなぁ。


 雲一つない満月の光に照らされた彼女の顔は、確かに笑みを浮かべていた。悪魔的な微笑みに、吸血鬼達は本能的に恐怖を抱いていた。


「も、もう一度だ! 拘束しろ!!」

「二度も同じ手が通じるとでも?」

「クッ……!?」


 再び鎖を投げつけようとする吸血鬼に、ヴィルヘルミナは自ら突っ込む。魔物のように飛び跳ね、少し後方にいる吸血鬼に直接飛びかかり、彼の頭は怯えと驚きが浮かんだ顔のまま胴体と別れることになった。


 数百倍の敵に囲まれているにも拘わらず、今この戦場を支配しているのはヴィルヘルミナであった。吸血鬼の群れの中を自由自在に飛び回り、視界に入る吸血鬼を片っ端から血祭りに上げる。化け物と呼ばれても文句は言えまい。


 とは言え、一人でやれることには限界があり、殺したのは30体ほどに過ぎなかったが、吸血鬼はすっかり統率を失って右往左往するばかりであった。


 と、その時であった。彼女の背後から無数の馬の足音が轟々と響いた。


「我こそはヘルヴェコナ伯ゲッツなり!! 貴様ら全員叩き殺してくれる!!」


 例の義腕の伯爵が陣頭指揮を執り、2千の騎士を率いて騎乗突撃を敢行した。彼らの武器は棘付きの棍棒に変わっており、吸血鬼を殺す気満々である。


「うらぁ!! くたばりやがれッ!!」

「降りるのかい」


 ゲッツは吸血鬼の群れに辿り着くと、直ちに馬から飛び降りて、下にいた吸血鬼の頭を棍棒で横から殴りつけた。鎧の上からだが、顔を殴られると流石に響くようだ。倒れたところ、棍棒の先っぽに付いた棘で首を突き刺し、トドメを刺す。棘は銀メッキされているようで、首が爆発するように吹き飛んだ。


「やっぱし、この鎧は面倒だな。いつもならどこを殴っても効くんだが」

「鎧の上から殴っても効く気がするけど」

「当たり所がよければな。普通は効かん」

「大変だね」


 力比べで人間が吸血鬼に勝てる訳がない。決して割れないアダマースの鎧は棍棒に対しても一定の優位性がある。

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