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吸血鬼嫌いの吸血鬼、ヴィルヘルミナ  作者: Takahiro
第一章 北方戦争 1252年

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吸血鬼の来襲

 ヘルヴェコナ伯は自ら城門の残骸に出向き、即席の陣地の構築を指揮した。敵が来るまでほんの数十分しかなく、大したことはできないが、魔法で瓦礫を集めて低い即席の胸壁を造り、城壁の穴を塞ぐように柵を立て、多少は有利に戦える準備を整えた。


 一方の辺境伯は、その辺りのことはヘルヴェコナ伯に丸投げし、後方の城壁の修復などを差配している。


「敵勢、間もなく弩の射程に入ります」

「ああ。前回と同じく、投石と組み合わせて攻撃する。少しでも敵の士気を挫け」

「はっ!」


 まずは残っている城壁から兵士らが攻撃を行う。が、射撃が始まった直後、ヴィルヘルミナはあることに気づいた。


「……吸血鬼だ」

「今、何と?」

「吸血鬼があの中にいる。間違いない。殺しに行ってくるよ」


 ヴィルヘルミナはとりあえず、ヘルヴェコナ伯が守る城門跡に急行した。


「お? どうしたんだ、急に?」

「吸血鬼だ。あの中に混じっている」

「ここで出てきたか。敵さんも随分と本気みてぇだな」

「そういうわけで、吸血鬼の相手は私がするから、君達は待っていてくれ。バカな吸血鬼共を殺し終わったら、好きにしてくれていい」

「そうか。じゃ、お手並み拝見させてもらおう」

「聞き分けがよくて助かるよ」


 ――戦わせろとか言いそうな気もしたけど、まあいいか。


 ヴィルヘルミナは城を打って出た。それと同時に、城からの攻撃が停止した。


 今日は満月が白く輝き、敵兵の白い盾を煌めかせている。少女は3千ばかりの軍団の前にたった一人で立ちはだかる。相手も吸血鬼なれば、彼女の並々ならぬ気配に気づいたのであろう。両者の距離60メートルばかりのところで、軍団は動きを止めた。


 ヴィルヘルミナは堂々と仁王立ちして、彼らに向かって叫んだ。


「吸血鬼諸君! 私は吸血鬼を戦争に使うようなバカが大嫌いだ! よって、速やかに降伏しない限り、皆殺しにする!」


 返事はないが、代わりに盾で守られた陣形の中から次々と吸血鬼が繰り出す。その数はおよそ300である。全員が白い鎧を身に纏い、人の背丈ほどもある斧を背負っている。


 ――アダマースの鎧か? 面倒なことを。


「降伏する気はなさそうだね! じゃあ、今から殺し合いをするとしよう」


 話し合いの余地なしと判断したヴィルヘルミナは、早速弓矢を手元に作り出し、吸血鬼の群れに向かって放った。だが、やはりと言うべきか、心臓を直撃する筈だった矢は鎧に弾き返されてしまう。


 敵勢、吸血鬼の軍団は、巨大な斧を振り上げ煌めかせながら、声も出さずヴィルヘルミナに向かって駆ける。


 しかし、次の瞬間であった。


「おや?」


 ヴィルヘルミナに向かって斧が飛んできたのだ。鋭く巨大な斧はヴィルヘルミナの胴体に命中すると、全く抵抗を感じさせない軌道で彼女を上半身と下半身に分割した。


 ――そんな綺麗に斬ってくれたら、再生も楽ってものだよ。


 ヴィルヘルミナをそんな攻撃で倒したと思うのは大間違いだ。切断面を即座に再生し繋ぎ合わせ、倒れかけたところから立ち上がる。化け物じみた再生能力に、吸血鬼達の顔に怯えが浮かんだ。


「こっちも相応に応じないとね」


 ヴィルヘルミナもまた、彼らと同じような大斧を作り出した。自分より巨大な斧を軽々振り回し、またしても飛んできた斧を叩き落とす。


「死ねッ!!」


 吸血鬼の一人が斧を振り上げ、ヴィルヘルミナに向かって振り下ろそうとする。


「いいね。こういうのは久しぶりだよ」


 ヴィルヘルミナは斧を横に構え、その一撃を受け止める。ヴィルヘルミナは激しい戦いに血を滾らせていた。吸血鬼との闘争を愉しむ悪癖があることは、否定できない。


 そうして何度か斧を打ち付けあっていたが、空気を読めない吸血鬼が横合いから斬りつけてきて、ヴィルヘルミナの両腕を切断した。


「おっと」

「しめたッ!」


 ヴィルヘルミナの斧も地面に落ち、同時に振り下ろされた斧が彼女の左肩から右の脇腹にかけて袈裟切りにし、地面に突き刺さった。その吸血鬼は勝利を確信したことだろう。


 だが、次の瞬間だった。ヴィルヘルミナの右手にはいつの間にか剣が握られており、彼女を真っ二つにした吸血鬼の首を突き刺していた。切断されたはずの胴体もくっついている。剣を抜くと、首から滝のように血を流し、その吸血鬼は息絶えた。


「その程度か、君達の再生能力は」

「こ、この化け物がッ!」


 今度は剣士がヴィルヘルミナに斬りかかってくる。が、今度は打ち合いに応じることなく、斬撃を一回跳ね返すと、ヴィルヘルミナは相手の心臓を突き刺した――はずだったが、彼女の剣は折れていた。


 ――おっと、鎧のことを忘れてた。


 次の瞬間、剣士はヴィルヘルミナの左胸を、心臓を確かに貫いた。


「ははっ。この程度で死ぬとでも?」


 吸血鬼は一瞬だけ安堵し頬を緩めたが、ヴィルヘルミナが心臓に突き刺さった剣を自分で抜いているのを見ると青ざめた。


 どうやらヴィルヘルミナが何をしても死なないと認識した吸血鬼達は、迂闊に手が出せなくなる。圧倒的多数でありながら彼女を囲むだけ囲んで手を出さない。


「おいおい、この程度で怖気付くのかい? 流石に拍子抜け過ぎるよ」

「殺すのが無理なら捕まえろ!」

「なるほど?」


 ――確かに、悪くない選択肢だ。

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