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吸血鬼嫌いの吸血鬼、ヴィルヘルミナ  作者: Takahiro
第一章 北方戦争 1252年

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生まれたての吸血鬼

「それにしても、君はどうして吸血鬼になってでも生きたいのかな?」

「家族を残して来てるんだ。男手は俺しかいなくてな。化け物になったとしても、俺が死ぬわけにはいかないんだ」

「だったら戦争になんか来なければいいのに」

「戦争に出れば給料が貰える。俺達みたいな農民にとっては大金だ」

「なるほどねえ。あ、言い忘れてたけど、吸血鬼に生殖能力はない――つまり子供はできないよ」

「おいおい、そんな大事なことをどうして言ってくれなかったんだ」


 クルトは呆れたように。だが心から怒っているわけではないようだ。


「吸血鬼になる上での注意事項を全部説明してたら、吸血鬼にする前に死んでしまうよ」

「……それもそうか。確かに、死んだら子供も何もないからな」

「それと、今はいいかもしれないが、20年もすれば周囲との時間のズレは隠せなくなる。その時が来ることを忘れないことだね」

「20年も安泰なら十分だ」

「たったの20年だよ?」

「あんたにとっては一瞬なのかもしれないが、人間にとっては十分な時間だよ。まあ俺はもう人間じゃないが」

「いずれ君も、私と同じように思えるようになるのかな」


 ――20年もあれば、赤ん坊も立派な大人になるか。


 と、その時であった。今度は若い女がヴィルヘルミナに突撃してきた。


「ヴィルヘルミナ様! どうか生き返らせて欲しい人がいます! お願いします!」

「死人を生き返らせることはできないんだけど、死にかけてるってことでいいのかな?」

「そ、そうです! とにかく急いでください!」

「はいはい」


 ――こうなることは予想できてたけど、面倒だなあ。


 またしても、両腕を吹き飛ばされ大量の血を失っている男が寝かされていた。意識はなく、辛うじて息をしているだけだ。


「彼に意識はあるのかな? 彼の意志を確認する手段が欲しいんだけど」

「そんなものないわよ! 死にかけてるんだから、今すぐ吸血鬼にしてくださいよ!」

「いやいや、それは無理だ。本人の同意を得られないと、吸血鬼にはしてあげられないよ」

「本人の同意? そんなの今はどうでもいいでしょ!!」


 女は今すぐ倒れている彼を救いたいようだ。もちろん本人が望まなくても吸血鬼にすることは可能だが、ヴィルヘルミナにそれはできない。


「彼のこれからの人生の責任を君が取れるならいいけど、そんなのは無理だ。吸血鬼になって、永遠に不幸な人生を送るかもしれない。その責任を君は取れない」

「だ、だからって、ここで死んだら終わりでしょ! まずは生きてくれないと!」

「不幸な人生を送り続けるくらいなら、ここで死んだ方がマシかもしれない。そして吸血鬼になれば、不幸になる可能性が非常に高い」

「そ、そんなことにはしない! 不幸になんてさせないから!」

「君がそう努力したとしても、いずれ君は死ぬが、彼はずっと生き続ける。君の気持ちは痛いほど分かるが、彼を吸血鬼にするのは無理だ。諦めてくれ」


 ――それだけは、認めるわけにはいかないんだ。


 ヴィルヘルミナは何を訴えられたとしても決して、意志を確認できない人間を吸血鬼にするつもりはなかった。


 彼女はその後も何度か瀕死の重傷を負った兵を助けるように懇願され、大抵は意思疎通が図れずに断ったか、或いは本人に拒否されるかで、吸血鬼にすることはなかった。最終的に吸血鬼になってでも生き延びることを選択した人間は3名であった。


 ヴィルヘルミナはこの件について、ポメレニア辺境伯に報告した。


「――そうですか。彼らを再び戦場に送り出すことは、あなたは許さないのでしょうね」

「もちろんだ。そんなことしたら、まず君を殺す。彼らは本来ならば死んでいる人間なんだ。兵士の頭数に数えないでくれよ?」

「もちろんです」


 吸血鬼にした人間は、戦争には使わせない。


「それと、彼らを閉じ込めておく為の建物は用意してくれるかな?」

「地下牢として使われていた場所を既に手配してあります」

「助かるよ。少なくとも1週間は、監視を続けないと」

「しかし、吸血鬼の本能が暴走する確率というのはどれほどなのですか?」

「稀だよ。50人に1人くらいかな」

「無視できる数ではありませんね」


 一先ず、吸血鬼にした領民に関する問題は一段落したと言っていいだろう。


「せっかくですし、ヴィルヘルミナ殿に紹介したい人物がいます」


 辺境伯が唐突に話を振ってきた。


「紹介?」

「ええ。ヘルヴェコナ伯ゲッツと顔見知りになっていただこうかと」

「ああ、さっきの騎馬突撃を指揮してた人だね」

「ええ。私の最も信頼する将軍です」


 辺境伯がヘルヴェコナ伯を呼び出した。すぐに現れたのは、辺境伯より2回りほど歳上の将軍であった。目を引くのは、彼の左腕が鉄製の義腕になっていることである。いかにも荒くれ者といった形相だ。


「どうもどうも。ヘルヴェコナ伯のゲッツだ。あんたがヴィルヘルミナとやらか?」

「ああ。私がヴィルヘルミナだ。辺境伯と違って知性がなさそうだね」

「そいつは酷い物言いだな。まあ、俺は殿下の命令通りに動く駒だ。駒が自ら考える必要はねえだろうよ」

「そういうものかい?」

「伯爵は謙遜しているだけですよ」

「これを謙遜って言うのかい?」


 とは言え、あの辺境伯が最も信頼しているとまで言い切る男。優秀であることは間違いないだろう。

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