城門の罠
「敵の隊列が乱れたところを攻撃せよ。少しでも綻びが生じれば、敵は雪崩を打って崩れよう」
「はっ!」
「さて、上手くいくかな」
盾が乱れ隙間が空いたところに、兵らが矢を叩き込む。ほんの少しでも盾の隙間を貫くことができれば、その先にいる敵兵の身体を易々と貫通し、無力化することができる。
一人が矢に撃ち抜かれて倒れると、盾が一枚失われて大穴が空く。そこに攻撃が殺到し、隣にいた敵兵もまた倒れた。かくして敵の隊列は急速に乱れていく。
「アダマースに頼っているだけの愚者なのか、この程度の事態は想定しているのか、敵はどっちだろうね」
「愚者ではないようです。敵は既に対処を始めています」
「そうは見えないけど」
「すぐに分かりますよ」
ヴィルヘルミナには諸種族連合軍が大混乱に陥っているようにしか見えなかったが、辺境伯には敵の考えが読めていた。敵は動けなくなった兵を捨て置き、残った兵で迅速に陣形を再編。再び隙間のない壁を構築し、矢を防ぐ。
「敵は相当よく訓練しているようだね」
「そのようです。城門に到達する前に撃退するのは不可能でしょう」
「それは困ったね」
――どうせまだ作戦を残してるんだろうけど。
「城壁は3枚ありますが、そもそも城内に侵入させるつもりはありません。城門の方をご覧ください」
「ん?」
ヴィルヘルミナは辺境伯が指さす方、城門のすぐ内側に目を移した。そこには土壁で囲まれた箱のような空間がある。
「二重扉ってところかな?」
「その表現に間違いはありませんが、内側の門は正面ではなく右側についています」
「つまり、敵はあの狭い空間で直角に曲がらないといけない訳だ」
「それも、城壁の上から嵐のような攻撃を受けながらです。しかし、一目見ただけで設計の意図を理解するとは」
「君が説明してくれたからだよ。見物だね、本当にちゃんと機能するのかどうか」
「そればかりは、やってみないと分からないというものです」
外側の城門は突破させ、その内側にある狭い空間で敵を殲滅する。少ない資材と時間で造れる構造ながら、期待通りに機能してくれれば極めて効果的と言える。
敵軍は間もなく城門に到達した。破城槌を持った部隊を多くの兵がアダマースの盾で守り、こちらからは手を出すことができない。投石などでも守りを打ち崩すことはできず、20分程度で門が突破された。
「さて、これが上手くいってくれなければ、我々は城壁を1枚捨てて後退することになりますが……。侵入した敵に攻撃を集中せよ! あらゆる魔法を出し惜しむな!」
箱型門に足を踏み入れた敵は、急に曲がることを強いられ、攻撃を受けずとも隊列が乱れる。そこに、四方から激しい攻撃が降り注ぐ。岩と矢の攻撃で防御が崩れたところに火球を叩き込み、一瞬にして阿鼻叫喚の有様となった。
「これはこれは。随分と一方的な虐殺だね」
「もしや、ヴィルヘルミナ殿のお考えでは、これは魔法の濫用にあたるのでしょうか?」
「いやいや、そんなことはないよ。相手は殺し合いをするために来た兵士だ。殺されても文句は言えないだろう」
「それはよかった」
戦いは一方的な虐殺と言った様相を呈した。城内に侵入したおよそ千の敵兵は、ほとんど皆殺しの憂き目にあった。それほどの損害を出したにもかかわらず、内門には傷一つ付けられていない。
「敵勢、撤退するようです」
「よろしい。この期を逃す訳にはいかない。ヘルヴェコナ伯の騎馬隊に追撃させよ」
「追撃ねえ」
「敵を今叩いておけば、再び攻撃を仕掛けてくる可能性が減るでしょう。長い目で見れば、双方の犠牲を減らすことにつながるのでは?」
「別に文句を言いたいわけじゃないよ。好きにやるといい」
「ええ、無論です」
トワングステの東門から2千の重装騎兵が出撃。敗走する敵を背後から襲う。城壁から射撃の援護を受けながら、ランスを構えて突撃、敵兵を弾き飛ばす。そのまま乱戦に突入して戦斧を振り回し、これまた一方的な虐殺が行われる。
「騎士だけで2千を揃えているのか。なかなか大変だろうに」
「領内から騎士を寄せ集めた精鋭部隊です。あれが我が軍で出せる最大限ですよ」
「そんなものを投入するとは、強気だね。もしも負けたら領内が大混乱になるだろう」
騎士とは単なる騎兵のことではない。それぞれが小領主なのである。もしもこれが壊滅的な被害を受ければ、領地の統治機構に大きなヒビが入りかねない。
「だからこそ、確実に勝てる時にしかこの編成は使いません」
「確実に勝てるなんて言い切るのは愚将だけだと思うけど」
「……確かに、驕りはよくありませんね。しかし、世の中はほとんど不確実と言えど、案外確実なこともあるのですよ」
「まあねえ」
敵は総崩れになり、全軍が視界から姿を消した。残るのは死体の山と、その上を闊歩する騎士のみである。
「直ちに死者と負傷者について報告せよ。死体の数などあとで数えればよい。くれぐれも、自分だけが功を得ようとは思わぬように」
「哀れみ深い王様だね」
「私は辺境伯です。王でも公爵でもありません」
「ああ、そうだった」




