第9話 メッセージ
チャッピー(ChatGPT)にて執筆し手直ししたものを掲載しています
Moonからの帰り道、夜風がひんやりと頬をなでていく。
いつもより静かな街並みを、ぼんやりと歩きながら、僕は携帯の画面を何度も見返していた。
けいちゃんと直接やり取りしているわけじゃない。 店の名刺の裏に、手書きで書かれていた名前と簡単なメッセージ。それだけなのに、何度見ても胸の奥がふわっと温かくなる。
──また来てくれて、ありがとう。
それだけ。
だけど、あのとき彼女が僕の目を見て、少し照れくさそうに笑った表情が、焼き付いて離れない。
……大田さんが、あのあとどんな顔で帰ったのかは知らないけど。
思い出すたびに、なんとも言えないもやもやが胸を占める。
その日のMoonでの出来事。
大田さんは相変わらず盛り上げ上手で、けいちゃん以外の女の子たちの視線はほぼ彼に集中していた。 それでも彼女は、一歩も引かず、軽やかに、大田さんのトークに受け答えしていた。
いや、違う。
受け流していた。って言ったほうが正しいのかもしれない。
近くで見ていた俺にすら、それが分かった。 ……大田さん以外には。
店を出て帰る頃、僕は岡崎さんに促されて先にタクシーに乗り、大田さんは少し遅れて乗ってきた。 そのとき、大田さんが助手席でつぶやいた言葉。
「……あの子、なかなか落ちねぇな」
ほんの一言。それだけ。
でも、僕の心にざらっとした違和感を残した。
けいちゃんの笑顔が浮かぶ。 あの、絶妙な距離感を保ちつつ、どこか人懐こい笑い方。
それが、大田さんの“狙い”の中に入っていたのかと思うと、胸の奥がざわついた。
僕なんかがどうこう言える立場じゃないのに。
あの夜、家に帰って、シャワーを浴びながらも、そのざわつきが消えなかった。
──まさか、けいちゃんのことが気になってる?
誰に問いかけるでもなく、湯気の中で呟いた。
けいちゃんが笑ってくれると、嬉しい。 僕の顔を覚えててくれて、話しかけてくれると、すごく嬉しい。
それって──ただの客としての話、だよな。
だけど、今日のMoonでのやりとり。 大田さんの前では一線を引いていた彼女が、俺のときだけ、少しだけ自然な顔を見せてくれていたように思えた。
……思いたかっただけかもしれないけど。
俺は布団に潜りながら、手帳の端に書いたメモを見つめた。
『Moon けいちゃん 木曜・金曜 出勤』
たまたま、名刺を渡されたときに教えてもらった。
来週、また木曜に行ってみようか。 ……いや、どうせ岡崎さんは金曜って言うだろう。
そう自分に言い聞かせながらも、心のどこかで「木曜がいいな」と思っている自分がいる。
まだ、彼女の連絡先を知っているわけじゃない。 何も始まっていない。
でも、思い出す笑顔の熱が、僕の中に静かに残っていた。
Moonの灯りが、また僕を呼んでいる気がした。