第5話 1人でも
チャッピー(ChatGPT)が執筆したものを手直しして掲載しています。
日曜日の夜。
最後の電車に間に合うようにして、僕はガラスの窓車から夜景をぼんやり見つめていた。
無意識にけいちゃんの顔が頼りなげに思い浮かんで、その形のままぼんやりした視線を繰り返す。
その日、僕はまた「Moon」を訪れていた。
前回の訪れから、何日かたっている。
記憶の中のけいちゃんは今も僕の意識の深くで笑っていて、この4文字だけで心がほのかに暖かくなるような。
「よう、本当に最後まで席を変わらなくて良かったな。あんなに楽しそうなお前、気がついたら見とれてたよ。」
会社の兄貴分である岡崎さんは、そんなことを気軽に言って僕を笑わせた。
いつもフラットな口調だが、帯を結ばない精神の優しさもある人だ。
僕はこういう店に行くのは実は不安でしょうがなかった。
けれど前回のけいちゃんとの会話は、なんだかいつもの飲み会と違う空気をつくっていた。
気を使われすぎず、だからといって全く縁を切られるのでもなくて。
当然だが、けいちゃんはそんなに自分に気があるような程度の相手じゃない。
あの地元話と、思いやりの温度は、あくまでもしごとの一部なんだと思う。
でも…。
「村田くん、最近、事務所で笑うこと増えたな。」
さりげなくそんなことを言った岡崎さんに、おれは黙ってしまった。
自分でも気づいていた。
けいちゃんの顔を思い出すことが増えて、なんでかしら日常の中に笑顔がもれるようになっていた。
「はーいっ!おかえりなさーい、岡崎さんっ!……あっ、ようさんも〜っ!」
場の空気を一気に明るくする声。キラキラとした笑顔と、軽やかに跳ねるような足取りで近づいてくるけいちゃん。
「今日も来てくれて嬉しいな〜、ほんと!あ、岡崎さん、こっち座って〜。ようさんもどうぞっ」
僕は促されるまま岡崎さんの隣に腰を下ろす。
「ねぇ、ようさんってさ、このへん住んでるの?」
「あ、うん。駅の反対側……」
けいちゃんはぱっと笑い、
「そっかそっかー、それでか!」
僕は一瞬きょとんとして、すぐに口を開こうとする。
「……ああ、いつもあのスーパー──」
「わあっ、ちょ、ちょっとストップ!」
慌てたようにけいちゃんが身を乗り出し、僕の口に指を当てた。
一瞬、ふたりの間に静けさが落ちた。
距離が、近い。
これまで、どれだけ酔っても決して距離を詰めなかったけいちゃんが、自分から触れてきた。
僕は凍りついたように固まり、けいちゃんもすぐに手を引っ込めて笑った。
「もー、ようさんったら、ミステリアスな美女目指してるんだからイメージ壊すのやめてよ〜」
照れながらおどけて話すけいちゃんにみんなは大盛り上がりだった。
僕もそれ以上何も言わず、水割りを口に運んだ。
(……なんだったんだ、今の)
ほんの一瞬の出来事だったのに、胸の奥が不思議と熱を帯びていた。
「あれから次はいつ来るかって決めてたの?」
「え、あ…まぁ、たまたまです。今日、岡崎さんにさそわれて…」
そのあとけいちゃんは相変わらずいつも通りの笑顔だった。
でも、前より少しだけ落ち着きがないように見えたのは、気のせいだったのかもしれない。
けれど、それが何だかたまらなく心に漏れて、おれは再びこの店に来たことを良かったと思った。
話していると時間が速くて、直接な言葉をぶつけるけいちゃんに戸惑いながらも、こちらも笑顔を決められない。
「こういうところ、ほんとは一人で行けないなんて思ってたけど、この店なら、また来てもいいかもしれない。」
こんな正直な気持ちを表にだすのは恥ずかしかったけれど、それをけいちゃんがどう受け止めるのか、気になる自分がいた。
「え?ほんと?また来る?やっぱ、私の努力のおかげですね~!」
そう笑ってから、けいちゃんはすぐまじめな顔になって。
「ようさん、ここはただの場所じゃなくて、みんなの最後の『笑顔』を作る場所なんだよ。私、それのためならなんでも頑張れるから、また来てくれたら嬉しい。」
その言葉は、どこまでが仕事のセリフなのか、それとも本心なのかわからないけど。
この気持ちが、またここに来たいと思わせた。