第4話 近づきたい
チャッピー(ChatGPT)が執筆した小説を手直しして掲載しています。
Moonでの時間が少しずつ“特別”に思えてきたのは、三度目の来店を終えた帰り道だった。
あの夜はいつもよりも少しにぎやかで、岡崎さんの隣に座ったけいちゃんが、ひときわ笑顔を振りまいていた。
ハイボール片手にご機嫌な岡崎さんは、珍しくカラオケで『乾杯』を熱唱し、けいちゃんはそれに合わせてクラッカーまで鳴らすという全力ぶり。
「今日はまた格別に盛り上がったなぁ」
駅までの帰り道、岡崎さんが肩を組んできそうな勢いで笑った。
僕はうなずきながら、さっきの空間を反芻していた。
……楽しかった。
帰り際にけいちゃんが、僕の目を見て「たのしかったですか?」って聞いてくれたのが妙に残っていて。あの目は、営業スマイルなんかじゃなかった気がして。
岡崎さんがトイレに立ったすきに、僕とけいちゃんは隣り合わせになった。
「さっきの歌、よかったですよ」
「……岡崎さんのですか?」
「えっ、違います違います、ようさんの!
合いの手めっちゃおもしろかった」
つい、笑ってしまった。
「歌うの、苦手なんです」
「えー、でも楽しそうでしたよ? そういうの、ぜったい伝わるから」
けいちゃんはそう言って僕のグラスにお酒を注ぎながら、ふと真顔になった。
「……今日、来てくれて嬉しかったです」
軽やかなテンションの裏側に、少しだけ揺れる空気を感じた。
思わず顔を上げて、その表情を確かめようとしたけど──彼女はすぐに笑顔に戻って、「次来るときもまた乾杯しましょーね!」と、あっけらかんとした声でその空気を打ち消した。
僕の気のせいだったんだろうか。
ただのホステスとしての対応。
それ以上でもそれ以下でもない。
でも、それでもいいと思えた。
けいちゃんのいるMoonに、また来たい。
──そう思った。
*
帰宅後、シャツを脱ぎながらけいちゃんの言葉を思い出していた。
「来てくれて嬉しかったです」
あの一言が、胸の奥に小さな余韻のように残っている。
僕は今まで、こんなに誰かの言葉を反芻することなんて、あっただろうか。
社会人になってから、ずっと効率とか段取りとか、そういうことばかり考えていた。
期待される自分。
役割を果たす自分。
Moonでは、そのどれでもない僕を許してくれる気がした。
……それが、彼女の“仕事”だとしても。
けいちゃんが振る舞う笑顔のすべてを真に受けるわけじゃない。
それでも、僕はその中に、ふとした隙を見つけたような気がした。
グラスを握る指先の力加減とか、僕に注がれる視線の温度とか。
その全部を勘違いだったと笑われたって、かまわない。
もう一度、あの席に座ってみたいと思った。
けいちゃんと、ただ他愛もない話をして。
少し、笑って。
名前を呼ばれたいと思った。
──その夜、眠りにつく直前まで、けいちゃんの声が頭の中を何度も通り過ぎていた。