第35話 新しい扉の前で
チャッピー(ChatGPT)にて執筆し手直ししたものを掲載しています
Moonのドアを開けると、ほんのり甘い香りと、懐かしい音楽が静かに流れていた。
「おはようございまーす!」
私がいつものように元気に挨拶すると、カウンターの奥で準備していたママがふっと笑ってこちらを見た。
「今日で最後かぁ。……ほんまに辞めるんやね」
「うん。でも、ママのおかげでちゃんと次も決まってるから」
私の声は、少しだけ震えていた。けれど、その目はちゃんと前を見据えていた。
「そっか。ようさんと、同じ職場やろ?岡崎さんのとこ、しっかりした会社やし安心やわ」
「うん。でも、ちょっと緊張してる。まだ、なんか実感ないというか……」
ママはそんな私のをそっと握った。
「緊張するのは、ちゃんと本気で向き合おうとしてるからやと思うよ。けいちゃんがそう思える人に出会えたこと、ママは嬉しい」
「ママ……」
私は思わず視線を落とした。
そのあと、他の女の子たちも出勤してきて、今日はなんだかみんな優しかった。 無言でドリンクのグラスを準備してくれて、アイロンがけまで代わってくれて、ひとつひとつの所作が「ありがとう」でできているみたいだった。
営業開始の時間が近づくと、カウンターにはちょっとした装飾が施されていて、私の似顔絵が描かれた手描きの色紙まで用意されていた。
「な、なにこれ!めっちゃ恥ずかしい!」
「照れるのは最後だけでええねん」
ママがからかうように言って、でもその目はどこか潤んでいた。
「けいちゃん、自分のために決めたことやから、胸張っていっておいで」
「うん。ありがとうみんな」
営業が始まっても、どこかほんのりと温かい空気が店内に流れていた。
私は、いつものように笑って、冗談を言って、お客さんと楽しく話した。
でも心の奥では、ひとつひとつの言葉が、会話が、景色が、全部最後になるんやなと思っていた。
——最後の指名が終わったのは、閉店間際だった。
「今日で最後なん?さみしくなるなぁ」
お客さんのそんなひとことに、私はは笑いながら頭を下げた。
「ほんまに、ありがとうございました」
営業終了後、スタッフみんなが集まってくれて、簡単な乾杯と、小さなケーキが出てきた。
「けいちゃん、お疲れさま」
その言葉に、こらえていたものがふいにこぼれてしまいそうになる。
「うぅ、泣かへんって思ってたのに……」
「泣いてもええよ。今日くらい」
ママが言ってくれたそのひとことで、私は涙を拭いながら笑った。
——帰り道、Moonを出たとき、街灯の下にようさんが立っていた。
「ようさん!」
「おつかれさま」
彼はいつもと変わらぬ、でもどこかやわらかな表情で小さく頭を下げた。
「なんでおるん?」
「最後の日やし、迎えに行こうかなって。……嫌やった?」
「ううん。嬉しい」
二人で並んで歩き出す。
夜の街は少し肌寒く、小さく身震いした。
「明日から新しい生活やな」
ようさんの言葉は、静かに胸に響く。
「うん。怖いけど、楽しみやねん」
私はは、そう言いながら彼の手をぎゅっと握った。
ようさんも、ぎゅっと握り返してくれる。
「一緒にがんばろ」
「うん。一緒に」
ふたりの足音が、静かな夜道に吸い込まれていった。 そしてその背中は、これからの未来を、確かに照らしていた。